学校生活School Life
こんにちは!
いよいよ本格的な冬がやってきましたね。
京丹後に来てから3回目の冬を迎えることになりますが、
いまだに"うらにし"の気候に
慣れません...。今年も沢山雪が降るのでしょうか...。
今ドキドキ毎日を過ごしています。
さて、今回の記事は2年生の探究で
「京丹後市民の声からこの地域の今後の可能性を探る」ことを
目的に活動に取り組んでいる生徒たちについて紹介します。
***
「僕たちは元々京丹後市の人口を将来的に増やすためには?という
テーマで活動を始めたんです。
そのために外から来る人を増やすためにどうしたら良いか、
ということに焦点を当てていました。」
そう話してくれたのは、このチームを率いるリーダー。
京丹後市の人口は減り続けている。
このまま高齢化が進み、若者が出ていくという流れに
歯止めをかけることが出来なければいつか町が
消滅してしまうかもしれない...。
そんな危機感を同じように抱いた高校生たちが集い、活動が始まりました。
ところが、実際に活動を始めてみると少し方向性が変わっていきます。
"人口減少"
それは京丹後市だけが抱える問題ではないことが分かってきます。
「そこで発想を転換して、人口減少していくことは前提として、
京丹後市の外側ではなく、内側に視点を当ててみることにしたんです。
市民の幸福度が高ければ、必然的にこの町に住み続けたい、と思う。
それって結果的にこの地域の持続可能性に繋がっていると思うんですよ。」
そして彼らはさらに考えます。
今京丹後市で生活することが幸せだ、と感じている人たちが
なぜそう考えているのか、その人の「幸福感」を探ることで
この地域における可能性を見い出せるのではないか、と。
彼らは京丹後市で暮らすことで得られる幸福とは何かを調査するため、
実際に複数の人々にヒアリングをすることにしました。
目を向けたのは、IUターンの人です。
京丹後出身で一度外へ出たけれど、
戻ってきて今ここで生活を営んでいる人、
色々な選択肢があった中で京丹後市を選んで移り住んできた人。
こういった人たちは、何か京丹後に魅力を感じているからこそ
ここで暮らしているはず。
まず始めにお話を伺ったのは、
株式会社ゆうホールディングスゆう薬局グループで
京都北部の店舗をとりまとめている船戸一晴さん。
何と船戸さんは本業が薬剤師でありながら、
趣味が高じてDJやラジオパーソナリティも務めるタレント性に溢れた存在。
肩書きがありすぎて、この方は一体何者なのだろう!?と
話を聞く前から興奮する高校生たち。
ゆう薬局弥栄店の様子。
〈船戸さんへのヒアリング〉
「船戸さんは、京丹後ご出身なんですね。
しかも峰山高校の卒業生!先輩だ。」
「そうそう。峰高の軽音楽部出身です。当時から音楽や文学が好きでした。」
船戸さんは、大学進学を機に京丹後市を出て卒業後は
薬剤師としてゆう薬局に就職。
京都市内の店舗で数年間働いておられました。
「いずれ地元に戻ろうと考えておられましたか?」
「実は僕の場合、色々と事情があってどこかのタイミングでは
地元に戻らないといけなくなることが初めから分かっていたんです。
正直ネガティブな気持ちを抱いていましたね。
都市部に出ると地方にはない尖った本屋があったり、
時間を気にせずご飯や屋さんを巡ったり、
お気に入りの映画を沢山放映してくれる
センスの良い映画館があったり...と、やっぱり楽しくて。
いずれこの生活を手放さなければいけないのか...、と
気持ちが落ち込む時はありありました(笑)」
ゆう薬局が新たに京丹後市に店舗を出すタイミングで
船戸さんは地元に戻ってこられました。
初めこそマイナスな思いを抱えての帰郷だったようですが、
ある出来事が転機のきっかけになったそうです。
「高校時代の友人がFMたんごで働いていたのですが、
文化紹介のコーナーで音楽や本についておすすめのものを
紹介してくれないか、と頼まれたんです。
カルチャーが好きだとは話していましたが、まさかこんな風に
ラジオで話すことになるとは思ってもいませんでした。
さらにこれがきっかけとなって、新しい繋がりが生まれることになるんです。
ラジオを聞いてくれていたとある書店のオーナーが
僕の話を面白がってくれて、ぜひお店の一角に
僕のオススメ本のコーナーを作ろう、と持ちかけてくれて。
都市部だったらきっとこんなことは起きなかった」
「それはすごいですね!ではこちらに戻って来られてから、
徐々に地元が楽しいな、と思うようになったのですね。
因みに船戸さんは丹後のどんなところが好きだと感じますか?」
「そうですね。この地域は、何か新しいことに挑戦したいと
思ったときにその想いを寛容に受け入れて、一緒に面白がり、
応援してくれる気質があると感じています。
僕も気がつけばこうして色々と好きなことを自由に
やらせてもらってるんですけど、こんなことが好きだ、とか、
あんなこと出来たら楽しそう、みたいなことを話していたら、
それ面白そうだから一緒にやろう!とか、それやったら○○さん紹介するよ!という風にどんどん繋がっていく。
広い心で受け入れてくれる人が地域に沢山いることで
救われている部分が多くあるな、と思います」
また船戸さんは、都会ほどに充実していないところが
逆にこの地域の良いところでもあると捉えています。
「今はご時世的に難しいですけど、こんな状況になる前までは
地元の何人かの人たちが中心になって大々的に
ハロウィンパーティーなんかを開催していたんです。あの、アピアで。
都会みたいにクラブのような施設がないから、
ないんやったら自分達で作っちゃおう、と。
物理的に存在しないからこそ、自分達で考えて
好きなように工夫出来る余地がある。僕はそこでDJをしました(笑)
それぞれの得意分野を持ち寄って、作り上げていく過程が
とても楽しかったです。
それに何か一つでも得意分野があるとその見せ場は地域の方が
圧倒的に多いんじゃないかな。人が少ないからこそ競争率も低い。
活躍できる機会が沢山あるよ!」
無いからこそ、作る。この発想は確かに面白い。
「では逆に京丹後市が不便だな、と感じる部分はどんなところでしょうか?」
「そうですねー、やっぱりちょっとマニアックアな書籍や映画が
好きな者としては都市部では手に入るものがこちらでは入らない、というところはちょっと不便に思うかな。
後はお酒を飲むと帰れない問題(笑)
奥さんと交代で運転するようにしています」
「なるほど。では京丹後市にあったら良いな、と思うものはありますか?」
「映画館や本屋、楽器店なんかは欲しいと思うね。
文化的なものを継承していくことも大切ですよね。
スポーツとかもそうですけど、そういうものって人生を
豊かにしてくれるものだから。
だけど音楽やスポーツをする人口が縮小すれば、
文化的施設が地域に定着するのは中々難しい...。
少ない人数でもどうやって維持していくのか、という体制を
考えていく必要はあるかもしれないね」
「確かに。僕もテニス部なんですが、人数がすごく少ないんです。
廃部と背中合わせな訳ですから、常に危機意識があります...。」
そうだね、少子化問題を最も深刻に感じるのは
自分が取り組んでいるものをやっている人口が格段に少ないと
実感する時かもしれないね。
さぁ、ここからが高校生達が一番聞きたいと思っている質問。
そう、幸福感について。
「船戸さんの生きがいや、幸せに感じることについて教えてください。
実際に京丹後市で生活をされていてどうですか?」
「まずはこうして仕事ができて、好きなことができる環境に
幸せを感じています。実は僕は幼い頃、小児喘息に悩まされてきました。
それが原因でよく入退院を繰り返していて、自然に医療従事者の方に
目がいくようになりました。その時の自分は、まさかこんなにどっぷり
地域医療に関わることなど想像していなかったのですが、
進路を考える際に一番に浮かんだのは、自分がしんどかった時に
支えてくれた医療従事者の人たちの姿。
そして丹後に戻ってきて、こうして地域医療に関わることでその可能性、
面白さを理解するようになりました。
薬局がもっと開いた場所であったなら、例えば気軽に買い物に行く、
映画館に行くのと同じような感覚で薬局に通ってもらう。
気軽に健康相談ができたり、何気なく不安な気持ちを吐き出せたり、
特に身体の不調がなくてもちょっとあの人の顔見に行こかな、という
関係性が地域の中にできると何かあった時に異変に早く気づきやすくなる。
あれ、あの人最近見ないなぁ、というように。
後は最近、DJとして福祉のイベントに参加させてもらったんですけど、
すごく面白かった。普段はあまり交わらない線が
音楽を通して新たな関係性が編まれていく瞬間に立ち会えた。
地域にがっつり浸かっているからこそ、
日々新しい出会いと発見があって毎日が新鮮です」
「素敵ですね。毎日充実しているのが伝わってきます。
人が少ないからこそ顔の見える関係作りができるんですね。
好きなことで新しい出会いを引き寄せているのも良いな、と思います!」
「ありがとうございます! 毎日楽しいですよ!」
「では、最後に何か船戸さんから高校生に伝えたいことはありますか?」
「好きだな、これをしているときは自分らしくいれるな、心地良いな。
そう思えるものを大事にしてほしい。自分が大事にしていることを大切に。
目の前の課題をこなしたりすることで忙しい日々を送っていると思うけど、
自分自身がどうありたいか、どう過ごしたいのかを一度考える時間を
持てたら良いね。
どんなことでも良い。好きなものや楽しい、面白いと思えるものが
一つでもあれば、大丈夫なんじゃないかって僕は思います。
いつの時代も好きなものを語っている人の姿は生き生きしていて、
かっこいい。
そしてそういったことを語らい合えたり、
共有できる関係性が地域にあること。
これからも京丹後市には緩やかに誰かが繋がっているという地域で
あってほしいと思っています。
多世代の人たちが緩やかに繋がれる場所や環境、
機会がある地域は健全ですから。
だから、いま皆さんがやっている探究の授業はすごく良い時間ですよ。
応援しています、頑張って下さいね!」
何と素敵な応援メッセージ。
高校生たちも身を乗り出して、夢中になって聞いていました。
このあと、せっかく薬局まで足を運んでくれたから、と
現場案内までしてくださいました。
貴重な社会見学。
薬局に新しく導入されている機械のことや、薬剤師の仕事、
地域医療における薬局の役割など様々なお話をお聞かせ頂きました。
濃厚な1時間はあっという間に過ぎ去ったのでした。
船戸さん、本当にありがとうございました!!
みなさん、こんにちは!
さぁ、アートチームの物語もいよいよ佳境に入ります。
これまで様々な人たちの協力のもと、作品作り本番まで
着々と準備を進めて来ましたが、
ここからはついに作品が完成に至るまでをご覧ください。
※前の記事は以下からお読み下さい。
***
この取組を始めた当初からアートチームのメンバー達が
口を揃えて言っていたこと。
それは「世代を問わず色々な人たちと一緒に一つの作品を作ってみたい」
ということ。
メンバー達が、最後に相談したのはデザイナー兼アーティストの
余根田直樹さん。
余根田さんは前回の記事でも紹介した三津漁港の
アートプロジェクトメンバーの一人でもあり、
「虹色のタペストリー」作りのワークショップで講師役を務めておられます。
それ以外にも海に流れ着いた流木を使ったアート作品作りに挑戦したり、
美しいシーグラスを使った絵を描くワークショップを主催されています。
正にワークショップのプロ!
本番までの最終の段取りをどのように組むのか、
またワークショップの進行について実現可能な形を
考えるのにアドバイスをいただきました。
「みんなは作品のモチーフとして、お祭りの様子を
描こうとしているんだよね。
メインの御神輿とそれを担ぐ人々だけど、
この細かい絵を全て海洋ゴミで作るのは正直難しいと思うんだよね。」
と余根田さん。
高校生達が考えていた絵の構図は、
海を背景にその中心で御神輿を担いだ人々が
賑やかにしている様子を描いたもの。
モザイクアートは基本的に壁一面といった大きな規模での作品には
向いているようですが、高校生達が考えている作品の規模感では
細かい表現が難しいようです。
その代案として余根田さんが教えてくれた手法が
「コラージュ」と「シャドーボックス」
コラージュとは、もともと「coller」というフランス語から
由来する言葉で、「のりで貼る」という意味。
写真や絵、文字などを新聞や雑誌などから切り抜いて、
これを画用紙や台詞に貼って一つの作品にするというものです。
シャドーボックスは、17世紀ヨーロッパで流行した
コラージュの技法の一つで、その後アメリカに渡り、
立体的に発展して出来たハンドクラフトのこと。
絵に描かれた模様や絵の切り抜きを貼って物の表面を飾り、
コーティング剤を塗り重ねていく工芸。
何層にも重ねるのでそのパーツは立体的に浮き上がって見えるのが特徴。
余根田さん曰く、作品の中心、つまりキーになる重要なパーツ
(ここでは神輿や人々)はコラージュやシャドーボックスのような形で
作成し、背景を海洋ゴミで埋めていくのが最も現実的で
きれいに仕上がるだろう、とのこと。
よし、これで作り方の方向性は決まりました。
次に一緒に考えたのはワークショップの方法。
色々な案が出てきたのですが、最終的に最も良さそうと判断したのが、
ライブパフォーマンス形式にするといったもの。
メインの部分は予めこちらで作っておくが、
あえて背景は空白のままにしておく。
その未完成の状態の作品を当日丹後万博の会場に持ちこんで、
参加者や見学者に完成までを手伝ってもらう。
このやり方であれば、色々な人を巻き込めるし、
コミュニケーションも生まれやすい。
手伝ってもらう中で自分達が見てきた海の現状や
出会ってきた素敵な地域の人々のことなどについても紹介できる。
これはすごく良いアイディアです。
***
そして来る10月30日。
丹後万博へいざ、出陣!!
朝早くから作品を搬入し、最終チェック。
参加者の貼る作業をやりやすくするため海洋ゴミは色分けをして並べます。
作品はご覧の通り、朝の時点では真ん中以外は
ほぼ何も埋まっていない状態。
果たして丹後万博が閉会するまでに
無事に完成までもっていくことができるのでしょうか。
少し不安そうな表情を浮かべつつも、
ここまで来たらもうやるしかありません。
高校生達は自分達でも背景を埋める作業を行いつつ、
人が通ったら勇気を出して声をかけます。
「私達は今海ごみを使ってアート作品を作っています!
ぜひみなさんと一緒に作りたたいと考えています。
ご協力お願いいたします!!」
そうこうしているうちに一人、また一人と人が集まってきました。
「この子たちは一体何をしているんじゃ...?」という風に
興味を引かれて見に来られたのです。
これがライブパフォーマンスの効果...!!
ですが一つ問題がありました。
それは、会場の場所があまり良くないということ。
始めアートチームの出展場所として決められていた場所は屋内スペースで、建物自体もメインストリートからは少し離れた奥まったところにあり、そこまで足を運ぼうとする来場者が少ない傾向にあったのです。
そこでもう少し人通りのある場所まで作品を持っていって、そこでライブパフォーマンスをやってみよう!ということに。
移動先は、中央広場とメインストリートが結ばれる地点、
つまり最も目立つ場所です。
そこで来場者の方に声をかけつつ、
自分たちで海洋ゴミを貼り付ける作業を続けていると
「何をしているの?」「あ、これは海洋ゴミ?」「何だかきれいな色ねぇ」と興味深そうに足を止めて見てくれる人がどんどんと増えていきます。
親子で一緒に。
高校生たち。
海外の方。
おばあさん達。
これまでにお世話になった地域の方も見に来てくださりました!
