学校生活School Life
さて、引き続き2年生の探究活動の紹介です。
今回はまた新しいチームの活動の取組を取り上げましょう。
このチームのメインの探究テーマは
「京丹後市の経済を発展させるためには」というもの。
チームのメンバーたちは、経済が縮小していく地方の未来に課題を感じ、
今後少しでも地域経済が発展していくには
どんな施策を講ずる必要があるのか意見を出し合います。
その結果、「京丹後市に関わる人が増えることで経済発展に繋がる」
という考えに至り、関わる人を増やすための手段として
"移住"に力を入れていくべきだと考えました。
そこで、京丹後市の移住に関する取組の実態が
どのようになっているのかをまず知るために
地域の移住相談所である「丹後暮らし探求舎」と
「まちまち案内所」を訪問しました!
****
お話を伺ったのは、移住相談員の小林朝子さん。
京丹後市への移住を検討している多くの人々はまず、
この人に相談をします。
まさに「地域の顔」である小林さんから、
リアルな移住の現状についてのお話を聞いてみましょう。
――小林さんは、京丹後市で生まれ育ったのですか。
いいえ。実は私も移住者です。出身は北海道の旭川市。
京丹後市に来たのは2015年だから、かれこれ7年が経っていますね。
――移住される前はどんな生活を送られていたのですか。
ここに来る前は、京都市内で土木関係の会社に勤めていました。
やりがいもありとても楽しかったのですが、
今思えば所謂「社畜」生活で......。
ほとんど毎日が仕事と家の往復で、
仕事関係以外の交友はほとんどありませんでした。
休みの日はもっぱら買い物で消費する。
お気に入りのお店も沢山あって、それなりに楽しい生活を送っていました。
――ではどうして移住を決意されたのですか。
30歳を迎えるタイミングで、これからの人生を考えるようになったんです。
決して充実していない訳ではないけれど、
私の人生から仕事を取り除いたらほとんど何も残らないな、と。
今後、自分の人生の中で大切にしていきたいものは何だろう、
と考えていた矢先、
友達から京丹後に遊びに行かないか、と誘われたんです。
そこである食事会に参加したのですが、
目に飛び込んできた光景は今でも忘れられません。
そこには地元の人も移住者も沢山いて。
みんな年齢も職業も異なる。
そんな人たちが隔たりを超えて、楽しそうに過ごしている。
温かいコミュニティ。
仕事とか趣味の関係性以外にこんなにも居心地のよい居場所があるのか、
と衝撃を受けました。
私の生活に足りないものは、
まさにこういう「豊かさ」だって気づいたときには、
きっともう移住を決意していたと思います。
――確かにみんなでご飯持ち寄って食べよう、みたいな文化は
地方に根付いている気がします。
小林さんは、都市部と田舎(地方)の違いには何があると思いますか。
都市部は、お金さえ払えば様々なサービスを
受けることができるというメリットがあると思います。
一方で田舎は、都市部に比べるとサービスは
充実していないかもしれないけれど、不足しているからこそ、
それを面白がって自分達で作ろう、
という動きが出てくるところが魅力だと思います。
――なるほど。それぞれに良さがあるのですね。
では次に移住の実態についてお聞きしたいのですが、
実際に移住を検討されている方はどういった相談に来られるのでしょうか。
色々なケースがありますが、大きく分けると
主に2つの目的で丹後移住を検討されている方が多いです。
1つは、自力で何とかしたい、チャレンジしてみたいと考えている人たち。
もう一つは、リタイア後やオフの日に自然豊かな場所で
充実した時間を過ごしたいと考えている人たち。
丹後を含め、日本海側への移住は都市圏に住んでいる人からすると
かなりハードルが高いんです。
例えば仕事は都市部で続けたままの状態で、
住む場所だけ環境を変えたいと考えた場合、
京都府の中では亀岡などが移住先として人気です。
自然が豊かでありながら都市部にもすぐに出られる。
つまり、ライトな移住先としてはベターな訳です。
逆にわざわざ京丹後への移住を考える人たちは、
それなりの覚悟を持っています。
都市部に住んでいる人は、今ある環境を全て変える必要がありますから。
――なるほど。因みに相談に来られる方は、
どれくらいの年齢層の方が多いのでしょうか。
幅広い年代の方が来られますよ。
20代~70代くらいまでの方々がいらっしゃいました。
――移住を考えている人は、どんな想いをもって
相談に来られるのでしょうか。
移住を考える理由がポジティブな人は
「今の生活もそれなりに楽しいけど、もっと良くしたい」と考えていて、
ネガティブな人は「都会での生活が辛すぎるから、
何とかして環境を変えたい」と考えていることが多いです。
いずれにせよ共有していることとしては
