サイエンスⅡ研究室訪問

 

 サイエンスⅡ(理系)では、最先端の科学を体験しつつ、各自が設定したテーマの下、大学や研究機関との密接な連携による継続的な探究活動を進めていきます。自然科学に造詣が深く主体的に研究を進めようとする態度を身につけ、将来研究者となる基礎を育成することを目的としています。
 以下は、夏休みに行われた研究室訪問の様子です。

日時: 2009年7月30日(木)~8月12日(水)
場所: 京都大学化学研究所、京都工芸繊維大学、京都府立大学
対象生徒:2学年普通科中高一貫コース(理系)

 

京都大学化学研究所

 

横尾俊信 教授 研究室

テーマ:ガラスの作製を通して化学物質にふれ、遷移金属酸化物による着色の原理を体験的に学ぶ 

  訪問研修の最初に、横尾先生を含めて先生方からガラスの着色に関する講義をしていただきました。その後、とんぼ玉を作製してガラスに触れ、実験の基本操作を身につけました。かんざしや装飾品などに使われるとんぼ玉を作るのにやや苦戦をしていたようですが、出来上がったものの美しさや作る楽しさを充分味わったのではないかと思います。翌日より、いよいよホウ酸塩ガラスの作製が始まりました。訪問研修前の事前学習での原材料物質の計算方法に基づき、各自で成分の異なる着色ガラスの作製です。Na2CO3、H3BO3をベースにして、Co2+やMn2+などの不純物を混ぜ、高温の電気炉を用いて自らの手で作業を行いました。電気炉の扉を開けるとあまりの輻射熱の強さに驚いたようですが、作業も進んでいくと慣れた手つきで行っていました。作製した着色ガラスの評価を行うため、分光光度計で吸光度を測定しました。最初は、ガラス表面の凹凸が激しく、予想通りのチャートが得られなかったのですが、表面を磨き液体を付けて滑らかにし、余分な散乱を防ぐことでよりよい結果が得られました。最終日は、今回の研修の成果をパワーポイントにまとめて発表し、先生方から御助言をいただきました。着色のメカニズムは難しかったようですが、今回のような体験を通して着色の原理を学べる機会が得られたことは、大いなる財産となったと思います。

梅田真郷 教授 研究室

テーマ:「Temperature - Size Rule」を検証する

 大航海と探検の時代から間もなく、生物学者は「近縁種間で比較すると,寒いところに生息する生物ほど体のサイズが大きい」という経験則を見出しました。それはヒトからハエにいたる広範な動物に当てはまる傾向なのですが,なんということか,現在に至ってもそれはなぜなのか,あるいは本当なのか確かめられていません。その謎の解明を目指して,洛北高校生は酵母菌をモデル生物とした培養実験に取り組みました。酵母を飼って大きさ測って終了,楽そうだ。と思ったら大間違い。梅田チームでは,さまざまな実験操作を習うだけでなく,いつでも考えることを求められるのです。酵母のサイズを「どうやって」「いつ」測る?そもそも「サイズ」ってどう決める?サイズが「どのように」「どれだけ」変動していたら「検証できる」?それぞれに決まった解答はあるのかないのか?生徒達は連日かなり疲れた様子でしたから,終わってヤレヤレだったでしょうか。いやそれどころか,追試のために再び梅田研究室に押し掛けたいそうです。

金谷利治 教授 研究室

テーマ:鉄より強い高分子 -高分子の高次構造-

 初日の開講式では金谷先生から、三大材料の一つとして高分子材料があり、他のセラミック材料や金属材料と比べると歴史が新しく、まだまだ多くの可能性を秘めた魅力的な素材であることや、高分子の高次構造についての詳細な講義を受けました。午後からの実習では、針金(鉄)、釣り糸(ナイロン)、合成繊維(ザイロン)の3種類の材料の破断強度を測定し、「鉄より強い高分子」であるザイロンの驚異的な強さに一段と興味関心も強くなりました。その強さの秘密はどこにあるのか?の問いに答えるため、「配向性」をキーワードとして様々な実験を行いました。最初にレーザー光による回折実験を通して原理を学び、偏光板を用いた光の偏光と高分子材料による複屈折を調べる実験、さらには波長の短いX線による回折実験等から高分子材料がどのような方向に配向しているかを知ることができることを学習しました。最後に高分子の結晶化実験として、生分解性プラスチックでもあるPHB(ポリヒドロキシブチレート)を用いて、溶融状態から種々の温度にジャンプさせ、結晶化の様子を顕微鏡により観察・撮影して分析し、温度と結晶化速度の関係を考察しました。結晶化する様子は大変美しく芸術的であり、神秘的でもありました。最終日には、研修の成果を互いに発表し合いました。短時間ではありましたが、各自が理解した範囲で説明を行い、多くの質問や改善点もご指摘いただき全日程を終えました。大変お忙しい中、実験だけでなく近隣の施設なども案内していただき、研究者の方と直接ふれあう機会を多くとっていただくなど生徒にとっては大学での研究がより身近に感じられ有意義な研修になったと思います。