あるときはこんな会話が交わされていました。
「このゴミは自分らで拾ってきたんか?」
「はい。ビーチクリーンに参加しました。
あと、一部はビーチクリーンをしている人たちから譲り受けたものもあります」
「ほお、すごいねぇ」
またあるときはこんな会話も。
「醤油さしもあるよ!」
「こっちは何か分からんけど大きい物体やなぁ」
「このキャップ、外国語が書いてある!」
「海は繋がっているから、海外で捨てられたゴミは海を渡って
日本にも流れつくんだよ」
万博開幕時にはほぼ真っ白だった背景が、
みるみるうちにカラフルな色で埋めつくされていく...。
目の前で繰り広げられるそんな光景を眺めながら、
思い出したのはアートチームのメンバーたちが活動を始めた当初に
口にしていたこと。
「老若男女問わず、色々な人たちと一緒に作品作りがしたい」
「アート作品を作ることを通して、
身近な社会問題に関心を持つ入り口にしてもらいたい」
今起こっているこの光景こそ、見たかった景色。
紆余曲折ありながらも沢山の人たちの協力を得て、
どうにかここまで走ってきた高校生たち。
言葉にならない感動が全身を駆け巡り、熱くなる。
そして完成した作品。
タイトルは「祭り」
何と鮮やかなことでしょう。
総勢100名近くの人々の手で作り上げた作品。
改めて関わっていただいた全ての人に感謝の気持ちを。
本当にありがとうございました。
そしてアートチームのみなさん。
本当にお疲れ様でした。
***
ここで一旦、作品が完成するまでの物語は終了します。
ここに至るまで記事をお読みいただいたみなさん、ありがとうございました。
アートチームの物語は完結しますが、高校生たちのこれからは続いていきます。
きっとこれまでにしんどいと感じたこと、できないと思ったこともあったと思います。
それでも彼・彼女達は途中で投げだしませんでした。
限られた時間の中で、何とかできることを形にしました。
取組を通して得た経験は、彼・彼女達の未来を照らしてくれるでしょう。
高校生たちの未来のキャンパスに、これからどんな絵が描かれるのでしょうか。
ワクワクしながら、それを見守っていきたいと思います。
みなさん、こんにちは!
地域コーディネーターの能勢です。
アートチームの探究活動について連続投稿しておりますが、もうしばらく
お付き合いいただきますようお願いいたします。
※過去の記事は以下のリンクからご覧ください!
今回の記事は、作品を丹後万博に出展するまでの出来事を綴っています。
******
夏休み期間、アートについてやイベントの企画・運営のやり方を学ぶために
あしたの畑の主催イベント「ECHO」にスタッフとして参加してくれていた高校生たち。
その体験と並行して進めていたのは、自分たちの作品について考えること。
休みの間にチームのみんなで集まって作戦会議を行いました。
「地域の人たちにはどんな体験をしてほしいのか」
「作品のコンセプトは何か」
「何を使って作るのか」
「予算はどれほどなのか」
「ワークショップはいつごろ実施するのか」
「誰に協力してもらうのか」
など話し合うべきことは沢山あります。
引き続きアートマネージャーの甲斐さんとroots相談員の稲本さんに
お世話になりながら、丹後万博までにやるべきことを洗い出し、段取りを組んでいきます。
話し合いの結果、「京丹後の祭り」をモチーフに作品を作ることになりました。
丹後万博のコンセプトは「つながり、つなげる」
過去から現在、そして未来へも繋いでいきたい私たちの地域が誇れるもの。
高校生たちが選んだのは、自然豊かな海と伝統あるお祭りでした。
では何を使って作品を作るのか。
それについては海洋ゴミを使いたい、という意見が出ました。
海水浴の季節になると、京丹後の美しい海が取り上げられて全国各地から多くの人が訪れます。
しかし夏が過ぎ去った後の海岸に行ってみると荒れ放題。
海岸には大量のごみが打ち上げられ、環境に大きな負荷を与えている光景が目前に広がっている。
今私たちができることは丹後の自然豊かな海の環境、美しい景観を守りそれを未来へと
手渡していくこと。
まずは自分たちで海へ足を運んで、現状を知ろう。
そしてゴミを拾い集めてこよう!
拾ったゴミをワークショップに使おうよ。
こんな風に話し合いは進んでいきました。
そして肝心の作品ですが、これはモザイクアートで表現することに。
拾ってきた海洋ゴミを大きめの板に貼り付けていき、遠くから見たときに一つの絵に
見える、という作品です。
そうと決まれば、早速材料を揃えよう!
ここで甲斐さんが耳よりの情報を教えてくださいました。
地域でこれから行われるビーチクリーンイベントやアートに関わるワークショップのスケジュールです。
メンバーそれぞれが都合の合う日程でイベントなどに参加し、必要なものを仕入れる段取りを
組みます。ここで甲斐さんや稲本さんから一つ提案が。
「せっかくビーチクリーンなどに参加するのであれば、そういった活動に力をいれている
地域の方々に直接お話を聞いたら良いんじゃないかな。
自分たちで活動することも大切だけど、地域には色々な課題意識をもって取組に励んでいる人々が
たくさんいる。例えば海洋ゴミの使い道を模索するためのビジネスを構築しようと奔走している人や
海洋ゴミ問題の現状を知ってもらうきっかけとしてのワークショップを企画している人など。
丹後万博の主旨は"持続可能な地域社会の在り方を考えるきっかけ"を提供したり、
変わりゆくものもある中で"残したいものたちをいかに次の世代に受け渡していくのかを
一緒に考えるための機会とする"ことだったよね。
作品作りを通して、みんなが学んできたことや地域の人々の取組について知ったことなんかを
伝えていくことができれば、その作品が持つ意味も違ってくる。
作品にメッセージ性を載せることで価値も生まれるよね。」
探究活動において大切なことは、「何のための活動か」を常に念頭に置いておくことです。
作品作りは手段であって、その体験を通して何を深めたいのか、どんなことを提供したいのか
目的をはっきりさせておく必要があります。
助言をもらったアートチームのメンバーたちは、八丁浜で実施されるビーチクリーンに参加するとともに
主催者である八隅 孝治さんにお話を伺うことにしました。
八隅さんは、海が大好きでお子さんと一緒によく海へと出かけているそうです。
日本海の美しさに感動した一方でゴミのあふれかえった海岸の風景に衝撃を受けたといいます。
その体験をきっかけに現在は、網野町中心にビーチクリーンの企画を立て、多くの地域住民を
巻き込みながらの環境保全活動に力を入れています。
八隅さんの企画するビーチクリーンの特徴は、必ず参加している子どもたち(とその保護者)に
向けて、海ゴミに関するお話をされることです。
この日も沢山の子どもたちが八隅さんの周りに集まり、身を乗り出しながらお話を聞いている姿を
見ることができました。
「ゴミを拾っておしまい、ではなくてどうしてこんなにゴミが流れついているのかであったり、
そのゴミ問題が今社会にどんな影響を与えているのか、もしそのまま放置していたらこの先
地球がどうなってしまうのか、などを知ってもらう、その輪を少しずつ広げていくことに
力を入れています。そうすることで、例えば今後子どもたちがプラスチック製品を購入する際に
これは本当に必要であるのか、であったり長持ちするのか、というようなことを考えて選択できる
きっかけになるかもしれない。日常生活の延長に自分ごととして社会課題を考えられる環境が
できると良いなぁ、と思いながら活動しています!」
また八隅さんは海ゴミの再利用化をビジネスとして体系づけることにもチャレンジしています。
「ビーチクリーンをし始めてから気づいたんですけど、新たな問題としてゴミの集積所のことが
あるんですね。拾ったはいいけれど、処分できる場所がない。
最近は環境問題などに関心のある高校生にも関わってもらいながら、海ゴミを再利用した
製品作りなどにも励んでいます。」
八隅さんの話を聞かせていただき、高校生たちは自分達が想定していた以上にゴミの問題は
根深く、また解決策は一つではない、その問題をどんな切り口で捉えるかによって
多様な関わり方があることに気がつきました。
「関わり方は色々あって良いんですよね。正解は一つではない。
あなたがその問題とどう向き合いたいのかが重要です。海ゴミ問題一つとっても
ゴミを拾うことも大事。現状を誰かに伝えることも大事。ゴミの再利用化を考えることも大事。
ビーチクリーンなどの企画を継続していくための地盤作りも大事。
またやっぱり資金作りの面も切り離せないんですよね。資金があれば継続もしやすいし、
できることの選択肢が広がる。今はビーチクリーンについては基本的にボランティア活動として
実施していますが、それをビジネスに変えていくことが今後の目標です。」
八隅さんのお話を聞かせていただいた後、次に向かったのは三津漁港。
三津漁港においても海ゴミ問題に課題意識をもって活動している人たちがいます。
ここで出会ったのは、澤 佳奈枝さんと奥野 由希さん。
お二人は、海洋ゴミを使ったアートプロジェクトやアートのワークショップの企画に携わっています。
この日は、最近三津で行われたという「三津のちいさな芸術祭 織りかえす波の音」というイベントに
ついてお話をお聞かせ頂きました。今回はイベントを開催するに当たって良かった体験のことを中心に
聞いていきます。
このイベントの中で実施されたアートのワークショップは「虹色のタペストリー」を作るというもの。
三津漁港に落ちているカラフルなゴミを拾い集めて、それらを虹色のグラデーションになるように
台紙に取り付けてタペストリーにします。
※これがそのワークショップで作ったという虹色のタペストリー
「今回ワークショップで使用する虹色のプラスチックゴミを集めるために参加者と一緒に
ビーチクリーンにも取り組んだのですが、清掃に入る前に色ごとにチームに分かれて
ゴミを拾ってもらったんです。赤、青、緑、紫、黄......といったように虹の7色で分かれていて、
自分のチームの色のゴミを拾ってもらいます。するとゴミ拾いにゲーム要素が加わって、
何だか宝探しみたい!と参加者が盛り上がっていたり、自分のチームとは異なる色のゴミを
見つけた時に○○色チームさん、見つけましたよ~!というように参加者同士のコミュニケーションが
生まれます。普段のビーチクリーンに異なる要素を少し加えるだけで、新しい動きが起こるということが
分かりました。何事においても楽しんでできることって大切ですよね。」
またワークショップについては、プラスチックゴミを貼り付ける台紙として、織物を生産する際に
使用する紋紙を用いたそう。これもまた新たな発見があったといいます。
「三津は実は織物産業も盛んであった地域。昔に比べると縮小してしまっていますが、
今でも機屋さんが残っていたりします。このワークショップで紋紙を用いたことで、
地域特有のものに触れてもらうことで、地域理解にも繋がっていく。これはとても良かったな、と
感じています。」
やはり作品作りにおいて何を使うのか、という点はとても重要そうです。
体験談は、とても参考になります。
高校生達は自分達がワークショップをする際にそこでどんな体験をしてもらいたいのかを
具体的にイメージすることができたようです。
そして今回三津まで訪れた理由がもう一つあります。
それは海洋ゴミを分けていただくということ。
アートチームの高校生たちが、地域の方達と一緒に海洋ゴミを使ったアート作品を作りたい、
という話を伝えたところ、何と三津のイベントで余った海洋ゴミを譲っていただけることになったのです。
モザイクアートということで、ある程度大きさのある作品になりそうで
材料となる海洋ゴミを必要な分だけ集められるのかどうか、少し懸念してたのですが
その心配が吹き飛ぶほどのゴミを譲っていただくことができました。
しかも虹色のワークショップ用に集めていたということなので、色もカラフルできれいなものが多く
高校生達が考えている作品にも十分に活かせそうです。
感謝の気持ちと、最後に作品作りに対する意気込みを述べて本日の任務は無事に終了。
本当にお疲れ様でした!
******
次回はいよいよ作品作りについての記事をアップする予定です。
もう少しだけお付き合いいただけますと幸いです!
みなさん、こんにちは!
地域コーディネーターの能勢です。
早速前回の記事の続きを。
2年生のアートに関心のある高校生たちの活動があの後どのように進んでいったのかについて、ご覧ください!
※前回の記事はこちらから
今回は夏休み中に彼・彼女たちがスタッフとして参加した"アートと食"のイベント「ECHO」での
様子をお届けいたします!!
****
「地域の人たちを巻き込んで一つの作品を作ってみたい」という想いから始まった
アートチームの探究活動。
ワークショップ経験のない高校生たちが、アートマネージャーの甲斐さんに相談を
持ちかけたところ、イベントの企画・運営の裏側を学べるのではないか、と
ご紹介いただいたのが、夏休み期間の1ヶ月間にわたって丹後と城崎で開催される
"アートと食"のイベント「ECHO」という催し物でした。
このイベントの主催は職種の異なる7人のアーティスト(料理人や建築家、写真家など)が
活動するあしたの畑さん。
丹後での会場となったのは、間人にある竹野神社。
竹野神社は9代目開化天皇の妃となった「竹野媛」が年老いて帰郷した後、
天照大神を祀って建てられたという由緒ある神社です。
ここに国内外から様々な分野のアーティストたちが集結し、この土地の風土や歴史、
まつわる伝説などから着想を得て作品を生み出します。
1ヶ月という長い期間、その土地ならではの魅力をたっぷりと味わえる大きな祭典です。
このイベントにぜひ高校生たちにも関わってほしいという運営側の思いもあり、
京丹後市にある3つの高校に声かけをしたところ、20名ほどの高校生が手を挙げてくれました!
峰山高校からはアートチームの高校生達の他、芸術や建築に興味のある高校生たちが参加しました。
イベント開催期間までは、説明会に参加してもらったり、実際に会場へ足を運んでもらいました。
そこでは、竹野神社の宮司さんから神社の歴史や神社と地域の関わりについてお話しを聞かせていただいたり、
実際に展示されている作品について作ったアーティストご本人からその作品の背景を教わったりしました。
(写真は宮司さんから竹野神社の歴史を教わっているシーン)
そしていよいよ、祭典が幕を開けます!
会場案内や作品の説明、舞台設営や料理人の調理補助などをお手伝いしました。
まず朝来たら、お客様が来られる前に会場の設営を。
ここでは食事が振る舞われるので、飲食ができるようにテントを張ります。
お客さんが来場したら接客をします。
その日に振る舞われる食事のメニューの説明や出展しているお店の案内などを
担当してもらいました!
大学生スタッフに見てもらいながら、一緒に会計作業も行います。
続いてこちらは、竹野神社境内にある図書の展示スペース「library」
竹野神社は室町時代に火災にあい、その際記録のほとんどは灰と化しました。
ですが江戸時代からの宮司の日誌は残っており、2000年続くこの神域の歴史を遡っていける
手立てが見つかりそうな希望を胸に竹野神社に残っていた書籍と今回のイベントのテーマに
即した現代の書籍をブックディレクターがキュレーションしました。
※キュレーション:情報を集め整理すること
会期中は誰でも閲覧することができ、ゆったり自然を感じながらひと時を過ごしていただく
スペースですが、この場所の説明や案内も高校生が行いました。
また普段は入ることのできない神域にアート作品がたくさん展示され、
イベント期間は神域を巡るツアーも実施されていたのですが、ここにも高校生たちが
参加し、宮司さんと共に参加者を案内したり作品説明をしたりしました。
ある日には雅楽の特別公演なども開催され、歴史ある伝統音楽を堪能する機会もありました。
そんな体験を通して高校生たちは、夏の1か月の間、個々で沢山の出会いをしました。
メディア取材の場に居合わせたり、作品を作ったアーティスト本人から作品ができるまでの
物語を聞かせて頂いたり、竹野神社の神域ツアーに参加したり。
その中でそれぞれ色々なことを感じ取ったと思います。
日を重ねるごとに高校生たちの表情には自信が見て取れ、竹野神社の歴史や伝説、
作品の背景などを自分の言葉で話せるようになっていました。
なんといっても、注目されたのはイベントの最後2日間に振る舞われる
高校生たちによるスペシャルメニュー。
弥栄町にある魚菜料理 縄屋の料理人吉岡さん監修のもと、3人の高校生が地元の食材を使った料理を考案。
丹後を感じてもらいたい、食べた人を笑顔にするような料理にしたい、という思いのもとで
最終的には「間人産白海老入りトマトソースのガレット」を振る舞うことに。
卵は伊根町の三野養鶏場さん、チーズは久美浜のミルク工房そらさんのものを使いました。
食べてもらう人にどんな体験をしてほしいのかをみんなで話し合ったり、
吉岡さんから調理場を借りて試作をしたりする中で、このメニューができました。
高校生だけでメニューを考え、当日の運営も自分たちで回していくのはとてもハードであったと思いますが、
みんなとても楽しそうに頑張っていました。
この1ヶ月間の体験を得て、高校生たちはそれぞれに色々なことを
感じ学び取っていたのではないかと思います。
説明会で初めて顔を合わせたときには、高校生たちはほとんど竹野神社のことを知りませんでした。
ですが1ヶ月後には、この神社の歴史や自然との関わりを自分の言葉で話せるようになっていたと思います。
1ヶ月という長い期間の間、よく頑張りました!