「今よりも少しでも暮らしを良くしたい」ということ。
――移住相談にのる上で気をつけていることはありますか。
私達がしていることは
「京丹後市の人口を増やすための移住相談」ではありません。
まずは相談者の話にじっくり耳を傾けるところから始めます。
移住してやってみたいこと、希望していることなどをヒアリングして、
次に繋ぐ先を作ります。
例えば相談者がやってみたい職業に就いている人であったり、
同じような趣味を持っている人、その人と同世代の人などを紹介します。
この地域のことが好きで通っていても、実際に住み始めたらギャップを感じて
「そんなはずじゃなかった」と思うこともある。
だからこそ、移住を決断する前の段階で「この地域で生活する自分」を
なるべく具体的に描けるように、選択肢をできるだけ多く提示してあげる。
「今よりも少しでも良い生活をしたい」との想いで
移住を考えてくださっているのに、
移住したことで後悔する、というような思いはして欲しくないので。
――「人口を増やすための移住支援ではない」のですね。
確かに移住して一時的に地域に関わる人口が増えても、
結局定住してもらえなかったら本末転倒ですもんね。
そうだね。
「この地域、良いな」と思ってくださる人がどれだけ長く住んでくれるか、
ということを重視しながら相談にのっています。
――小林さんは、移住希望者の方々の相談にのるだけではなく、
地域住民の関係性作りにも力を入れているという記事を読んだのですが、
それはどうしてですか?
地元の人が「この町、良いよね」と思える地域は外から見ても、
何だかこの地域は居心地がよさそうだな、と自然と思ってもらえると考えています。
だからこそ、地元の人の暮らしの満足度を上げる支援も大切にしています。
――確かにそうですね。
地元の人が自分の地域を誇れたら、Uターン率も上がると思います。
では実際に丹後に移住された人たちの反応はどういったものなのでしょうか。
移住者に対して、とても寛容だと感じている方が多いようです。
何かにチャレンジしたくて移住してくる人たちにとっては、
新しい環境で一から関係を作りながら生活の基盤を築いていくことは、
やはり不安がつきまといます。
そんな中、地元の人も先に移住をした人も一緒になって
挑戦を面白がってくれる、
温かく受け入れて応援してくれる地域で居心地が良いと
話してくださる方が多いですね。
――それは移住者にとってとても心強いですね。
小林さんは、丹後のどういったところに惹かれたのですか。
この地域で生きている人たちは、ひかれたレールをたどる人生ではなく、
"自分で選ぶ"ことをして、暮らしを楽しんでいるように感じました。
私が昔から他の人からの評価を気にして、
自分で自分の人生を選んでいるという感覚を
あまり感じられなかったせいかもしれません。
こんな風に私も自分自身の人生を歩みたい、と強く思ったんですよね。
――なるほど。だから先ほどお話しされていたように、
移住を検討している相談者に対して
その人のその先の人生まで考えて相談にのるようにされているんですね。
そうですね。移住は目的ではなく、あくまで手段。
「移住者を増やす」を掲げるのは違うと考えています。
相談者の話にしっかり耳を傾け、
その時点で「あなたの考えていることをこの地域で実現するのは難しい」とか
「あなたの想像している生活とこの地域での生活は
ちょっとギャップがあるかもしれない」ということも
しっかり伝えるようにしていますね。
――それはとても大事なことですよね。
ただ現状の課題として、そもそも京丹後市の認知度が
低いということもあるのではないか、と思っています。
移住を検討されている人たちに、
移住先の選択肢として京丹後市を加えてもらうには、
どんなPRが必要だとお考えですか。
まず大事なのは、地元の人がこの地域に可能性を感じていること。
さっきも話したけど、地元民が地域に対してネガティブな感情を
抱いているところに魅力は感じないよね。
後は、思いっきりこの地域の魅力を語れる、熱弁できる人がいることも大事。
そんな人の存在は、移住者から見るととても支えになる。
こんな人がいる地域であれば、楽しいに違いない、って思えるんだよね。
そして、私は高校生のあなたも含めて
地域住民の誰もが移住の窓口になると考えています。
例えば、旅行で遊びに来たときに高校生から笑顔で元気に挨拶されたら
「あ、この地域すごく良いな」って思うでしょう。
その地域ですごく親切にしてもらったとか、
楽しく過ごせた体験は後々移住に繋がっていることが多い。
実際、移住者の多くは一回以上京丹後に足を運んだ経験があります。
遊びに来たときの良い思い出がその後の選択に大きく影響しているんですよね。
――今のお話を聞いて僕も外から見られているかもしれない、と
意識を改めようと思いました!