 

京都大学化学研究所-2

 

島川祐一 教授 研究室

テーマ:無機機能性材料の合成と評価

 無機機能性材料の1つとして超伝導酸化物を取り上げ、Y123とBi2223の2種類の酸化物を作製して、それぞれが超伝導となることを確認しました。それぞれの合成に必要な原材料を秤量し、これを丁寧にすりつぶしてペレット状に成形したものを仮焼、本焼と行い試料を作製しました。出来上がった試料は、四端子法など用いて電気抵抗がゼロとなることと、磁化率の測定からマイスナー効果を示すことを確認しました。また、液体窒素を用いてマイスナー効果によって磁石の上で超伝導体が浮上することも実際に確認できました。超伝導現象がなぜ起こるのかを理解することは高校生にとってはまだ難しいですが、自らの手で実際に超伝導酸化物を作製して性能を評価したり、超伝導技術がどのような部分で応用できるかなどについて考えてみるなど、研究の一端を知る大変よい機会となったと思います。オリエンテーションでは、研究姿勢や大学生活にも話が及び、生徒からも大学でどのような研究が実際に行われているのかについて体感することができ、とても有意義であったとの感想が多く、進路選択も含めて今後の高校生活の中で今回の経験を活かしてほしいと感じました。

倉田博基 准教授 研究室

テーマ:透過電子顕微鏡で結晶の構造を探求しよう

 研修初日は、倉田先生から実習のガイダンスと結晶構造についての講義がありました。食塩やシリコンなどの単結晶を観察し、繰り返し単位である単位格子について学習しました。次に、光による回折・干渉として「ヤングの二重スリット実験」を取り上げられ、一定波長の光では回折パターン間隔がスリット間隔(原子間隔に相当)に反比例する関係があり、回折パターンの情報から原子配列の情報が得られることがわかりました。電子顕微鏡による回折実験では、光よりも波長の小さい電子を使い、Auの単結晶を基準にペロブスカイト型構造であるSrTiO3単結晶の単位格子の格子定数aの測定を行いました。実測値と理論値は、ほぼ一致したことで電子による回折の原理を効果的に学ぶことが出来ました。最後に、生徒自らSTEM(走査型透過電子顕微鏡)を操作させていただき、SrTiO3単結晶の原子配列を観察しました。得られた回折パターンをフーリエ変換すると実像となり、実像をフーリエ変換すると回折パターンに戻ることを学習し、回折パターンのノイズを除去してフーリエ変換すると実像での原子の位置がシャープになることや、原子像の明るさは原子番号に比例することからSrとTiの違いがわかることなどノウハウを詳細に教えていただきました。原子配列を考える上で欠かすことのできない電子顕微鏡に直接触れる貴重な体験を通して原理を学習することができたと思います。

 

京都工芸繊維大学

 

櫻井伸一 准教授 研究室

テーマ:身近な高分子材料の不思議を探る

 2009年の8月3日から7日にかけて、京都工芸繊維大学の櫻井伸一先生の研究室へ、身近な高分子材料を研究テーマにして、研究室訪問を行いました。

1日目は導入のための実験を行いました。偏光板を用いてCDケースやセロテープの光学的性質を調べたり、スライムを作ったり、液体窒素を用いてカプセルボールや輪ゴムを冷却したり等、楽しい実験をしました。

 2日目と3日目は、本格的な実験を始めました。応力の値を電圧の数値として測定する特殊な引張装置を用いて、輪ゴムの応力とひずみの長さの関係を調べたり、輪ゴムをトルエンで膨潤させる実験を行いました。