参加した高校生からはこんな声をもらいました。
*****
・他校の高校生のみならず、大学生スタッフとの交流の機会が持てたのがとてもよかった。
大学での学びについて聞くことができ、より具体的に今後のイメージが持てた。
・接客体験は楽しくもあり、チャレンジでもあった。
特にオリジナル料理をふるまったときは集客の大変さや予測して準備をすることの難しさも学んだ。
でもそれ以上に地元の料理人さんから旬の食材について教えてもらった体験や、
自分たちで考試行錯誤しながら考えたレシピを美味しいと言って目の前で食べてくれる人たちの
笑顔を見てとても充実感を味わった。
ぜひこういった企画があれば後輩にも体験してほしい。
・普段の生活では関わることのない様々な分野の「プロ」と関わる体験ができてよかった。
・地元であっても普段行くことがない場所だったので、
その土地の歴史や事前との関わりについてのお話を聞いて、改めて自分の地元について知る機会となった。
******
文化にどっぷりと浸った夏のひと時が、きっと高校生たちの人生を豊かにしていると願って。
みなさん、こんにちは!
地域コーディネーターの能勢です。
記事を書くのはとっても久しぶりなのですが、2学期に入ってから段々と探究活動が
動き始めたのでまた随時みなさまにその様子をシェアしていきたいと思います!
どうぞお付き合いいただけますと幸いです。
峰山高校では「総合的な探究の時間」、通称"いさなご探究"という授業があります。
メインで動き出すのは2年生。
1学期に興味関心のあるテーマを決めて、それについて理解を深めます。
その方法は様々。アンケート調査をしたり、地域の方へヒアリングやインタビューをしたり、
イベント企画などを実施する高校生たちもいます。
今年度の2年生は、全部で53のグループが出来ました。
今回はその中から、アートに関心のある高校生たちの活動について取り上げます。
芸術に関心のある高校生5人が集まって出来たアートチーム。
「何か地域のものを使ってアート作品を作りたい」
そんな漠然とした思いから活動がスタートしました。
どんなものを作りたくて、そこから何を伝えたいのか、その段取りをどうしていくのかなどに
ついて話している中で、高校生たちは
「自分たちだけで作るのではなく、世代関係なく沢山の人たちと一緒に一つの作品を作り上げたい」
と考えるようになります。
そんな時、絶好の機会があることが分かりました。
それが今年初開催の丹後万博。
丹後の伝統と革新をテーマに京丹後市のSDGsの在り方を考える祭典。
地域の人たちと作り上げた作品をこの舞台で展示すれば多くの人の目に触れることにもなる。
そうして思いついたのが、海ゴミを使ったアート。
持続可能な社会を築く一人の市民として今何ができるのかみんなで話し合ったところ、
美しい海岸の景観、海の環境を守る、ということが出てきました。
それならば自分たちで海にゴミを拾いに行って、それを使ったワークショップをしよう、という話に。
ところがワークショップ形式で色々な人を巻き込みながらの作品作りは、生徒たちもやったことがありません。
そこでまず相談したのが、京都府広域振興局 丹後地域アートマネージャーの甲斐少夜子さん。
甲斐さんは芸術に関する知見がある上、これまで様々な形でアートを中心としたイベント企画や
ワークショップの運営を担ってこられました。
甲斐さんが過去に携わったアートイベントや企画の裏側についてお話を聞かせて頂きました。
イベントなどを企画するに当たって必要な段取りや誰に相談・交渉する必要があるのかなどに
ついて分かりやすく伝えていただきました。
そしてその際紹介していただいたのが「ECHO あしたの畑―丹後・城崎」というイベント。
これはあしたの畑主催の企画で、7月~8月にかけて約1ヶ月間という長期にわたって
丹後と城崎で行われるアートと食のお祭り。
その土地の自然や歩んできた歴史を見つめ直し、
そこからインスピレーションを受けた芸術家たちが作品を生み出す。
そこには異なる分野の芸術家達が集う。陶芸家、桶職人、建築家、料理人、ガラス作家...。
異色のアーティストたちやイベント企画に携わっている人々と関わりをもち、
運営スタッフとして参加してもらうことで企画の作り方やイベント・ワークショップの方法を
学べるのではないか、という提案をしていただいたのです。
そこで高校生たちは、夏休み中各々で時間を作り運営側としてこの"アートと食の祭り
「ECHO あしたの畑-丹後・城崎」に参加することになりました。
そうと決まれば、次はあしたの畑のイベントについて詳しく知る必要があります。
後日、京丹後市未来チャレンジ交流センター「roots」にてあしたの畑運営事務局によって
開催される説明会に参加しました。
このとき参加していた高校生たちに会場である竹野神社を知っているか尋ねたところ、
みんな知らないとの回答が。
多くの生徒たちは峰山や大宮周辺に住んでおり、
竹野神社のある間人エリアにはほとんど足を運んだことがないといいます。
これは、地元の新しい魅力にも触れられる機会になる。
勿論、アーティストたちとの出会いや京丹後内外から訪れる人々との交流も
彼・彼女たちにとって貴重な体験になること間違いなし!
その後は、実際に竹野神社へ!
それぞれの会場で展示されている作品の由来を聞いたり、
宮司さんと一緒に神社を歩いて神社の歴史を学びました。
このイベントにはアートチームの生徒たちだけではなく、
芸術系を進路に考えている生徒や建築に関心のある生徒、
そして峰山高校だけにとどまらず京丹後市内の他の高校からもたくさんの高校生たちが
スタッフとして関わってくれました。
その様子については、また別の記事でお届けします!
引き続きお楽しみに。
来場者ざっと概算して3000名ほど。想定を上回る方々の来場者がありました。
ついに、「丹後万博」が10月30日(日)丹後王国「食のみやこ」で開催されました。
もちろん、1年生は、1年生だけ、2年生は2年生だけでの活動でなく、後輩は先輩から学んでいます。
この閉会式後に取った写真です。峰高の強みである人数の多さで、大きなことができました!
見てください!この達成感!!
それぞれのブースや企画・運営、丹後万博の開催に至るまでの様子は追って紹介します!
おそらく、高校生にとって一生の思い出、忘れられない経験になるでしょう。
峰山高校の学びは、紙やタブレットによる学びだけではありません。
中学生の皆さん、どのような学びを経験したいですか。
私が、もし峰山高校生として入学したら...きっと充実した学びができていたに違いない!
追って活動記録の詳細 (シリーズ丹後万博のホームページ記事)を更新していきます!
つながり、つなげる。
ー人と人 人ともの ものともの 過去と現在 現在と未来ー
みなさんは、ふるさと納税の特設サイトをご覧になったことがあるだろうか?
そもそもふるさと納税制度は、自分が育ったふるさとに貢献したい、
自分と縁のあるまち、好きな地域を応援したい「思い」を「形」にするために設けられたものだ。
支援者は気持ちで寄付をし、その気持ちに対してまちはお礼をお返しする。
京丹後市が運営するサイトを覗いてみると、とても豪華な返礼品の数々が並ぶ。
かにや米、酒やフルーツといった特産品をはじめ、京丹後産の絹糸を使用したおしゃれなアクセサリーや
京丹後をぐるっとまるごと楽しめる旅行券など見ているだけでワクワクするもので溢れている。
そんな中、一風変わった商品があることに気がつく。
それは、「鹿の角」である。一瞬、戸惑う。鹿の角にどんな用途があるのだろう......。
置物にしてもただの棒きれのようにもとれるこれ、正直飾ってもあまり見栄えはしない。
だがその商品に今注目が集まっているという。一体、どういうことなのだろうか。
今回は、そんな「鹿の角」に着目し、それをより一層PRするための提案をしたいと
考えるグループの紹介をしようと思う。
始まりは言葉や絵によって思いを伝えるという表現のあり方に関心をもつ生徒たちが
集まったところから活動が開始した。
そんな中で、行き着いたのがデザインについて。
デザインは、発信者と受取手を繋ぐ架け橋の役割を担っている。
発信する側の思いや意図を受取手がイメージ出来るよう、視覚的に表現する。
そしてそのデザインが魅力的であればあるほど、私たちは発信者の思いに共感し、
応援したいと感じたり、どうしても手に入れたいと願ったりする。
そして彼女たちは、考えた。
「デザインを通して、地域に何かプラスな影響を与えられるような取組をしよう」と。
そこで目につけたのが、ふるさと納税。
例えば、今ある商品の見栄えを良くしたり、届ける側の思いが伝わるよう見せ方を工夫することで
地域に貢献できることがあるかもしれない。
まずは京丹後市のふるさと納税について現状を把握し、
これからどの商品を全面的にPRしていくのか検討するため、
京丹後市役所の職員、高倉遼さんにお話を伺うことに。
お話を聞く中で見えてきたのは、「鹿の角」が今犬を飼っている人々の間で
ブームになりつつある商品であるということ。
犬のおもちゃとしてよく見かける、骨の形状をしたもの。
これは犬のストレスや運動不足を解消する効果があるだけでなく、
噛むことで歯石や歯垢を取り除き口腔の健康を守る役目も果たしている。
だが、その多くは長持ちしないという弱点も抱えている。
その反面、鹿の角は丈夫で強く噛まれても削れにくく、長持ちする上、
鹿の角には犬が好物とする髄液が含まれているため、犬のおもちゃとしては最適なのだ。
そして京丹後市では、物流を全般としたサービスを提供している日本インパクト株式会社が
鹿の角を商品として扱ってる。
鹿の角が注目を集めている今、売れ行きは悪くないのだが何だかパッケージが味気ない。
透明の袋の中心に小ぶりなシールが貼ってあるだけで、
そのシールの表記も「京丹後ふるさと納税 鹿の角」とごくシンプル。
そこで彼女たちは、このシールのデザインを考えることに決めた。
まずは、そもそもデザインとはどういうものなのか知るため次にお話を聞いたのは、
京丹後市役所にインターンに来ていた京都工芸繊維大学の大学生。
彼女からは、マーケティングの視点から商品を売り出すための基本的なノウハウを教えてもらうことに。
まずは「商品価値の創造」。
例えば「何だかよさそう」といった情緒的価値をパッケージに作り出すこと。
そして「コンセプトの伝達」。
今回の場合、WEBサイトの商品一覧の中に掲載されるため、流し見されることが想定される。
サイトで見られるその一瞬のうちに目にとめてもらう。
商品が伝えたいメッセージを形や見た目で情緒的に表現することも大切だ。
また「コミュニケーションの設計」をするのもパッケージデザインの役割だ。
広告やPR、WEBやSNSといったメディアにおいては、一貫して同じ情報を伝えていく必要がある。
それによって強く効率的なコミュニケーションが実現する。
届けるべき一貫したメッセージデザインを進めて行くことが求められるということ。
ターゲット層を絞って、その世代に受け入れられやすいデザインを考えることも必要だ。
中々複雑な話で簡単ではないけれど、専門的な話を聞くことによって、デザインの奥深さが分かってきた。
ある程度デザインに関する基本的な知識が固まった上で、
今度は鹿の角を取り扱っている日本インパクト株式会社へ訪問。
お話をしてくださったのは、代表取締役の金志繁実さんと社員の小谷琢磨さん。
高校生たちは今までの経緯を話し、地域に何かしらの形で貢献したいこと、
その中でも「鹿の角」のパッケージシールのデザイン案を考えたい主旨を伝えた。
それを聞いた金志さんや小谷さんは大喜び。
鹿の角はもちろん、この会社ではジビエ商品の生産に力を入れている。
鹿や猪の皮や肉をできる限り有効利用していくための商品開発に力を入れる。
捨てられていくものに新たな価値を見いだし、生まれ変わって再び世に出ていく。
生き物と共存していくということ。そして豊かな大地を守っていくこと。
お二人の強い思いを聞き、彼女たちはイメージを組み立てていく。
「環境に配慮した」「再利用」「自然のもの」といったキーワードから、
"環境にやさしい"イメージを伝えるようなデザインにすることに決まった。
日本インパクトさんからは、こんなお願いも。
「実は、うちで作っているジビエ商品全体のロゴマークも良ければ考えてほしい。
今は何もない状態なので、何か提案していただければ嬉しい。良いものであれば採用するよ!」とのこと。
ひとまず今回は、鹿の角をPRするためのデザインをメインに考えることになるが、
企業からのミッションに応えるという目的で、後輩にバトンが繋がっていくと面白いことになりそうだ。
これからの探究活動が楽しみである。
食が私たちに及ぼす影響について探究している二人の生徒がいる。
彼女たちには共通の夢がある。それは、将来管理栄養士になることだ。
探究学習においては、活動しているうちに最初に立てたテーマの内容が変わることがしばしば起こるのだが、
彼女たちにいたっては、一貫して食に関するテーマを突き詰める姿勢を崩さなかった。
根底に「栄養職について視野を広げること」と「食がもたらす影響や新しい繋がり」を
探っていきたいという気持ちがあったからだ。
そもそもどうして、管理栄養士になりたいと思ったのだろう。
話を聞いてみると、二人の育った環境が食に対する興味を引くきっかけを生み出したことが分かってきた。
一人は、福祉施設を経営する両親の元で育ち、
食事の管理がいかに重要なものであるのかを身をもって知ったという。
自分が管理栄養士になれば、いずれ家族を支えることができる。家族思いの彼女の優しさに心が温かくなる。
もう一人は、母親が料理好きでたくさんの美味しい料理やお菓子を作ってくれたことが大きく影響している。
「母が楽しそうに料理を作る姿を見て、作ることにも興味が湧き気がつけば進んで手伝うようになった」
と話す彼女の顔は、何だかとても生き生きしている。
食が母と娘にとって大切なコミュニケーションの手段であった。
そして二人に共通しているのは、食べることも作ることも好きだということ。
だけど食べ過ぎても健康に良くない。そしてその逆もしかり。
「バランスのとれた食事を美味しく、楽しく健康的にとること」
その重要性を人々に伝えていくのも栄養管理士の大事な仕事だ。将来の目標に向けて、
一歩踏み出すための取組がスタートした。
活動のとっかかりとして、二人がヒアリングの対象に選んだのが
弥栄町でシェアスペース兼シェアキッチン「LINKU」を運営する福田透子さん。
面白かったのは、彼女たちが管理栄養士という職業だけに囚われずに幅の広い視点から
食を見つめようとしている点だ。
福田さんは管理栄養士ではなく、フードコーディネーターという立場で食に携わる仕事をしている。
フードコーディネーターは、「食」がテーマのビジネス全般にスペシャリストとして関わる仕事。
レストランのメニュー開発や食品メーカーの新商品の開発、
お店の食品売り場でのイベント企画や売り場改善など多岐にわたる。
また食べ物を作って提供することに止まらず、食器やグラスの選択、テーブルクロス、花一輪の添え方まで、
食の空間を作り上げる演出家としての能力も求められる。
福田さんは、自分が管理栄養士として食の大切さについて説いたり、
料理教室の講師として誰かに料理を教えたりするタイプではない、と話す。
そういった人たちが輝ける場を演出すること、そういった人たちを支える役割を担いたい、と。
福田さんのお話を聞くことで、いかに食の世界が広いのかに気づく彼女たち。
今までは、栄養バランスのとれた食事を作ることに重きを置いた考え方をしていたが、
違った角度から食を捉えることで、また新しい人の輪を生み出すことができることを知り、
益々食の可能性を感じるのであった。
その後、さらにもう一人に話を聞くことに。
地域の食材を生かした加工食品を開発する会社「丹後バル」を起業し、