因みにですが、現状の行政(京丹後市)の移住政策においては
どうお考えでしょうか。
もちろん、市としては移住者を増やしたいわけだから
色々と移住者にとってメリットのある施策を出しているとは思います。
ただ、支援金や補助金といった制度はあくまで一過性のもの。
それよりも、この地域でいかに満足してもらえるか、
長く定住してもらえるか、ということの方が大切なのではないでしょうか。
――そうですね。
では、今後京丹後市はどのようなまちづくりを目指していくべきだと思いますか。
まず一つは「Uターンの人が気持ちよく帰ってこられる町作り」を
するのが良いと思います。
繰り返しになりますが、地元に関わる人が自分の故郷を
誇りに思えないというのはとても寂しいことです。
地元の人はやむを得ない事情によって
こちらに帰ってこなくてはならない場合も生じます。
そのときにできる限りポジティブな思いを持っていて欲しい。
昔は何もない地域だと思っていたとしても、
何だか最近の丹後面白そうな動きがあるな、とか
応援してくれる人がいそう、とか楽しそうな仕事ができそう、とか
思ってもらえるような土壌づくりとそんな空気感が伝わる発信を
していくことが必要だと感じます。
あとは特色のある人が、
ちゃんと特色を活かせるようまちづくりも大切ですね。
この地域だったら自分の魅力が最大限活かせそうだ、と
確信を持ってもらえるような仕組み作りと地域連携が必要だと思います。
最後に楽しいことをどんどん積み上げていく、という姿勢。
これが一番大事だと思います。
まちづくりとか社会課題をどうこう......みたいな話題って、
どうしてもネガティブなところから入ると思うんですよ。
現状の行き届いていない部分ばかりに目がいってしまって、
結果関わっている人も気が滅入ってくる、というか。
そうではなくて、自分の生活の手の届く範囲で良いから、
この地域で楽しく暮らすためにはどんな仕掛けがあったら良いだろう、
ということを面白がりながらみんなで考えていけるような
場の形成が出来れば良いな、と。
「課題解決」というと疲弊してしまうけど、
「楽しい、とか面白い」ことであれば持続可能でしょ。
地元の人も移住者も世代も分野も色んな枠を取っ払って
みんなで手を取り合いながら、丹後良いよね、って
分かち合えるような場作りを頑張りたいと思います。
――お話しをお聞かせいただいて、益々地元の人同士の繋がりが
大切なことに気がつきました。
今の自分に出来そうなこととしては、
親や先生以外の大人達と交流の機会を持つことだ、と思います。
うんうん。すごく良いと思う。
本当に若い人たちのエネルギーって
大人達を無条件で元気づけてくれるんだよね。
うちの案内所(まちまち案内所)は人の出入りは多いけど
高校生からの認知度はまだまだ低いから、
ぜひその筆頭に立って交流の場を作っていってくれると私達も嬉しいです。
若い人が頑張っている姿を見ると、地域の大人達は何とか応援したい、と考える。
そういうところに支援をしたり、投資をしたい、という人は沢山いるから、
若い世代と大人同士の顔の見える関係性作り、
その仕組化も今後チャレンジしていきたいです。
****
京丹後市の移住状況や、今後の地域の在り方が見えてきた、
そんな時間になりました。
小林さん、貴重なお時間を本当にありがとうございました!
ヒアリングが終わった後は、まちまち案内所を案内していただきました。
地域の人々がそれぞれの得意分野で自己表現出来るような工夫や仕掛けが
盛りだくさん。
スペース中央にはシェアキッチン。
ここでは地域の料理好きの方たちが日替わりでランチを提供したり、
飲食を伴うイベントなどを開催する際にみんなで協力したり、
楽しみながら食事を作るために使われています。
またWi-Fi完備の広い作業スペースがあり、仕事のうち合わせや
ワーケーションで利用している人たちも沢山いるとのこと。
奥には本棚が設けられており、私設図書館として利用できます。
各本棚には"本棚オーナー"が自由に厳選した本を並べています。
本棚オーナーとは、本好きの地域の人たち。
棚を自己表現の場所として使っているんですね。
一目見るだけで、直接会ったことがなくてもその人が何を大切にしていて、
どんな価値観を持っているのか、並んでいる本から連想できるので
とっても楽しい。
本を介して新しい繋がり方ができるのも魅力です。
その他、子どもの遊び場があったり、物作り(DIYなど)ができる部屋が
あったりと、目的と用途に合わせて柔軟な使い方ができる素敵な場所と
なっていました。
地域の中にこうした多様な人たちの緩やかな関係を築ける場があることが
如何に重要なのかが分かった気がします。
京丹後市が経済発展していくために、ここから高校生たちがどんな提言、
アイディアを出してくれるのかが楽しみです♪
グローバルネットワーク京都の論文コンテストにおいて垣中麻希さんが最優秀賞を受賞し、3月18日終業式の日、校内で表彰式がおこなわれました。おめでとうございます!