 4日目と5日目は、2日目と3日目に考えた実験を行う自由研究を行いました。スライムを様々な濃度でグラニュー糖を加えて作り、粘度の変化を調べたり、スライムを加熱し、ワイセンベルグ効果によるスライムの這い上がりの高さの変化を調べました。誰もやったことがないテーマなので大変でしたが、とてもやりがいを感じました。

 研究室の方々には、研究やそれ以外でも本当にお世話になりました。一生忘れられない、とても貴重な経験になりました。

川瀬徳三 教授 研究室

テーマ:身近な界面現象を制御する界面活性剤

 私たちは界面活性剤について学習しました。研究室訪問先が決まった時は界面活性剤=洗剤というイメージしかありませんでしたが、研究室訪問を終え、界面活性剤を使ったさまざまな実験をするなかで、その働きについてよく理解することができました。

 事前学習で調べたコロイドについても、はじめは界面活性剤とどう関係しているのか、わかりませんでしたが、普通なら混ざり合わないような液体と固体が界面活性剤が作るミセルによって固体が液体の中に分散し、コロイド溶液になることがわかりました。研究室訪問では見たことのない実験器具を使い、講義、実験、考察の繰り返しで5日間があっという間に過ぎてしまいました。充実した5日間でした。学んだことを活かして発表に取り組みたいと思います。

浦川宏 教授 研究室

テーマ:染織の伝統工芸と染色技術-伝統藍染から染料分子シミュレーションまで-

 私たちの班は、京都工芸繊維大学の浦川先生の研究室に訪問させていただきました。事前学習の段階では、具体的に何を調べてよいのかわからず、悩みましたが、「染色」に関する基本的な事項を4人がそれぞれ調べてきて共有しようということになりました。

 研究室では、まず基礎となる知識を講義で教えていただきました。そして染色した布帛をプラズマ処理という世界で初めての方法で固着させることができるか、従来の方法と比較しながら実験を行いました。

 何度もサンプルを作っては失敗を繰り返し、条件を変えたり、工夫を加えて、苦労はしましたが、プラズマ処理に関して一定の成果をあげることができました。先生や大学院生の方々はとても丁寧に指導をしてくださり、充実していて、楽しい時間を過ごすことができました。

 またプラズマを発生させる装置、測色計など、普段は見ることのできない機械を使って実験ができ、とてもよい経験ができました。

 

京都工芸繊維大学-2

 

猿山靖夫 教授 研究室

テーマ:物質と熱

 僕たちの班は研究室で物質と熱の関係について4種類の実験をしました。

一日目は、いろいろな濃度の味噌水溶液を作り、それを温めたときの温度の変化の違いを調べました。研究室訪問初日のため、少し緊張していましたが、猿山先生にわかりやすく教えていただき次第に緊張もほぐれ、楽しく実験することができました。水と味噌の量を測りとり、温度変化を時間ごとに測定するという簡単な実験でした。二日目は、水とエタノールを混合比を変え、それぞれについて混合熱と密度を測定しするものでした。時間はかかりましたが、4つの実験のうちでもっともうまくいきました。

 三日目は、視差走査熱量計(DSC)という装置を使いポリエチレンテレフタレートの状態変化に伴う吸発熱を調べました。

 四日目は、コンピューターを使い温度が変わると原子はどのような動きをするのかシミュレーションをしました。五日目は、この四日間の成果をまとめて発表をしました。

 実験を計画するときは、細心の注意をしなければ信頼できる結果は得られないし、データの解析をするときは、いろんな発想を持たないといけないことを学びました。大学の教授、大学院生の方々に親切に教えていただき、楽しく実験ができました。この研究室訪問は有意義で、とてもよい経験になりました。