管理栄養士としても活躍する関奈央弥さん。
彼女たちが一番気になるのは、やはり今後の管理栄養士の活躍の場について。
「関さんは、管理栄養士としてどんなことを大切にしているのですか?」
その質問に対して「私は食育こそ、国民一人ひとりの健康の質の底上げに必要な者であると考えています。
ただ食の大切さを伝えるだけではいけない。
その人のこれからの行動自体を変えられなければ意味が無いと思っています。
人の心を動かす食育というのをいつも心がけています」と関さん。
命あるものとして生きている限り、食は切り離すことのできないものであるからこそ、
全ての人に寄り添った形での食のサポートができるのが、管理栄養士の魅力の一つだという。
食と「美味しく、楽しく、そして健康的に」付き合うための提案をし、世の中を良くしていく存在。
命と向き合うため、責任は大きいがその分大きなやり甲斐のある仕事だ、と楽しそうに話す関さんの姿は、
きっと彼女たちの未来を明るく照らしてくれたはずだ。
彼女たちは、最終のゴールとして
「一人でも多くの人に食について興味をもってもらい、自分で健康管理が出来るような提案をする」
ことを目標としている。
そのためには、彼女たち自身がまず食に触れ、食を楽しみ、その奥深さを実感する必要があること。
そして、その楽しいという熱量を誰かに伝えられるようにすること。
伝える術は、いくらでもあるがまず何か、彼女たち自身が小さなアクションを起こすことを期待している。
どんなことだっていい。今まで自分たちが調べてきたこと、学んできたことを切り口に
「食にまつわる様々な逸話について掘り下げる座談会」を開催する、
生産者と消費者を繋ぐような取組を考えてみる、
栄養バランスのとれた料理を地域の人たちと実際に作ってみる...など、やり方は無限にある。
そして、そんなアクションを応援するために地域があるのだ。
将来、彼女たちが自分なりに考えた「新しい管理栄養士の形」を表現しながら
食の分野で活躍していることを願って。
地域で活躍するイケてる「探究人」たちとの対話の時間の後、
それぞれが残りの約1年という時間をどのように過ごしたいのか、何について深めるのか、
そしてどのように表現するのかについて考える段階に入った。
ここからは、個人ないしはグループに分かれての活動がスタートする。
今年は50ほどのプロジェクトが立ち上がった。
今回はその中の「建築について」探っていくことを決めたグループについて紹介したい。
このグループは、将来建築士になることを目標にしている生徒を筆頭に建築に
関心のある生徒3人というメンバー構成だ。
チームが出来たばかりの頃、丹後地域で活躍する建築士の一人、大垣優太さんと
オンラインで繋ぎ、今後の約1年間をチームでどのように過ごすのかについて一緒に考える時間を設けた。
建築といえども範囲が広いので、まずは3人それぞれの関心の方向性を探っていくことに。
一人は長年建築士になることを夢見ており、将来家を自分の手で建てたいという。
また一人は設計士になることを目標としている。
そしてもう一人は過去に自分の住む家をリノベーションした経験があり、
改装後生活の質がぐんと上がったことから、
過ごしやすく居心地の良い空間作りのプロセスに関心があるという。
ここから3人に共通しているのは「空間のデザイン」であることが分かり、
それを起点として活動を開始することを決めた。
そんな3人の様子を見ていた大垣さんから素敵な提案が。
建築士という仕事がどんなもので、それに関わる人たちがどんな思いで向き合っているのかを
直接見に来ないか、というもの。
実際に見ることで具体的に自分たちの関わり方をイメージでき、活動計画が立てられる。
そうして3人は、日を改めて大垣さんの事務所へ訪れることに。
夏休みに入ってすぐのある日。3人は大垣さんの経営する事務所を訪ねた。
大垣さんが網野町に構える設計事務所「U設計室」へ。
大垣さんの事務所で大切にされているのは「日常と風景に寄り添った家づくり」
家であればそこに住む家族、店であればそこで働く人や訪れる人の様子を描き、
その場所で営まれる日常のあり方を探っていく。その場所で過ごす人々から愛される建物を目指し、
共に作っていく楽しみを共有しながら進めて行く過程を中心に置いている。
またU設計室では、地元に根付いた家づくりを手がけているため風景を読み解くことにも力を入れている。
日当たり、隣家の目線、周辺道路の交通状況などは勿論、京丹後市は土地柄雪が多く降ったり、
海が近くにあることなどから除雪や風向き、海との距離など建物を建てる際に考慮すべき点が多くある。
その中で一番気持ちよく周囲の環境を取り込める間取りの提案が出来るよう、
建物を建てる場所の観察を徹底的に行うのだ。
大垣さんの建築の先にはいつも「その空間で過ごす人の喜びと感動」があり、
施主さんに徹底的に寄り添う姿勢がとびっきりかっこいい。
そんな素敵な大垣さんが普段どのような想いで仕事と向き合われているのか
具体的に知るために3人は聞き取りを開始した。
お話を聞いていく中で特に印象的だったのが「その建物を使う人々の生活、
大切にしているもの、困っていること、歩んできた軌跡を知ることこそが仕事の根幹になる」といったお話。
ただお洒落で美しい建物を設計すればいい、という訳ではない。
それを使う人がどうすればその人らしくいれるのか、居心地が良いのか、
暮らしが快適になったり楽しくなったりする仕掛けや動線作りを、
はっとする驚きや感動をもたらすことを常に考えながらもおづくりと向き合う。
だから必ず現場に足を運んで細かい現地調査を行うし、施主(依頼主)さんとの密なコミュニケーションを通して、
その人自身やその人を取り巻く人々のことを理解し、深く知ることはもちろん、
その人の仕事のことまで勉強するという。
「例えば、介護施設を設計してほしい、という依頼が入ったとします。そしたら僕たちはまず、
介護の仕事について学ぶのです」
なるほど。
「良い仕事」とはこういうことか。ビジネスだけのやりとりでない、
人と人との心のやりとり、心の通ったところに生まれる温もりのある贈り物。
そういえば、峰山高校の近くにある児童福祉施設「てらす峰夢」も大垣さんが設計しており、
この前を通ると毎日子供たちの明るい声が響いてくる。
事情があり親と離れて過ごす子供たちにとって「安心して過ごせる家」の価値は大きい。
職員さんも子供たちもみんなが"家族"になれる温かい空間を。毎日笑顔が溢れる環境を。
いつでも「おかえりなさい」と迎えてくれるホームを。
この建物は2019年に京都建築賞 優秀賞を受賞している。
ここまで話を聞いてきて、生徒たちは建築に携わる仕事に益々魅了される一方で少し不安も感じていた。
プロフェッショナルな方から話しを聞くと圧倒され、
高校生の自分たちに何かしらの関わりしろを見付けることは出来るのか、とても難しいのではないか、と。
「この探究活動を通して、自分なりの理想の家の設計をして図面におこしてみたい」
「可能であれば、空き家のリノベーションなどを通して図面におこしたものを実際にデザインしてみたい」
などといったやってみたいことは見えてきたが、現実どこまで実現可能なのか、
この先どんなことが待ち受けているのか......。
探究活動はこれから社会に出て、自分なりのかかわりしろを見付けていくための予行練習であると考えている。
自分がどうありたいのか、何をどんな風に表現したいのか、より良く生きるために何が出来るのか、
自分が選択した道は正しいのか。不安になったり、時には失敗して落ち込んだりすることもあるだろう。
でもこれは誰もが通る道。
今輝いている、成功しているように見える大人の人たちもみんなそれぞれに苦しみや痛み、
恐れや後悔を背負ってここまできている。大垣さんだって、その一人。
それでも今こうして自分なりの建築との向き合い方を確立し、
ここまで続けてこられたのは大小問わず「夢を掲げ、本気でそれが叶うと信じ、何かしら行動をした」からだろう。
小さな積み重ねと一つ一つ実現してきた経験が彼の確固たる自信を築き上げてきた。
自分の手で誰かの喜びや感動、幸せを手助けできること、
それが自分の幸福感に繋がっていることを身をもって知ってしまった。
そしてこれからももっともっと多くの人の感動を生み出し、
分かち合うために「より良い建築のあり方」を常に模索している。
つまり、私たちは生きている限りずっと探究を続けていくのだ。
だから今は、その練習期間だと思って一歩踏み込んだ行動をしてほしい。
行動することで上手くいかないこともきっと出てくる。
でもその一方で、ある程度自分には何ができるのか、どんなことに向いているのかについても分かってくる。
そういう感覚を最初の種にして時間をかけて、水をやったり、
栄養を加えたりしながらゆっくり育てていってほしい。
試行錯誤を繰り返しながら、ある日「あ、できた」「面白い」と感じるまで、
またそういった肯定的な感覚に自覚的になり、体に刻んでいくこと。
そうすることで本気で夢を見る力は育っていくんじゃないだろうか。
あともう一つ大切なことを挙げるとすれば、自分の行動に絶対的な肯定感を持たないこと。
慢心しないこと。疑問を持ち、問い続けること。
ここまで書いていて、ふと思い浮かんだのが糸井重里さんの言葉。
「自分のやっていること、やってきたことが、正しいに決まっている、と思うような場面からは、
あんまり期待できるものは出てこないよね。
迷いが必要だ、というと誤解されそうだけど、
揺れだか、振動だか、問いかけだか、
不安定だか、そういうものが大事なんだと思うんだ。」
(2009年『ともだちがやって来た。』p.205)
だから今は、できるかぎりたくさんの人や文献、場所と出会って、話して、聞いて、
たくさんの感情を味わって、少しずつ自分の中の種を育てていこう。
いつか君だけの大きな花が咲く日を心待ちにしながら。
こんにちは! お久しぶりです。
地域コーディネーターの能勢です。
前回の記事から、暫く間があいてしまったため、話は大分遡ることになりますが、
できる限り順を追って探究学習のこれまでの取組の記録をお見せするので、ぜひお付き合いください!
(前回の記事)探究の入り口へ。そもそもなぜ「探究」が必用なん?~vol.1~
それでは仕切り直して探究の"そもそも"のお話からいたしましょう。
令和3年度の2年生の探究活動は「自己探究」から幕をあけました。
まず、テーマを設定する前に自己を探る時間を設けること。
「私」が生きたこれまでの16年、17年の道のりを振り返った時、どんな人、もの、ことに心を動かされたのか。
何に出逢い、何を考え、どう行動してきたのか。
人は生きていく中で幾度にも渡り"揺らぐ"体験をします。
その揺らぎは"私"というものを形成していきます。
喜びや感動、怒りや苦しみ......。
人は人との関わり合いの中で、言葉に表せないほどの感情に出会い、向き合って行く中で
少しずつ自分の「価値観」を育てていくのです。
しかしながら、私たちは普段の忙しい生活の中で自分の体験を振り返り、
その場面ごとに感じた感情を言語化し、他者に伝えるといったことはほとんど出来ない状態に置かれています。
おそらく大半の場合、思っていることや考えていることを言語化しない(またはできない)まま日々を
送っているのではないでしょうか。
だからこそ、改めて自分を捉え直す時間が重要だと考えました。
これまでを振り返り、自分の内面を探る。これが第1段階です。
そして第2段階は「己を外へ開くこと」をしていきます。
自分と向き合った後、社会に目を向けたときに例えば自分と似た価値観の持ち主は、
どういった生き方をしているのだろう、自分と全く価値観が異なる人はどうだろう、というように
今までに自分が出会ってこなかった人たちと出会うことを通して、再び揺らいだ自分を編み直してゆくこと。
この「自己の編み直し」―自分を再編集していく作業―は、自意識を育て「私」という個人性を
確固たるものにしていきます。
他者と出会い、社会と繋がるために企画したのが
「探究の種を見付けよう!~ロールモデルとの出会い~」というもの。
地域の幅広い分野でご活躍されている人々に協力を依頼した結果、
何と30人を超える人たちが授業に参加してくださいました。
途上国の支援に力を注ぐ国連職員、音楽を愛しラジオDJまでこなす薬剤師、
環境問題の一つの種になっているマイプロプラスチックをおしゃれな雑貨に加工する環境の守り人、
前向きな言葉を紡ぎ若者を奮い立たせる町の相談員、
人を笑顔にさせその人らしさを引き出すメイクアップアーティスト、三足のわらじを履くデザイナー、
先生を支える教育の新しいあり方を考える心理学研究者......。
こんなにもワクワクすることがあるでしょうか。
全ての人について書き切ることが出来ず残念ですが、
ゲストに招いた大人たちに共通しているのは「探究人」であること。
何か自分なりの信念を持って、社会をより良くするために活動されていること。
そしてずっと学び続けていること。
探究を続けながら、自分らしく輝いて生きている大人たちとじっくり向き合って対話する2時間。
ゲストの「探究人」30人の皆さんには予め、ご自身のキャリアや人生観について記したプロフィー-ルを
書いていただき、生徒たちはそれを元に事前に話しを聞きたい、相談してみたいオトナを2名選びます。
一人は自分と価値観が近いと感じる人、
そしてもう一人は今まで出会ったことがないタイプではあるが、惹かれる、話してみたいと感じる人。
(講師プロフィールをじっくり読む生徒たち)
2021年5月29日。
企画日当日。いよいよ始まります。
さぁ、「探究人」たちと出会い、自分らしく生きていくためのヒントを得る旅にいってらっしゃい♪
この企画はコロナ感染防止のため、教室を分散し全てオンラインで繋いで実施されました。
生徒たちはそれぞれ自分が選んだ人の部屋へ分かれて、ゲストたちと出会います。
こうしてあっという間に2時間がたち、企画は無事に終了しました。
終わった後の生徒たちの顔つきがどことなくスッキリしており、
それぞれとても有意義な時間が過ごせたことが伝わってきました。運営側はひとまずほっとしました。
この企画を通して、生徒のみなさんが探究学習が高校の3年間で終わるものでないことに
気づいてくれたのであれば、これほどまでに嬉しいことはありません。
探究は一生ものです。
みなさんがこれから生きていかねばならない世界は混沌としており、常に変化していきます。
それに伴って、今「常識」だとされている価値は簡単に崩れ去り、ライフスタイルも多様になります。
「正しい答え」を教えてくれる人は誰一人いません。
だから、自分の足でしっかり立って自分なりの「正解」を見付けていくこと。
そして常に変化する世の中に対応するために進化し続けること。
他者と出会い、様々な経験を通して自分を編み直し、アップデートすること。
そしてそのたびに感じるあなたの想いを言葉にして伝えていくこと。
この過程こそが、「探究」なんだと私は思います。
今は社会へと繋がっていくための予行練習。
みなさん一人ひとりがどんな未来を築いていくのか、これからがとっても楽しみです。
○"ぶっとんだ"医師と薬剤師との出会い~出会いは地域の交流センターで~
始まりは、私が3年生の進路検討会議に参加させてもらったこと。
今の3年生はどうやら医療系の進学を希望する人が多い。今の状況も影響していそう。
でもこんな状況だから、現場での実習が中々できないし、とにかく生徒たちのそもそもの視野が狭いので、
何とか医療の現場で働いている人たちからリアルなお話を聞かせていただけるような企画を作ってくれないか。
3年生の学年部長を始めとして、担任団の先生方からそんなお願いをされたことがきっかけだった。
せっかく企画をするのであれば、高校生たちに面白い話を聞かせてあげたい。
え!?世の中にはそんな取り組みがあるの? 何で何で? どうして?