〇非常に評価が高かった上位3作品の共通点
・出典を明記し、文章をわかりやすく自分の言葉で説明することができている
・オリジナリティが高いもの(先人たちの研究成果を丁寧にたどり、未開拓の部分をつきとめる)
・社会参画意識が論理的に正確な表現で書かれている
地域で活躍するイケてる「探究人」たちとの対話の時間の後、
それぞれが残りの約1年という時間をどのように過ごしたいのか、何について深めるのか、
そしてどのように表現するのかについて考える段階に入った。
ここからは、個人ないしはグループに分かれての活動がスタートする。
今年は50ほどのプロジェクトが立ち上がった。
今回はその中の「建築について」探っていくことを決めたグループについて紹介したい。
このグループは、将来建築士になることを目標にしている生徒を筆頭に建築に
関心のある生徒3人というメンバー構成だ。
チームが出来たばかりの頃、丹後地域で活躍する建築士の一人、大垣優太さんと
オンラインで繋ぎ、今後の約1年間をチームでどのように過ごすのかについて一緒に考える時間を設けた。
建築といえども範囲が広いので、まずは3人それぞれの関心の方向性を探っていくことに。
一人は長年建築士になることを夢見ており、将来家を自分の手で建てたいという。
また一人は設計士になることを目標としている。
そしてもう一人は過去に自分の住む家をリノベーションした経験があり、
改装後生活の質がぐんと上がったことから、
過ごしやすく居心地の良い空間作りのプロセスに関心があるという。
ここから3人に共通しているのは「空間のデザイン」であることが分かり、
それを起点として活動を開始することを決めた。
そんな3人の様子を見ていた大垣さんから素敵な提案が。
建築士という仕事がどんなもので、それに関わる人たちがどんな思いで向き合っているのかを
直接見に来ないか、というもの。
実際に見ることで具体的に自分たちの関わり方をイメージでき、活動計画が立てられる。
そうして3人は、日を改めて大垣さんの事務所へ訪れることに。
夏休みに入ってすぐのある日。3人は大垣さんの経営する事務所を訪ねた。
大垣さんが網野町に構える設計事務所「U設計室」へ。
大垣さんの事務所で大切にされているのは「日常と風景に寄り添った家づくり」
家であればそこに住む家族、店であればそこで働く人や訪れる人の様子を描き、
その場所で営まれる日常のあり方を探っていく。その場所で過ごす人々から愛される建物を目指し、
共に作っていく楽しみを共有しながら進めて行く過程を中心に置いている。
またU設計室では、地元に根付いた家づくりを手がけているため風景を読み解くことにも力を入れている。
日当たり、隣家の目線、周辺道路の交通状況などは勿論、京丹後市は土地柄雪が多く降ったり、
海が近くにあることなどから除雪や風向き、海との距離など建物を建てる際に考慮すべき点が多くある。
その中で一番気持ちよく周囲の環境を取り込める間取りの提案が出来るよう、
建物を建てる場所の観察を徹底的に行うのだ。
大垣さんの建築の先にはいつも「その空間で過ごす人の喜びと感動」があり、
施主さんに徹底的に寄り添う姿勢がとびっきりかっこいい。
そんな素敵な大垣さんが普段どのような想いで仕事と向き合われているのか
具体的に知るために3人は聞き取りを開始した。
お話を聞いていく中で特に印象的だったのが「その建物を使う人々の生活、
大切にしているもの、困っていること、歩んできた軌跡を知ることこそが仕事の根幹になる」といったお話。
ただお洒落で美しい建物を設計すればいい、という訳ではない。
それを使う人がどうすればその人らしくいれるのか、居心地が良いのか、
暮らしが快適になったり楽しくなったりする仕掛けや動線作りを、
はっとする驚きや感動をもたらすことを常に考えながらもおづくりと向き合う。
だから必ず現場に足を運んで細かい現地調査を行うし、施主(依頼主)さんとの密なコミュニケーションを通して、
その人自身やその人を取り巻く人々のことを理解し、深く知ることはもちろん、
その人の仕事のことまで勉強するという。