石原孝 教授 研究室

テーマ:有機合成の実際-如何にしてエステルを効率良く作るか?酸触媒によるエステル化反応及び合成した化合物の機器分析による構造決定

 最初は石原先生から、エステルの定義についての講義と今回行うFischerのエステル化反応についての原理を説明していただきました。研修の目的として如何にしてエステルを効率よく合成するかについての条件を「ルシャトリエの原理」に基づき決定しました。同時にTAとして御指導いただいた院生の方の実験も見学させていただき、将来の自分たちの姿を重ね合わせていたのではないかと思います。翌日より各自で異なる条件でエステルを合成し、生成を確認するための方法として、IRスペクトルやNMR分光法を用いた機器分析による構造決定の学習をしました。その後、実際に合成したエステルの収率を測定するために抽出・乾燥・濃縮を行い、カラムクロマトグラフィーで分離精製しました。生成したフッ素化合物のエステルである安息香酸2,2,2-トリフルオロエチルについてF-NMRも用いて収率を測定し、効率よくエステルを合成する条件を確認しました。実験が予想された収率と異なる結果となった生徒もいましたが、操作も含めなぜそのような結果になったかを考察することの重要性も認識できたのではないかと思います。最後に、互いの実験結果を持ち寄って分析・評価し、先生方から御助言をいただきました。その中で、レポートを作成する際にはストーリーが必要であるというお話を伺い、何を伝えたいのかを明確に表現する必要があることを学習して研修を終えました。

 

京都府立大学

 

佐藤雅彦 准教授 研究室

テーマ:生きた細胞のなかを見てみよう!

  生物は細部まで実にうまくできているのですが,相当多くの役者が登場するかなり複雑なシステムで,高校の生命科学Ⅰではさらりとしか紹介しません。細胞生物学の前線ははるか彼方に霞んでいます。ですから,佐藤チームの生徒たちは「自分たちは何をしているのか」理解するのにずいぶん苦労したようでした。「くたくたです」と生徒がこぼすので心配でしたが「でもすごく充実した疲労なんですよね」と彼は続けるのでした。シロイヌナズナの「ある遺伝子」をPCRで増幅した後,GFPを組み込んだプラスミドベクターにつなげ,プラスミドを大腸菌に導入して増やします。単離したプラスミドをパーティクルガンでタマネギの表皮細胞に打ち込むと,発現したタンパク質は細胞内の決まった場所に輸送されて,そこでGFPの蛍光を観察することができます。これで,その遺伝子の細胞内での役割が考察できるという実験です。5日間,目一杯の内容でした。スタッフやTAをはじめ,暖かく迎えてくださった大学院生の皆さんにも感謝の気持ちで一杯です。

大迫敬義 講師 研究室

テーマ:水田雑草の遺伝的変異と除草剤抵抗性

 大迫チームはどういう巡り合わせか,女子のみ3人だったのです。大迫先生によると初日は嵯峨野の水田へ雑草(イヌホタルイ)のサンプリングに出かける,ということだったので,引率教員として実は密かに心配していました。彼女たちはアウトドア派ではどうもなさそうだし、当日はこれ以上無いくらい夏らしい日でしたし、音をあげるかと怖れたのです。しかし採集から帰った一行を出迎えてみると,彼女たちは嬉々とした様子で雑草を選別していました。何やら楽しそうに水田の話をしています。手も忙しく動かして,選別の方法について、大迫先生に真面目な顔で質問を繰り返しています。次の日からは一転ラボワークとなり,マイクロサテライトマーカーによって採集場所による遺伝的変異を検討するとともに,除草剤抵抗性の違いを検定する作業が始まりました。ここでも3人は,変わらず熱心に楽しそうに作業に取り組み,それが天にも通じたか,すべての実験が見事成功しました。大迫先生から「充実した5日間でした」のお言葉をいただきました。

塚本康浩 教授 研究室

テーマ:ダチョウを用いた実践的研究

 それはインフルエンザの流行がもとなので喜ばしいとは言えないのかも知れませんが,ダチョウの卵から生産したインフルエンザ抗体マスクの開発者である塚本先生は現在,時の人となられています。それゆえ塚本研究室を訪問研修先に選択した生徒らは,きっと将来の日本を背負って立つ医学者,生物学者たらんと燃えているに違いありません。「ダチョウを触ってみたいので」「ダチョウ牧場に行くんです」「もちろん抗体の研究にも興味ありますけど」。違う期待に目が輝いていました。研究室で白衣を着るだけが生物学ではありません。生物学者はフィールドを目指す。生物学に他とは違う独特の風味を与え,生物学を生物学たらしめている重要な研究活動。それがフィールドワーク(野外調査)です。1日だけでしたが,ダチョウ牧場で採血など本物のダチョウとの格闘を体験した後は,ラボにこもって抗原抗体反応の実習です。面白かった?と最後に訊くと「ダチョウに乗りました」と返答がありました。得難い5日間であったと思います。

 
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