すごい! 面白そう!
人はこうした感情が生まれたとき、初めて他者の話に耳を傾ける。
「もっと知りたい」という感情が世界を広げてくれる。
だからこそ、よくある「現場の実情と課題、仕事のやりがい」みたいな話で終わらせたくはなかった。
「はい!それはぜひやりましょう。x.000
何としてでも"面白い現場の人"を連れてきます!」
そう啖呵を切ったものの、私は肝心な事を忘れていた。
「そう言えば私、"面白い"医療従事者の方とか知らんやん......」
困った私が向かったのは、京丹後市未来チャレンジ交流センター roots。
ここに行けば、たくさんの地域の方との交流が生まれるので、医療分野に関しても何かしらの繋がりができると思ったのだ。
そして、その予想は的中。
めちゃくちゃ面白い人たちに会ってしまいました!!
最初に出会ったのは、薬剤師の船戸 一晴さん。
確かrootsに本を寄贈しに来てくださったときに出会ったのが最初だった。
話を聞くと本業は薬剤師なのにDJをしたり、ラジオパーソナリティーをしたり、他にも色々と地域と関わりながら活動されているという。
どういうことだ!? すごくすごく面白いじゃないか!!
これは絶対に高校生にもお話を聞かせてあげたい。
そこでちらっと話を持ちかけてみた。
「あの~、今ですね、将来医療関係の方に進学を考えている生徒がたくさんいるのですが、現場のリアルなお話や、その面白い活動についてもしよろしければ、高校生たちにお話をお聞かせいただくことなどできないでしょうか...?」
「お!それは、それは嬉しいですね!ぜひ僕で良ければ!」
な、なんと!
本当に大人のみなさん、「高校生のためなら!」と動いてくださるので、
いつも感謝の気持ちでいっぱいです。
そしてさらに奇跡の出会いが。
その時、船戸さんが寄贈してくださった本が何冊かあったのだけど、その中の1冊が
『ケアとまちづくり、ときどきアート』だった。
「この本を書いている一人は、豊岡で面白い活動されていますよ〜」
そこで聞いたのが、守本 陽一さんの話だった。
普段はお医者さんなのに本屋やったり、屋台引いて町を練り歩いたりしているらしい。
そんなおもろい変わった人が世の中にはおるんやなぁ...なんて、その時は終わったのだけど、その数日後まさかのご本人に会うことになるのだ。
その日もたまたま用事があって、rootsに寄ったのだが、そこに守本さんがいた。
名刺をもらったのだが、そこには
「医師」と「ケアと暮らしの編集社代表理事」という肩書きが並んでおり、私の頭の中は?でいっぱい。で、よくよく話を聞いてみると
前回船戸さんからお話を聞いていた人のことだと気がついた。
あ、医師で本屋で屋台の人ね!!
そこで盛り上がったのが好きな出版社のこととか、
行ってみたい本屋、ゲストハウスの話で、めちゃくちゃ面白くて意気投合して...。
でも、これrootsで出会ってたからよかったなって。
もし、「医師」と「患者」の立場で出会っていたら、
きっと今友人の関係にはなっていなかったと思う。
やっぱり、出会う場所って大事だな、と。
そんな素敵な二人と出会った場所で、
医療関係に関心を持っている、その方面に進学を考えている高校生たち向けに
お二人をお招きして、「地域医療」を考える企画を実施できることになりました!
医療を地域全体で。
町をみんなで元気にする。
医療従事者たちは、これから町に出ていく時代だ!!
そんな風に考えて、素敵な活動をされているお医者さんと薬剤師さんのトーク。
絶対に面白い。
○イベントまでにゲストのお二人について知ろう!~活動に関する記事や取材記事を読む~
今回、ご協力をお願いしたゲストのお二人は名前を言えば「あ、知ってる!」と言われるような医療業界を始め、この界隈ではとっても有名な人たちで。
プロフィール
守本 陽一さん
一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事
公立豊岡病院組合立出石医療センター総合診療科医員
1993年、神奈川県生まれ、兵庫県出身。家庭医。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。2020年11月に、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立。社会的処方の拠点として、商店街の空き店舗を改修し、シェア型図書館、本と暮らしのあるところだいかい文庫をオープンし、運営している。共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)」「社会的処方(学芸出版社)」など。
船戸 一晴さん
京丹後市網野町生まれ。熊本大学薬学部卒。
新卒でゆう薬局グループ(京都市)へ入社し、薬局薬剤師として現在18年。
京丹後市での新店舗開局に併せて2008年に丹後へUターン帰郷。
音楽・映画・本・ラジオ好き。
2010年からFMたんごへ参加し、現在はFMたんご/FMまいづる2局で番組を担当。
DJとしては京都市内でのプレイ経験の他、ミツバチ朝市や丹後酒フェスなどイベントでDJプレイをおこなう。
今まで様々なメディアで取り上げられてきたということもあり、名前で検索を書ければああまたと記事が出てくる。そんなわけで、ある程度参加者には事前にお二人についての予備知識を入れておいてもらった方が、企画の進行がスムーズだろう、ということで、お二人の活動に関するいくつかの記事を読んできてもらい、それに関する感想と質問を一つずつ考えてきてもらった。
ちょうど中間テスト後だということもあり、課題を出すのには気が引けたのだが、流石は峰高生。参加希望者のほぼ全員が課題を提出してくれた!
さすが!! 意識がとても高い。
しかも、こちらの予想以上に感想をしっかり書いてきてくれて、本当に感動した。
ゲストのお二人にも事前に共有すると、驚かれると共にとても喜んでくれた。
○イベント当日
そして来る5月29日土曜日。
いよいよ企画が実施される日。今回の企画は、オンラインとオフラインを掛け合わせたハイブリッド型。rootsには5人の高校生が来てくれて、オンライン上には社会人の数名を合わせると20名以上の参加者が!! 関心度が高いテーマだということが分かる。
初めは医師の守本さんのお話から。
テーマは「小規模多機能な公共空間による新しいケアのカタチ」
今後、後期高齢者が増加していく中で医療と地域の繋がりを築いていかねばならない、という考えから「もっと日常に近いところ、暮らしの延長線上でのコミュニケーション」を生み出すための活動を精力的に実践されている。
それが「来る」「行く」「ある」のケア。
健康についてなど考える機会となるイベント、所謂「来る」取組はよく聞くが、面白いのは「行く」「ある」新しい形のケア。
医療従事者自らが病院を飛び出して、町を練り歩きながら自然と地域に溶け込む仕掛け(屋台を引いて珈琲を配る)「行く」ケアや医療に関わる人が文化的施設を地域で運営することで、気がつけば健康や医療について人々が考えるようになったり、そこに行けば文化的資本や人、地域と繋がりを持てる、その場に「ある」ケア(本屋の経営)の実践を地域の中で創り出しているのだ。
医療では治す「cure」も大切だが、人に寄り添う「care」については特に今後考えていかねばならない重要な視点であるという。
続いて薬剤師の船戸さん。船戸さんも守本さんと同じく、医療とそうではない分野の掛け合わせをすることで地域全体の健康意識を底上げさせる取り組みをされている。それが音楽やラジオといったカルチャーとの融合だ。日常の中に、町の中に自然にあるカルチャーの中にポンッと医療の話題が溶け込んでいることで「あぁ、これからそういったことも考えなきゃいけないよなぁ」と目が向くようになる。
そのほかにも出張講座やカフェやサロンの運営、異なる職種に就く医療従事者たちとの交流会などを通して、町全体の医療を充実させる。
様々な活動を通して船戸さんが大切にしていることは「地域の人と繋がり、繋げて、互いの顔が見える関係性づくり」をすること、「薬剤師だけでなく、地域の皆でケア活動」を行うこと、「行政の取り組み、地域薬剤師会活動への参加」を積極的に行ったりすることだ。
お二人の「地域を良くしたい!」という共通の想いは、間違いなく今後社会を変える第1歩となるだろう。
お二人のお話を聞いた上で、ある高校生からこんな質問が出た。
「僕も将来、地域と深く関わりながら働きたいと思っているのですが、人が集まる空間を
形成するために大切なことはありますか?」
その質問に対してまず守本さんは
「人を巻き込んで何かをしたいと思ったとき、一番大事にしたいのは"その集団から最も遠いところにいる人のケアがいかにできるか"ということかな。
関わりたい、といって自ら積極的にこちら側に入ってきてくれる人は良いけれど、関わってみたいけれどそこまでがっつりというわけでは...、というように人によって関わり方についてはグラデーションがあるので、その輪の一番遠い距離にいる人たちとの関わり方をきちんと考えてあげること。取りこぼさないようにすること。
それから、そのことに関係してくるんだけれど、"関わりしろ"をきちんと設けてあげることが大事じゃないかな。その人がどの程度の熱量で、どんな府に関わっていきたいと感じてくれているのかをきちんと把握をして、その程度に合わせて様々な関わりしろを作ってあげる。そうすることで、色んなタイプの人が気持ちよく参加してくれるようになると思う」
船戸さんは
「企画やコミュニティを作る際、自己満足にはならないように意識しているかな。
参加してくれる人が最終的にどんな風になってほしいか、を思い描きながら企画を立てるようにしているかな。他者の気持ちにまで想いを馳せることが大切だと思う」
グラデーションに合わせて関わりしろを作ったり、自己満足に終わらず相手のことを深く考えたり、関わる人が多くなればなるほど大変そうだが、コミュニティ作りはこれからの時代、とくに必要な要素となってくるだろう。
最後にお二人が高校生へ残してくれたメッセージ。
「勉強も遊びもしっかりやろう。何かに一生懸命取り組む行為が大切」
「好奇心を持って色んなことを知ろうね。同時に好きなことや趣味をとことん楽しもう。
そうすることで誰かの好きなことにも関心をもてたり、尊重できる人になれるでしょう」
また、選択肢が沢山あることも教えてくれた。
病院で働くことだけが正解ではない。こうして地域と深く関わりながら働くこと、行政に入ること、国際貢献するために海外へ行く道だってある。
◎参加してくれた生徒たちの感想
視野を広げて、自分だけの道を歩んでいってほしい。
それぞれの道でみんなが輝けますように。私たちはいつだって君たちを応援している。
最後になりましたが、ゲストのお二人に改めて感謝を込めて。
素敵な時間をありがとうございました。
□探究について
すでに峰山高校で1年以上過ごしてきた生徒さんにとっては、「もう知ってるよ」とあきれ顔をされると思うが、
これからこの学校に入学される新1年生のみなさんのために、「いさなご探究」に関して、
ちょっと説明をさせてください。
峰山高校には、カリキュラムの一環として「いさなご探究」という授業が週に1時間組み込まれている。
この授業は、「他者との交流を通して、より高い次元の思考を獲得し、人生をよりよく生きるための選択肢の幅を広げる」ということを目的としている。
何か、難しい言葉で語られていてよく分からんなぁ...と感じるでしょう(笑)
簡単に言うと「たくさんの経験をして、自分の人生を自分の力で豊かにする力を身につけよう」ということ。
※「いさなご」とは、日本三景の「天橋立」の西にある磯砂山に因んでいる。ここから丹後半島の山々や大江山が緩やかな円弧を描くのを見渡せる。
でもさ、人生を豊かにするってどうしたらいいん?
そう思う人もいるかもしれない。もしそんな風に質問されたら、わたしだったらこう答える。
「たくさんの物事に出会って、自分自身で経験を積んでいくこと。まだ見ぬ未知の世界に出会ったとき、
人はその物差しの尺度を大きくすることができる」
人が何かを考えたり、選択したり、誰かに伝えるとき、今までの経験の中で自分の中に築いてきた引き出しの中を探って、アウトプットをする。つまり、その引き出しの中身が多ければ多いだけ、人間性に深みが出るというわけだ。
探究の時間では、みなさんのその引き出しを増やすために様々な体験ができるツールを用意しているので、
自分たちでよく考えてそれらを上手く使ってほしい。
少し去年度の先輩の活動の様子を!
●地域で「探究」をしている社会人の方々に「探究とは何か」についてお話を聞かせていただいたり。
●自分の関心のある分野に関して、さらに知識を深めるため専門的に探究されている社会人の方に
個別に相談に乗っていただいたり...。
●地域の方のオフィスに直接お邪魔して、活動のアドバイスを頂いたり
(動画制作に関して助言していただいています!)
●プロジェクト活動について、大学の先生や地域の方に向けて発信したり...!
この授業では、学校内に収まらず多くの人々との関わり合いの中で学びを深めていけるような形を
とっている。固定概念がひっくり返るようなこともしばしば...。
ぜひ、たくさんの面白い人々と出会って「楽しい」「もっと知りたい」という心を育てていってほしい。
では、「探究」とは何なのか。次はちょっとそのことについて考えてみよう。
まず「探究」という言葉に着目してみてほしい。
同じ読み方で、「探求」という言葉があるが、私たちが目指しているのは、あくまで「探究」だ。
じゃあ、何が違うの? というと、
「探求」: ある物事をあくまで探し求めようとすること。探索。
「人生の意義を探求する」
「探究」: 物事の真の姿をさぐって見きわめること。
「学問の探究」
広辞苑(岩波書店)より
「探究」活動では、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」というプロセスを発展的に繰り返す。何か疑問に思ったことや関心ごとについて調べ、それについて深堀りしていくと、新たなる疑問にぶつかり、また異なる切り口から更に考えていくことで、物事に対する理解が深まっていく。その過程で自分なりにまとめた考えは、主張や提案という形で他者に向けて発信し、共有していくことを行っていかなければいけない。そういった過程が、あなたと社会を結ぶ道筋となり、自分の将来に見通しを持つことが可能となる。
「探究」のプロセスの中で、集めた情報を既存の知識と関連づけたり、順序だてたり、分類したりする様々な思考のスキルを用いる。そもそも「正しい情報を集める」といったことにも技術が必要だ。他者と議論を交わすこと、自分の考えを相手に分かりやすく伝えるといったことも簡単にできるわけではない。この「いさなご探究」の時間では、そういった社会に出た際に必ず必要となる知識や技術を身につけるための大切な授業であることについてもぜひ念頭に置いておいていただきたい。
色々と書いてきたが、何よりも大切であるのは「まず探究を楽しむこと」!!
今まで自分が出会ったことのない世界に遭遇した時、驚きもするが魅了もされる。
知れば知るほどどんどん楽しくなる。遊ぶように学ぶ。そう、これが探究の真髄だ。
楽しくいこうぜ!!