「例えば、介護施設を設計してほしい、という依頼が入ったとします。そしたら僕たちはまず、
介護の仕事について学ぶのです」
なるほど。
「良い仕事」とはこういうことか。ビジネスだけのやりとりでない、
人と人との心のやりとり、心の通ったところに生まれる温もりのある贈り物。
そういえば、峰山高校の近くにある児童福祉施設「てらす峰夢」も大垣さんが設計しており、
この前を通ると毎日子供たちの明るい声が響いてくる。
事情があり親と離れて過ごす子供たちにとって「安心して過ごせる家」の価値は大きい。
職員さんも子供たちもみんなが"家族"になれる温かい空間を。毎日笑顔が溢れる環境を。
いつでも「おかえりなさい」と迎えてくれるホームを。
この建物は2019年に京都建築賞 優秀賞を受賞している。
ここまで話を聞いてきて、生徒たちは建築に携わる仕事に益々魅了される一方で少し不安も感じていた。
プロフェッショナルな方から話しを聞くと圧倒され、
高校生の自分たちに何かしらの関わりしろを見付けることは出来るのか、とても難しいのではないか、と。
「この探究活動を通して、自分なりの理想の家の設計をして図面におこしてみたい」
「可能であれば、空き家のリノベーションなどを通して図面におこしたものを実際にデザインしてみたい」
などといったやってみたいことは見えてきたが、現実どこまで実現可能なのか、
この先どんなことが待ち受けているのか......。
探究活動はこれから社会に出て、自分なりのかかわりしろを見付けていくための予行練習であると考えている。
自分がどうありたいのか、何をどんな風に表現したいのか、より良く生きるために何が出来るのか、
自分が選択した道は正しいのか。不安になったり、時には失敗して落ち込んだりすることもあるだろう。
でもこれは誰もが通る道。
今輝いている、成功しているように見える大人の人たちもみんなそれぞれに苦しみや痛み、
恐れや後悔を背負ってここまできている。大垣さんだって、その一人。
それでも今こうして自分なりの建築との向き合い方を確立し、
ここまで続けてこられたのは大小問わず「夢を掲げ、本気でそれが叶うと信じ、何かしら行動をした」からだろう。
小さな積み重ねと一つ一つ実現してきた経験が彼の確固たる自信を築き上げてきた。
自分の手で誰かの喜びや感動、幸せを手助けできること、
それが自分の幸福感に繋がっていることを身をもって知ってしまった。
そしてこれからももっともっと多くの人の感動を生み出し、
分かち合うために「より良い建築のあり方」を常に模索している。
つまり、私たちは生きている限りずっと探究を続けていくのだ。
だから今は、その練習期間だと思って一歩踏み込んだ行動をしてほしい。
行動することで上手くいかないこともきっと出てくる。
でもその一方で、ある程度自分には何ができるのか、どんなことに向いているのかについても分かってくる。
そういう感覚を最初の種にして時間をかけて、水をやったり、
栄養を加えたりしながらゆっくり育てていってほしい。
試行錯誤を繰り返しながら、ある日「あ、できた」「面白い」と感じるまで、
またそういった肯定的な感覚に自覚的になり、体に刻んでいくこと。
そうすることで本気で夢を見る力は育っていくんじゃないだろうか。
あともう一つ大切なことを挙げるとすれば、自分の行動に絶対的な肯定感を持たないこと。
慢心しないこと。疑問を持ち、問い続けること。
ここまで書いていて、ふと思い浮かんだのが糸井重里さんの言葉。
「自分のやっていること、やってきたことが、正しいに決まっている、と思うような場面からは、
あんまり期待できるものは出てこないよね。
迷いが必要だ、というと誤解されそうだけど、
揺れだか、振動だか、問いかけだか、
不安定だか、そういうものが大事なんだと思うんだ。」
(2009年『ともだちがやって来た。』p.205)
だから今は、できるかぎりたくさんの人や文献、場所と出会って、話して、聞いて、
たくさんの感情を味わって、少しずつ自分の中の種を育てていこう。
いつか君だけの大きな花が咲く日を心待ちにしながら。