□能勢ゆきについて
突然だが、ここで私の自己紹介をしておこう。このいさなご探究の授業でみなさんと多く関わっていくことになるので、お見知りおきを。
名前は能勢 ゆきで、兵庫県西宮市出身。ここ丹後に移住をしてから1年が経っている。
上にも記したが、この探究の授業ではみんなの人生をより豊かなものにしてもらうため、
様々なツールを用意している。その中の一つが、「学びのフィールドを地域と繋ぐ」仲介人(コーディネーター)がいるということ。私はみなさんの学びの幅を広げたり、深めたり、新たな世界を知ってもらうために存在している。学校の先生ではなく、学校と地域の間に入って、みなさんと地域、みなさんと地域住人、みなさんと他の学校の生徒や大学生・大学の先生らと繋ぐ、といったようにその間の橋渡しをする仕事をしている。
ここ丹後地域はもちろん、その他の地域でも人生を楽しんでいる、ずっと学び続けている、人生を賭けて探究活動をしている素敵な大人たちが本当にたくさんいる。
だが、ほとんどの生徒さんがそんな面白い大人たちに会わずして、この町を出てしまうのが現状だ。それはあまりにももったいない!! みなさんに会わせたい大人たちがたくさんいる。地域のことを知りたい、こんな分野に関心があるんだけど専門職の人に話を聞いてみたい、大人たちも巻き込んで、何か一緒にプロジェクトを立ち上げてみたい、進路相談したい...、などなどそれぞれ思いはあるだろうが、みんなのそういった希望を叶えるための「マッチング」をしている人だと認識してもらえると、分かりやすいだろう。
何か困ったときは、ぜひ遠慮なく能勢まで声をかけてね。どうぞよろしくお願いします。
□rootsについて
また、探究活動を深めるためにぜひともみんなに利用してほしい施設があるので、そちらも合わせて紹介しておこう。「roots 京丹後市未来チャレンジ交流センター」という施設だ。
峰山高校からもほど近い、丹海バスの峰山駅のバス停の待合所に併設されている茶色い建物(30番街)の1階にその場所は存在する。(シルバーさんと手芸屋さんの間)
京都銀行峰山支店の向かい側の茶色い建物といった方がわかりやすいかな。
そこは高校生と地域の方々の交流拠点となっている、開かれたコミュニティスペースとなっている。
既に、多くの峰高生が放課後などに利用してくれている。
この場所では、相談員(私もその一人)が常駐しており、みんなの困りごとやチャレンジしたいこと、進路相談などなどありとあらゆる相談ごとにのっている。
そこでは、持ち込まれる相談ごとが解決に向かうように、また誰かの「やってみたい」や「挑みたいこと」が実現するにはどうすれば良いのかを全力で考えたり、サポートしたりすることが行われている。「町の保健室」のような役割を担っている場所だと考えてもらえると分かりやすいかもしれない。
少しプロジェクトの紹介をすると
●将来、幼児教育などに携わりたいと考える高校生と地域のお母さん、子供たちがふれあえるイベントをしたり
●他の高校の生徒たちと交流をしたり(写真は峰高生と丹後緑風高校の生徒)
●「教育」について考えたい高校生が地域の教育分野に関心のある人々とディスカッションしたり
例えば探究学習でいうと、週に1回の学校の授業だけではどうしても深められない部分を学習の延長線上としてここを利用してくれる先輩たちがいた。「丹後の伝承」を調べている先輩たちは、地域の「歴史博士」からお話を聞いたり、「古代文明の消滅という事象を現代における社会問題と関連付けて考える」プロジェクトに挑んだ先輩たちは、古代文明や社会問題に関心のある人々に向けて「一緒に話しませんか??」と自分達で発信し、座談会を実施した。
●歴史博士との座談会
●古代文明と現代の社会問題の共通項を見いだすために話し合いをする高校生と社会人たち
ここでは、みなさんの相談ごとをヒアリングし、一緒に考えてくれそうな大人を紹介したり、大学生や社会人を巻き込んでプロジェクトを立ち上げるような高校生を応援するようなことをしている。具体的な内容については、HPやSNSにまとめているのでぜひ一読してほしい。
何となく、面白そうかも...??と思ってくれたかな?
とにかく!
今年度はどんなプロジェクトが生まれていくのか、今からとってもワクワクしている。
チャレンジには必ず大変なことも伴うけれど、それ以上にみんなが面白がって楽しんで
行っていれば思いもよらなかった出会いに遭遇したりする。
一緒にいっぱい面白いことをやろう!!
2021年2月19日。
峰山高校にて探究の最終報告会が実施された。
彼らにとっては、今まで約1年かけて取り組んできた探究活動に一旦区切りがつく日。
朝出勤した際にいつもに比べて、職員室の雰囲気が妙にそわそわした感じだったのは
生徒一人ひとりが抱える想いが空気にのって伝わってきたからかもしれない。
「とにかく自分たちの"好き"を誰かに伝えたい!」とか、
「自分たちなりに立てた仮設を検証した結果、驚くべき事実を発見したんだ!」
など、それぞれ抱えている思いは違えど、何かしらの強い意志を持ってこの日を迎えたのだろう。
裏話をするとこの最終報告会を開催するにあたって、様々な議論があった。
一番の論点はやはり、感染症対策のこと。緊急事態宣言も発令されている中で、
実施すること自体が難しいのでは、という意見もあった。
制限される部分は多いし、前例のないリモートでのやり取り、
発表を見学する生徒たちのコントロールをどうするか、など実施する場合に考えられる問題点、
懸念点はどんどん出てくる。その分、仕事も増えることが目に見えている。
それでもやっぱり、程度に差はあれどここまで頑張ってきてくれた生徒たちの一つのゴールとして発表の場、
表現する機会を作ってあげたい。
そして後に続く後輩のために、その姿を見てもらいたい。
今の峰高生の現状、そして将来の可能性を地域の方たちにも知っていただきたい。
ある意味、高校にとっては大きなチャレンジであったが、先生方の強い思いが実施するという決断の後押しをした。
**
始まりは、美しいピアノの音色で幕を開けた。
※このピアノは世界でも有名なスタンウェイピアノである。
単なる報告会だけ終わらせるのでは勿体ない。「何か人をワクワクさせる気持ちを!!」という企画者の
想いがこのピアノ演奏に繋がった。
「君を乗せて」
きれいな音色は聴く者たちを魅了し、「いよいよ始まるぞ!」という程よい緊張感も運んできてくれる。
演奏終了後には、始まりにふさわしい凜々しい声で挨拶をする司会者。
今回は感染症対策の関係で、外部の方々とはリモートで繋ぐスタイルに。
発表したのは、約50のプロジェクト。
プロジェクトの動機の部分は、多種多様で面白い。
「大好きなものをとことん追求したもの」
「日常生活や学校生活における疑問や違和感を出発点に問題提起をするもの」
「故郷、丹後と改めてじっくり向き合ってみたもの」
モネとピカソが大好きな二人の発表。手振り身振りを使ってのプレゼンからは、二人のプロジェクトに対する
熱量が伝わってくる。表情からは「大好き」があふれているのが素敵だった。
ボランティアについて発表を。ハキハキと通る声が体育館に響いており、彼女らしさがにじみ出た
良い発表だった。笑顔がとってもすてき!!
アニメの魅力を。アンケート調査などを有効に使ってアニメというものを様々な切り口から分析していた。
へ~、そうなんだ!という新しい気づきがある面白い発表だった。やっぱり好きなものを語る時の表情が
生き生きしているのが素晴らしい!! 聞いている者までハッピーになる。
「数学を好きになってもらうためには」というテーマで探究をしたグループ。
確かに数学に苦手意識を感じている人って多いな...。
だけどみんなが楽しそうに語るから、何だか面白いものなのかも...、と少し考えを改めることができた!
丹後の数ある伝承の中から、鬼について掘り下げたグループ。「鬼とは一体何であったのか」という問いから
スタートし、地域の歴史博士にもお話を聞いたり、諸説を調べたりする中で自分達なりの答えを導いた。
もう少し時間があれば、もっと深掘りできたのにな、とちょっぴり悔しそうな場面もあったが、
面白い切り口だった。
発表している際のキリリ、とした表情も良い。
最後に「時間が足りなかった!! もっとやってみたいこと、学んでみたいことが出てきたタイミングで
最終報告会が来ちゃいました...。」
と話してくれる生徒さんもいて、試行錯誤しながらもやってきた意義があったな、と喜びがこみ上げてきた。
1年間、本当にお疲れ様。
上手くいかなかったこと、苦しかったこと、行き詰ったことなどたくさん経験したと思う。
先ずはここまで頑張ってきた自分たちに拍手を贈ってほしい。
よくやったな、と褒めてあげて。真剣に物事と向き合ってきたその過程は、君たちの財産となっているはず。
そしてもしこの1年間のプロジェクトを通して、「もしかしたらちょっと自分変わったかも」と
感じている生徒さんがいたら、それはものすごくラッキーだ。
なぜなら通常、人は「変化」を嫌う生き物だから。「変化」を恐れる生き物だから。
人は過去に自分が築いてきた自分こそが「本来の自分」だと考える。
自分の中の常識や価値観が外からの刺激によって、崩されそうになったとき変化を恐れて
その場で踏み止まってしまう傾向にあるのだ。
だけどその変化を戸惑いながらも受け止め、面白がることができたならそれは君が、
前にいた場所よりも進んだ証。君は確実に成長している。
1年前の自分を振り返ってみて、今君はどんな姿をしているだろう?
最後にそれぞれ良いことも悪いことも含めて色々な思いを抱えていたと思うけど、
ここまでついてきてくれて本当にありがとう。
これをもって今年度のいさなご探究の授業は終了したが、君の人生はこれから先も続いている。
ぜひ、ここで学んだ様々なことを今後の生き方にも活かしてほしい。
**
ここからは、「探究」について少し考えたい。
「探究」と一言で言っても、切り口によって考え方は変わってくるので、
私が考える「探究」の本質やその意義、面白さといったものをこれから何回かにわたって
お届けしたいと思う。
まずは探究の「原点」について。
私は、これについては「あそび」が全ての出発点になっていると考えている。
誰しもそうだと思うが、遊んでいるときや何かに夢中になっているときは
時間がたつのが異常に早く感じるだろう。
小さな子どもたちを思い浮かべてみると非常に分かりやすい。
彼らは遊びの天才だ。遊具を差し出すと、目を輝かせる。
何もない原っぱなどでも新しい遊びを発見する。
見て、触って、嗅いで、聞いて、味わって...。
全身を使って、色んなものを吸収しようとする。いちいちリスクの計算なんかしない。
自分の好奇心の赴くままに果敢にチャレンジをする。しかも全力で楽しみながら。
成長すると関心を寄せるものは変化するが、結局「あそび」の原理は変わらない。
あそびとは、「学校生活や仕事、暮らしにおける違和感や疑問、こんなことできたらいいな、
やってみたいなという素直な感情に従って行動していくこと」ではないだろうか。
つまり、主体は"自分自身"である。
そしてこれを突き詰めていくと、必ずぶつかることがある。
ほかの誰かに話しを聞いてみないといけないとか、法律を知る必要が出てきたり、
仮設を立てて検証してみたいなと感じたり、社会情勢や文化、歴史的背景を理解しなくちゃいけなかったり...。
本気で物事と向き合えば、きっとそういったことが起こってくるはずだ。
そして、その状況の中で生まれる「学び」というのは"必然性"があるので、楽しく主体的に取り組むことができる。
また、小さなチャレンジを積み重ねていくことで自信がついたり、
視野や選択肢が広がっていくことも大きな意味での「まなび」と言っていい。
さらに重要なのが、違う立場や背景の人との交流もまた、「まなび」をもたらしてくれる。
こうして考えていくと、深い「まなび」は一人では得ることが難しい。
いろいろな人と関わって、"あそんで"対話を繰り返す中で、私たちは揺らいでいく。
その「揺らぎ」を丁寧に解きほぐす作業こそが、探究だと考える。
だから探究の原点は「あそび」なのだ。
あなたと誰かの間で、問い問われることを通して自分を知っていく。そして、他者を理解していく。
関わり合いの中で、「揺さぶられる体験」こそが、人生を豊かにしてくれる。
探究って大変そうやな。何かすごいめんどくさそう...。
そう思っている人たちもまだまだたくさんいるだろう。
だけど、はまればみんなが想像している以上に面白く、奥が深いものなのだ。
もしこれが理解できたら、きっと君は人生を賭けて「探究の沼」にずぶずぶと浸っていくことになるだろう。
自分の感情に素直になればいい。難しく考えなくていい。ただ初心に返ろう。
君が全力で面白がれる「あそび」は何か。
ほら、仲間も集まってきた。
「一緒にあそぼ!!」「うん、ええよ!」
こうして面白がりながら社会と交わっていけばいい。
「あそび」が生まれる場所はいつだって、クリエイティブ(創造的)であるのだから。
(続く)
丹後の食に関するプロジェクトに取り組んでいるもう一つのグループを紹介しよう。
「丹後の隠れた名産品」について調べているグループがある。
このグループのメンバーは、テーマを設定する前の段階で共通の地域のある人からお話を聞いたことに
関心を持ったのがきっかけで、チームを結成したという。
メンバーの3人がお話を聞いたのは、
現在、五箇地域で地域おこし協力隊員として活動している関 奈央弥さん。
地域の様々な生産者の方々と連携をとりながら新しい商品開発に挑む関さんの活動に興味を惹かれた。
そして、昨年10月に行われた中間報告会までは食をメインとした「丹後いいとこツアー」のプランを
考えることを目的にプロジェクトを進めてきた。
しかし、これが中々難しかった。
チームメンバーの考えがバラバラで、
ツアーのコンセプトが定まらず、中間報告会では何とも中途半端なプランの発表に
なってしまったのだ。
発表を聞いてくださった人からは
「軸がブレているように感じるので、ツアーを作るのであれば何か一つテーマを絞って掘り下げて、
ちょっとディープな丹後の旅などにした方が面白くなるのでは」とアドバイスをもらったという。
再度メンバーたちは、コンセプトを絞るべく話し合った。
そしてある程度、3人ともの意見が一致したのが「名産品」という分野。
そこで、思い至ったのが1学期にお話を聞いた関さんに再度お話を聞くこと。
今回は、名産品に絞ったことから「生産者側」に視点を当ててお話を聞くことにした。
京丹後では、どんなものが作られているの?
生産者の方々は丹後の食材をどのように流通させているのかな?
そもそも「丹後の名産品」と言われて、ぱっと思いつかないんだけど、どんなものがあるのかな...?
そんな疑問に丁寧に答えてくださった関さん。
お話を聞いたことで、新しい発見があった。
「僕たち自身が丹後にこんなに素晴らしい名産品があったことを全然知らなかった」という事実。
それらの存在を先ずは地元民が知らないというのは、まずいのではないか。
ということから発表のアウトプット先としては、地元の人に的を絞った。
さらにもう一つの視点を加えた。
消費者側だけではなく、生産者側に目を向けてみること。
こうすることで、プロジェクトに更に厚みが出てくると考えたのだ。
関さんの話からは、農家さんなどの生産者側の立場に立つと外に商品を広めたい一方で、
地形や天候、人口問題といった課題をたくさん抱えられている、という現状があることも分かった。
そんな流れの中で、中間報告会以降
新たなプロジェクトとして生まれ変わる。
「地元の人へ丹後の隠れた名産品を紹介しつつ、生産者の方々が抱える課題の解決策を僕たちなりに提案してみよう」プロジェクト。
そうなったら次のステップとしては、
生産者へお話を聞くということだ。
特に丹後の食を広めようと力を入れて活動されている方にお話を聞きたい。
そこで繋いだのが、「百姓一揆」のみなさん。
「百姓一揆」は、多くの生産者の方々が所属する団体(チーム)で、消費者側に生産者の想いを伝えるべく明るく、楽しく、面白く食に関わる活動に取り組んでいる。
子どもたちを対象とした稲作体験や食育、採れたての商品を持ち寄ったマーケットの開催、講演会など幅広く活動されているのだ。
ぜひお話を聞かせてほしいとお願いをすると、何と6人もの人が集まってくださった。
他のプロジェクトの時もそうだが、
本当にこの地域の人々は教育に熱心な方が多く、お忙しいにも関わらず高校生のためなら!と、
いつも快く支援をしてくださる。
地域の方々のご協力があってこそ、この探究学習が成り立っているのだ。
本当に有難いことである。
「百姓一揆」のみなさんは、高校生メンバーに会うこと、彼らから話を聞くことをとても楽しみにしてくださっていたようだ。
参加してくださった生産者のみなさんは、お米や果物、野菜類...、と様々なものを生産している。6人のうち、一人の方は元々兵庫県伊丹市出身で、数年前に丹後に移住をしてきて、農家をしているそうだ。他の方々は、生まれ故郷が丹後であり、一度他の地域へ出たものの、丹後で腰を据えようと今は地域の中で、生産者側として精力的に活動されている。
高校生が、実際にお仕事をされていて課題だと感じることについて尋ねると
「課題自体はたくさんある。田舎の人口はどんどん減っていくから、後継者問題なんかも
出てくるし、気候変動の影響をもろに受ける職であるから、自然とどう共存していくのかは、常に考えなきゃいけない。後は、親やその前の世代からずっと農家をやっていて、それを継がなければいけなくて現在生産者をしているのか、自分が好きで農家をしているのか、によっても気持ちの持ちようが全然違ってくるよね。継がなきゃならない、というのが前提にあると、どうしても自分の意思とは関係なく、運命が決まっているようなことは、どうしても出てくるから」
それでも、話を聞いている6人のみなさんはとても生き生きされていた。
この明るさは一体どこから来ているのだろう?
「確かに農作物を育てることは、すごく大変。休みはないし、生産物が大きくなるまでに
とてつもなく時間かかるし。どう頑張っても自然には抗えへんし、後継者は中々見つからへん。それでも、僕たちは自分たちの仕事に誇りをもって挑んでいる。」
例えば、6人の中に農家をしながら時々猟師としても活躍されている方がいらっしゃったのだが、
人間関係から仕事を頼まれることがあるらしい。
「イノシシがたくさん出るから、ごめんやけどちょっと頼むわ。」
「頼られると俄然やる気は出るし、自分たちで自分達の地域を守っている、という自信にも繋がる。最近、町中でイノシシをあまり見かけなくなってると思うけど、実は獣が町の方へ行く前の段階で、僕たちが防波堤の役割を担っているから。」
私たちの安全や生活の何気ない安心は、農家さんたち(兼猟師)によって守られていたのである。
「百姓一揆」のみなさんから、逆に高校生メンバーにどうしても伝えたいことがある、と。
「こうやって食のことに関心を持ってくれた上に、課題解決の方法まで一緒になって考えてくれようとしている姿勢、僕たちが誠心誠意込めて作っている作物たちを地元の人たちにもっと知ってもらいたい、と動いてくれたその心遣いにすごく感謝したいし、こういうプロジェクト型の授業は、僕たちが学生の頃はなかったから、今君たちがこうして行っている取り組みに羨ましさも感じる。でもせっかくやったら、発表のためにとりあえずある程度"良い"ものを作って、それで以上終了ではなく、失敗しても不恰好でも良いから、これから先もこういった取り組みを続けて行ってくれたら嬉しいな。
そして常に欲望に忠実であってほしい。やってみたいと思ったことであったり、関心ごとに関しては、何でもとにかく思いっきり挑んでほしい。やってみて初めて分かることがたくさんあるし、きっと上手くいかないことも出てくるし、興味あると思ったけどやっぱり違うかったかも、と思うこともあるかもしれない。
でもそれで全然オッケー!! 途中で違うな、と思ったら方向転換してもオッケー!!
全ての経験がどこかに必ず繋がっているから、安全な場所に安住するのでなく、固定概念とか、そういったものを取っ払って楽しんでほしいな。そして、出来たらいつか僕たちと一緒に地域をより良くしていくための取り組みをしよう!!」
高校生の多くは、卒業後この町を出ていく。外に出ることで、世界がぐんと広がるから。
積極的に外へ向かっていけばいい。ただ外に出る前にこうして地元の中で繋がった素敵なご縁を大切にしてもらいたい。 外へ出るときは、生まれ故郷に誇りをもって、出れるように。そして、帰ってきたくなった時には優しく迎え入れてくれる町であるように。
離れていても、この町と関わりを持ち続けたいと思ってもらえるように先ずは僕たち大人が、一生懸命楽しんでいる、面白がっている姿を見せたいな、という強い意志と次世代を担っている若者に向ける言葉たちに深い愛情を感じた。
この話を聞いた高校生メンバーは、それぞれどんなことを感じただろう。
課題はたくさんある。しかし、希望もある。
生産者の方々の想いを彼らがどのように伝えてくれるのか、そして問題に対する解決策を彼らはどんな風に提示してくれるのか。
できれば、この授業が終わった後も何かしらの形でこの地域に関りを持ち続けてくれるような取り組みをしてくれたら、これほど嬉しいことはない。
私の生まれ故郷は、兵庫県西宮市。
もし豊岡市や朝来市などが故郷であれば、
丹後という場所はもっと身近であったかもしれないが、当時の私に
丹後半島という地域が日本海側にあって、
且つ京都府に属していることを知ったのは
大学生のとき。
私の中の「京都」というのは、清水寺や伏見稲荷、八坂神社といっ
「京都にすごく面白いところがある!」
そう意気込んで話す友人の言葉に惹かれ、彼女についていったこと
神戸から高速バスに乗り込んで、向かった先で見た光景はまるで私
「京都」と違っていた。てっきり「京都」のちょっとしたディープ
目的地に近づくごとに車内
私の中の「ステレオタイプの京都」が崩れ去った瞬間と、あまりに
季節は、初夏。
一面に広がる田んぼから、緑色の真っすぐな稲穂が伸び、青空との
海辺では多くのサーファーが波と戯れており、頬に当たる潮風が心
キラキラした海と優しい風が丹後来訪を温かく迎え入れてくれてい
驚いたのは、夜ごはんのとき。
友人の知り合いだという人の家にお邪魔したのだが、次から次へと
もちろん、
あっという間に居間のテーブルは、様々な料理で埋め尽くされた。
「これ、○○農家さんでとれたての野菜やからうまいぞ~」
「この卵、朝うちの鶏が生んだやつ」
「ここの精肉店さんのコロッケは間違いない!」
「刺身と言ったら、ここのやつやな。今日一、新鮮なもの見繕って
目の前で地元の人々が交わす言葉たちが、信じられなかった。
地元と密接な関係にある食生活。
手の込んだ料理たちに使われているのは、ほとんどが丹後でとれた
都市部に住んでいると、食材はほとんどスーパーで買うのでそこに
やり取りは発生しない。また、スーパーは年がら年中同じ食材が手
「季節感がなくなってしまう」ということや「旬の食材を意識しな
もちろん、ここに限らず便利なスーパーの利用率は上がり続けてい
それでも、こうして地元の人々が集い地元の食材を使った料理を囲
この土地の豊かさを感じた。
食材そのものが美味しいのはもちろん、久しぶりに大勢でつついた
*****
この土地の自然の恵みを受けて育った子どもたちは、やはり「食文
探究学習におけるテーマを設定する際にも複数のグループが「食」
今回はその中の「丹後の伝統食」について調べているグループの紹
このグループも初めは「バラ寿司」から入った。
丹後の伝統食っていえば、やっぱりバラ寿司。お祭りや結婚式、お
驚いたのが、丹後のスーパーには280グラム
バラ寿司の伝統などを調べて、実際に自分たちで作ってみたりもし
そんな中で、ふと疑問が。
「丹後といえば、バラ寿司ってすぐ出てくるけどそれ以外の伝統料
チームのメンバーで考えてみたが、どうもぱっと浮かばない。
もしかしたら「伝統料理」にこだわるから
難しいのかも。「家庭で受け継がれている料理」にすれば何か出て
そんな風にして少し方向転換をし、
自分たちの家庭で慣れ親しんでいる料理についてご家族にお話を聞
他の地元の人にもお話を聞いてみると、面白いかもしれないという
お話を伺ったのは、峰山高校のほど近く。地元の人々から愛される
先ずは、食材の「旬」について教えて頂く。
「旬というのは、主に2つの点から考えられてて。1つは季節。
そ
もう一つは、人間が作った行事。
ひな祭りや入学式、卒業式...といったもの。そして、こういった季
"食べ物"だね。
その時期に最も美味しい、そしてその時期にしかとれない食材が所
春には山菜。夏は枝から成るもの。
秋はきのこ類。そして冬は根っこの食材。
都会に比べると、まだこの地域は生産者と消費者の距離が近いから
何気ない食生活の中で季節を感じることが多いと隅野さんは語る
確かに「蟹の解禁」など、丹後に来て初めて聞いた。
また日本海側と太平洋側で捕れる魚の種類が異なるため、呼び名は同じでも全国で一般的に知られている
丹後の人の認識にズレが生じることもあるという。
例えば、キス。
全国的には「シロギス」で有名なこの魚、
丹後(特に日本海側)では「オキギス」だったり、一般的には「初
丹後の本鰹は「
隅野さんも料理を勉強するため一度大阪に出ているが、
「これがキス。これが本鰹」と師匠に言われて初めて自分が今
違った種類の魚
種類が違うともちろん調理法も変わってくる。外に出て初めて自分
また、同じ料理でも使う食材は地方ならではのものであることも。
例えば恵方巻き。丹後ではかまぼこや竹輪を入れることが多いと聞
そう言われてみれば竹輪の入った恵方巻は、私の地元では見たこと
練物が有名なこの地域ならではなのかもしれない。
そして隅野さんには一つ懸念していることがあるという。
それが「人間が本当に季節に関係のない食材を食べることが良いこ
人類の祖先は、約200〜150万年前に進化をし始めたとされる
日本における最古の人類は、約3万8千年前から存在していたと
弥生時代の頃には現在の人間の体や暮しがほぼ定
人々はその時々に採れる食材を使った、
つまり自然の摂理に順応した食生活を送ってきた。
そして、時を経て現在。
私達は不自然の中で生きている。
スーパーに行けば、年がら年中同じ食材が手に入る。そして人工的
人類の歴史から見れば、こういった変化が生まれてきたのは、本当
こういう生活が当たり前になって、もっと年月が過ぎれば、いつか
でも今の段階では、やはりそれは違うのではないか。
都会に出て、日々の食生活が変わることで
健康を崩す人が多い、という話もよく耳にするので、変わってきた
本来の人間に合った食生活ができる丹後の環境は、実はとても貴重
「伝統や家庭で引継がれている料理を残していくために私達にでき
「伝統を守りたい、と考えてくれる君たちのような存在そのものが
後はやっぱり料理が好きだ、とか
食材に関心を持ち続けるのが大事なのではないかな」
最後に丹後の魅力を尋ねてみた。
「島じゃないところがここの魅力。日本の中心(子午線が通ってい
山があって、海もある。
ほどよく雪が降るから水不足にも悩まされない。山から海へ流れて
雪は害虫も退治してくれるしね」
そう言って笑った隅野さんからは、地元丹後に対する愛と誇りが真
料理することが好きだというメンバー達。
将来的にも何かしら食に関わる勉強や仕事をしたいと話す。
今後は丹後の恵まれた食材から伝統を守りつつ、また新しい時代に
さぁ、やってきました! 楽しい歴史の時間でございます。
きっと多くのみなさんがご関心のある分野ではないでしょうか。
前回「鬼伝説」の記事で、紹介させていただきました
「地域の伝承マニア」の田茂井さん。
今度は「丹後地域の伝承から故郷の魅力を掘り下げる」グループの生徒たちから猛烈な
ラブコールを受け、再びお呼びしました! さすが、高校生からも愛されていますね。
早速、対談を開始。
一番初めに田茂井さんから高校生メンバーへ質問。
「君たちは、丹後の伝承を調べて最終的に誰にどんなことを伝えたいの?」
「僕たちは、どちらかというと地元の人たちに向けて丹後の魅力を伝えたいんです。
僕たち自身そうだったんですけど、調べていく中で実は丹後ってすごい歴史が深いことに気がついて。日本最古だといわれる伝承もたくさん残っている。ここを掘り下げていくと、何かすごい大きな発見があると思うのですが、この「古代丹後の物語」のスケールの大きさにすごくワクワクするじゃないですか。地元の人が知っているようで、本当は知らないその魅力に迫りたいと考えています!!」
ふむふむ、なるほど。
「なぜ丹後地域には多くの伝承、いわゆる物語が残っているのだと思う?」
「う~ん、どうしてだろう?」
「物語というのは、世の中が動くことによって人から人へ伝えられながら生まれるわけだ。
そこにはたくさんの人々の交流があったんだよ」
そんな冒頭から対談は幕を開け、私たちは気がつけば「丹後」という深い深い迷宮の中へ迷い込むことになるのです。
***********
丹後半島が古代から、海外との交流があったことを裏付ける証拠が主に2つあります。
1つは伝承(伝説)、そしてもう一つは遺跡や出土品です。
まず伝承(伝説)の視点から見てみましょう。
伝説の宝庫、丹後半島。特に有名なのが「浦島伝説」と「羽衣伝説」で、
この二大伝説は、二つとも丹後にあります。さらにいずれも文献学上、書き記されたものとしては、
丹後のものが最古であり、ここから伝説発祥の地と考えられます。
何より、海にかかわる伝説が非常に多いという特色もあります。
海を渡った伝説、海の向こうから来た伝説、
これらは古代大陸と交流があったことを示す証といえるのです。
遥か昔、科学技術も発展しておらず、旅が命懸けであった時代。
様々な事情を抱えた人々が山を越え、海を渡り日本大陸に上陸しました。
命懸けの冒険の末、たどり着いたその場所がまさに丹後半島であり、
そこは海を渡ってきた人々の玄関口となったのです。
その時、持ち込まれた重要な文化は今もなお、丹後半島の基幹産業として受け継がれています。
それが、農業・織物・金属加工・観光です。
人々の生活は豊かになり、栄えていく。そして、たくさんの物語が生まれるのです。
「今でこそ、グローバルな世界って言われるけど、本当は遥か昔からこの辺りは
圧倒的にグローバル化が進んだ土地だったんだ」
ここで面白い豆知識を。
かの有名な某携帯会社のCMに登場する「三太郎」をメインとする様々なキャラクターたち。
あの子たちのルーツは、何かしら丹後に繋がっています。
「浦ちゃん」こと浦島太郎はいわずもがな日本最古の「浦島伝説」。
「金ちゃん」こと金太郎は、源頼光と出会い、仲間とともに大江山(丹後半島の付け根に位置する山)へ
鬼退治に行く。その鬼、「鬼ちゃん」はCMの中で、「桃ちゃん」と友達だったことが発覚。
みなさん、覚えているでしょうか?
鬼退治に向かう「三太郎」たちの前に鬼が登場した「鬼、登場」篇のCMを。
鬼退治に向かっていた3人の前に鬼が現れた時、最初に「桃ちゃん」が鬼に歩み寄り、
「久しぶり~」と軽い挨拶をした後、
「あれ?金ちゃんの鬼退治とおんなじ鬼?」と聞く。
つまり、桃太郎がかつて倒した鬼が「鬼ちゃん」であり、
金太郎たちと鬼退治に向かった先でその鬼と再会したわけです。
鬼を介して桃太郎にも丹後との関わりがあったことがわかります。
「かぐちゃん」や「織ちゃん」は、羽衣伝説。
そう考えていくと、あのCMのキャラクターってみんな丹後にゆかりがあるのか!! と
みんなで驚く。キャッチーな話題だからこそ、これは発表の際にも上手く使えば面白くなりそうです。
次に考古学的視点から見た海外との交流があった証を。
それは数多くの巨大な古墳とそこからの出土品です。
例えば、旧峰山町と旧弥栄町にまたがって位置する「大田南墳墓群」
ここから青龍三年の年号が刻まれた鏡が出土したのですがこの年号、中国の魏の年号で235年のこと。
それは、卑弥呼が遣使する4年前の年号なのです。
また、「大田南二号墳」から出土した後漢の画文帯神獣鏡、これは2世紀後半に中国で制作された鏡で、
中国との独自の交易により入手したと考えられます。
その他にも3000年前の中国で使用されていたとされる土笛や、耳飾り、
銅銭(中国・新の王莽の時代)などが出土されています。
このように、丹後は伝説、考古学的見地から見てみると、弥生時代から国際交流を行う中で繁栄し、
あの大和政権にも影響を与えるような、力を蓄えてきた王が存在した可能性があると捉えることができるのです!!
こうして紐解いていくと、すべては「人類の歴史」と繋がっており、
ひいては丹後の歴史が世界の歴史と絡み合っている証拠なのですね。
私たちは、世界史と日本史を別々に学習するため、どうしてもそれらは別のものとして
考えがちですが、世界史の中の日本史であって、その日本史の中に丹後の歴史が眠っているのですから、
すべては繋がっています。
古代の人々が築きあげてきた歴史という物語の続きを私たちが今、生きているのです。
***********
田茂井さんから語られるあまりにもスケールの大きなお話を聞いて、改めて歴史の奥深さに気づかされました。
なんてドラマチックなのでしょう...!!
丹後にはまだ解き明かされていないミステリーがたくさん存在しています。
掘り起こしていく価値のある、非常に面白い地域であるのです。
知っているようで知らない僕たちの故郷、丹後。
この素晴らしき町の魅力を僕たちがみなさんに最大限お届けしたいと思います!
最後に目を輝かせながら意気込みをぶつけてくれたメンバーのこの後のアクションに
期待したいと思います。
参考文献
『ヤマト政権誕生と大丹波王国 国宝「海部氏系図」が古代史を書き換える』
伴とし子(新人物往来社)
『古代丹後王国は、あった 秘宝「海部氏系図」より探る』
伴とし子(MBC21京都支局・すばる出版)
《続く》
さて、あれから「古代文明の滅び~人類の未来~」というテーマで活動していた
グループはどうなったのでしょうか?
社会人たちとの座談会を行ったことで、何か活動に変化はあったのでしょうか。
彼らの進捗状況を伺ってみましょう。
早速、みんなが作業をしている部屋を訪ねてみると、ストーブを囲むようにして
メンバーそれぞれが何か異なる作業を黙々と行ってる姿が目に飛び込んできました。
メンバーは5人いるのですが、どうやら2月に行われる最終報告会に向けて
各々の役割分担をした上で、発表準備に取りかかっていたようです。
前回、新しい視点を得るために社会人との座談会を企画し、参加した2人の生徒は
座談会に来られなかったメンバーに向けて、どんな話し合いが行われたのかについて
プレゼンをし、自分たちがどの切り口で進めていくのか、プロジェクトの方向性を
定める船長役を務めており、別の生徒は船長が示した道しるべをもとに調べてまとめる作業、
そして残りの2人はプレゼン用のスライドをせっせと作っていました。
ここで前回、社会人と対話した生徒に質問を投げかけてみます。
「あれから何か自分の中で変化したことってあったかな?」
彼は、暫く考えた後
「今までは社会問題というと、地球温暖化くらいしか思いつかなかったけど、あの時間、
多くの人たちと話をしたことで、新しい切り口がたくさん見つかりました。
ああやって集まった人の数だけ、新たな着眼点が見つかるわけだからすごく視野が広がりました。
行き詰まりを感じたときにああいう場所を使って、人と話す機会は大事だと気がつきました」
続けてもう一つ質問を。
「現代社会で起こっている何かしらの問題に対して、自分たちなりに何か解決できそうな方法は見つかった?」
「いや、それはまだまとまってないですね...。ただ、前回の座談会で新たな着想を得ることができたので、
そこから何か自分たちにできそうなことを考えていきたいと思います」
「ちなみに今、みんなはどんな発表を考えているの? アウトプットとしてのゴールは、どんなものを目指しているのだろう?」
「ターゲットは、僕たちと同じような年代(若い世代)の人たち。
古代文明の消滅と現代社会の問題の共通点を見いだした後に、まずは僕たちなりに
今できることを聞き手にお話したい。その上で、最後に問題提起を投げかけたいんです。
僕たちは、こんな風に解決策を考えたけれど、あなたたちはどうですか? 何ができそうですか?
という部分を考えもらえるような発表にするつもりです」
彼らの答えを聞いて、素敵だなと感じました。
問題提起を投げかけて、行動に移してもらう。
スモールアクションが広がっていって、社会問題について考えたり、関心を持ってくれる
人が増えていったら、少しずつ周りの世界は変わってくるかもしれないね。
最後にこんな質問もしてみました。
「みんなの後輩のために教えてほしいんだけど、探究学習をする上で楽しいと感じていることと、
ちょっとしんどいな、と感じる部分を聞かせてもらってもいい?」
「楽しい部分は、自分が関心のあることについて学ぶことができること。
それを他の人たちに伝えられるという機会があるのは、いいなと思います。
逆にしんどいと感じるのは、プロジェクトが行き詰まった時に迷走してしまう時間があったこと。
次にどう動いていけばいいか分からなくて、困った時がありました。
でも、そんな時こそ周りの大人を頼って、色んな人の考えを聞くことが大切だと分かったので、
みなさんも困った時は、色んな人とお話をする機会を作ってみてください!」
たくさん経験してきた先輩の言葉は、やはり心強いですね。
他者との対話を通して、学びに深みが出てくるので、ぜひこれから探究学習やプロジェクトに取り組むみなさんには、多くの人と交わりながら進めていってほしいです。
そして、この1年間彼らに寄り添って伴走してきた担当の宮木先生(体育科)から一言。
「このチームは、メンバー5人がそれぞれ良い個性を持っていて、自分の役割もきっちり分かっています。
各々がきちんと自分の持ち場を守りながら仕事を頑張ってくれる。
いよいよラストスパート。最後まで彼らなりに走り続けてくれると思います」
いよいよ動画の制作プロジェクトが始動しました!
(※前回の記事参照)
映像制作のプロからたくさんのアドバイスを頂き、ますます熱量が高まった状態で
良いスタートが切れたようです。
ところが、いきなりここで問題発生!!
質の高い動画を制作しようとする場合、やはりきちんとした動画制作を行うためのソフトと機材が
必要になってきます。
そう、どうしても携帯などの無料アプリのツールでは限界があるのです。
しかし、学校のパソコンには動画制作のためのソフトは完備されていません。
これは困った...、と一瞬頭を抱えましたが彼女は決して諦めませんでした。
「ツールがないなら、ソフトを入れてもらえるように大人たちを説得すればいい」
そう考えた彼女は、高校生や地域の方々の相談ごとに寄り添う施設
「roots 京丹後市未来チャレンジ交流センター」にソフトに関する相談を持ち込みました。
この施設は持ち込まれた相談に対して、「どうすれば課題を解決することができるのか」を相談者と一緒に考えます。
「どうしても誰かを勇気づけられるような、心に響く動画を作りたいんだ」
という彼女の熱い想いは、周りの大人たちを動かしました。
彼女を応援したい大人たちが集まって、いつの間にか彼女を筆頭にチーム編成が成されました。
そこにはもちろん、最初のアドバイザーである藤原さんも加わりました。
彼女は考えました。
動画編集用のソフトをインストールすることは、決して自分だけのためではない、と。
自分が前例を作ってしまえば、きっとこれに続いてくれる後輩がいる。
とくに今の時代、動画制作は大きな需要を生んでいる。この技術を学びたいと考えている
同世代の子たちは、とても多いはずだ。未来の後輩のためにも今、私ができることを
精一杯やってみよう!!
そんな彼女の熱い想いが、大きなうねりとなり、他者を巻き込み、
ついにはrootsで貸し出しをしているパソコンに動画編集ソフトをインストールするに至ったのです。
こういった経緯の中で、彼女は何を学んだのでしょうか。
自分が本当にやってみたいことに対して、貪欲であったこと。
前例がないから、とか現状では自分のやりたいことができる環境がないから、といった
理由で諦めることをしなかったこと。
そして、自分で声を上げ応援してくれる人を集めたこと。
すべては、「行動」に結びついています。
結果がどうであれ、とにかく自分で動いてみること。もしかしたら、勇気を振り絞って
動いてみたところで、上手くいかないこともあるかもしれません。失敗することだってあります。
世界にはどうしても抗えないこともありますから。
それでも、動いてみること・周りに働きかけることで分かること、
得るものはたくさんあります。
自分一人だけでは、どうしても実現することの難しい壁にぶち当たった時に
「どうせ無理だから諦めよう」ではなく、まずは一度立ち止まって
「どうやったら実現することができるのか、解決する方法は他にはないか」ということを
考えてみてほしいです。そして、次のステップとして行動に移してみること。
あなたが一生懸命動いている姿を見て、「応援したい」「協力いたい」という人々が
みつかるかもしれません。その姿を見て、「私もやってみよう」と後に続く後輩たちを
勇気づけることができるかもしれません。
無駄なことなどないのです。全てどこかに繋がっている。
彼女は自分の足で行動したからこそ、たくさんの視点を獲得しました。
そして、声を上げたからこそサポーターを見つけることができました。
"学びの過程"を自分自身で作り上げたのです。
「勇気を持ってアクションしてください。どれだけ行動できるかが、鍵です」
来年度、同じように1年間かけてプロジェクトに取り組む予定の後輩たちに向けて
彼女が放った言葉は、何よりも力強く、訴えかけてくるものがありました。
彼女のメッセージが、後輩の背中をそっと押した、その瞬間に立ち会えたことをとても幸せに思います。
「探究活動」においてアクション=行動は何よりも大切です。
最初の一歩は少しの勇気が必要かもしれませんが、その一歩を踏み出すことができれば
ぐん、と世界は広がります。まだ見ぬ世界に出会いにいきませんか?
あなたのその一歩を待っています。
「すみません、古代文明や現代社会について詳しい大学の先生と
繋いでいただくことはできるのでしょうか」
私にそう声をかけてきたのは「古代文明の滅び~人類の未来~」をテーマに調べているグループの男子生徒たち。
まずそもそも、なぜ彼らが私にこういった相談を持ちかけてきたのかについて、
簡単に説明しましょう。
***
私は、現在峰山高校の総合的な探究の時間「いさなご探究」の授業運営やサポートをしています。
立場は、地域おこし協力隊員。つまり、学校にいながら学校の先生というポジションではありません。
それでは先生じゃない人が、授業でどんな役割をしているの? といいますと、
学校と地域の間に入って、生徒と地域の方々を繋ぐお仕事をしています。
忙しい日常生活の中で、高校生が普段接している大人の数は非常に限られています。
ご家族の方、学校の先生、習い事やバイト先の先生や先輩を除けば、
ほとんどその他の大人と関わる機会はないのではないでしょうか。
でも、それはあまりにも勿体ない!!
実は、この京丹後エリアにはワクワクするような取り組みをしている大人たちが
たくさんいて、「こんな生き方あったのか!!」と私自身
毎度驚かされるということが、日常的に起こっています。
もちろん課題もたくさんありますが、
そんな中でも日々の小さな幸せを積み重ねて、
素敵な生き方をされている大人の姿をぜひとも若いみなさんにお伝えしたい。
丹後ってこんなに面白いところだったんだ、と気づいてほしい。
そんな想いで、日々仕事に取り組んでいます。
***
さて、話を戻しましょう。
相談を持ちかけてきてくれた男子生徒たちはその時、探究活動に行き詰まりを感じていたのです。
どうやら彼らは、古代文明がなぜ消滅したのかについて様々な仮説を調べる中で、
「もしかしたら古代文明が滅びたという現象は、現代社会で起こっている様々な問題と
共通している部分があるかもしれない。そう仮定した場合、今自分たちが生きているこの社会も
消滅する可能性があると考えられるのではないだろうか。
そんなことになる前に自分たちができることを何かしたい。果たして何ができるだろう?」
といった考えに至ったということをお話してくれた上で、
ただこの後、どのような切り口で、どこに終着点を持っていったら良いか、
自分たちだけでは煮詰まってしまって、何か新たな視点を取り入れたい、とのことでした。
まず驚いたのは、彼らの着眼点。
これは非常に面白い。
「古代文明の消滅から現代の社会問題との共通項を見つけ出す」って、凄くないですか!?
よくそんなこと思いついたなぁ、と感心してしまいました。
それと同時にこのテーマの難しさも分かりました。
現代社会の問題一つとっても世の中には数え切れぬほどの問題が山積み状態。
しかも、それらは複雑に絡んでいるのでそれらを紐解いていくにも
相当な労力が必要となるでしょう。
しかし、このままではせっかく面白いところに目をつけているプロジェクトが停滞してしまう...!
初め、彼らは古代文明や現代社会の問題についての知識をより深掘りするために
専門的な知識を持っている人と話したらヒントがもらえるのではないか、と考え
大学の先生とお話ができないか、という相談を持ち込んできましたが、
こうやって話を聞いていくと、「新たな視点、自分たちでは思いつかなかった切り口」を
発見したい、ということだったので話を聞く対象を「大学教授」と絞らずに、もっと
広げてみてはどうか、という提案をしました。
そんな流れの中で、彼らが発案したのは
「古代文明消滅から社会問題を解明する会」を実施すること。
この企画に関心を持ってくれた大人たちと一緒に対話をしよう、という企画です。
そしていざ、この企画について告知してみると驚くべきスピードでメンバーが集まりました。
「古代文明」というワードに魅力を感じている大人がたくさんいることが分かった瞬間でもありました。
これは、ますます面白くなってきそうな予感...!!
いよいよ、「古代文明消滅から社会問題を解明する会」の実施日。
発案者である高校生メンバーはというと、緊張を隠しきれない様子。
そうこうしているうちに参加者たちが続々と集まってきます。
牛や鹿を愛してやまない大学生や、できる限り自然と共存しながら原始的な生活に挑む人、
新しい形の農業ビジネスを開拓しようとしている人、公共政策を学ぶ福井在住の大学生など
個性豊かな人たちが参戦。
緊張気味の高校生メンバーでしたが、今まで出会ったことのないような素敵な大人たちを目前にして、
その魅力に魅了され、自然にコミュニケーションをとろうとする姿が見られました。
いよいよ「高校生×古代文明と社会問題に関心のある社会人」の対話がスタート!
「そもそも文明ってどういうもののことを指すんだろう?」
その問いかけに対し、
「昨日よりも良いと思える生活を目指すこと、なのでは?」と誰かが答える。
「でもより良くなる、便利で豊かな生活になると信じて生産されたものがある一方で、
失われるものってあるよね。例えばどんなものがあるかな?」
「現代社会の様々な問題って、掘り下げてくと"お金"という概念ができたことで生まれているのかもしれないね」
「豊かさって何だろう。私たちが今享受している"豊か"だと思われるものって、
環境などが変われば実はそうじゃないかもしれない、という考え方もできるよね」
「地球における人類の立ち位置ってどこなんだろう?
人類の生活も変化しているから、変化とともに生活スタイルも変わる。
時代とともに技術も発達している訳だから、過去にはできなかったかもしれないけれど、
その技術をもって今だからこそ解決できることも増えているんじゃない?」
一つのテーマについて、経験も価値観も異なる人たちが話せば
「そんな考え方があったのか!その切り口面白い!斬新だなぁ!」と目から鱗状態に。
この時間特に印象に残った言葉がありました。
「自分の価値観を疑ってみる、そういう視点が大事」
これは良いものだ、あっちは悪いなど世の中では、ある物事についての善し悪しが
問われることがしばしば起こっていますが、それって誰にとって良い(悪い)ことなの?
そもそも善し悪しを判断しているのは、誰なの(どんな立場の人)?
その概念って本当に信頼していいの? と、ちょっと離れたところから捉え直すことが
重要です。それによって気がつくことが議論をする上で、大切なポイントになったりします。
高校生たちは、多くの人と話しを深める中で自分たちが次にどの方向に舵を切れば良いのか、
少し見えてきたようでした。
まだまだ発展途上。だけど、きっと面白くなる。
そんな明るい未来を感じさせてくれるプロジェクトが、ここから再始動しました。
《続く》