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【京丹後市民の幸福度~この地域で生きていくということ、そしてそこから見える可能性~〈長瀬啓二さんへヒアリング〉vol.2

 

遅ればせながら新年明けましておめでとうございます!

昨年は皆様にとってどんな年だったでしょうか。

 

世間はまだまだ安心して過ごせる状況にはなっておりませんが、

withコロナ」で少しずつ規制がかかっていたものが緩和されて、

一昨年と比較すると比較的地域活動が活発に出来るようになりました。

 

今年はどんな1年になるでしょうか。

チャレンジしながら毎日を面白く過ごしたいものです。

皆様にとっても実りある1年になりますように。

今年も高校生たちの探究活動をなるべく多くの人たちに伝えるべく、

頑張って記事を更新する所存ですので、何卒よろしくお願いいたします。

 

それでは本題に参りましょう。

前回の記事で、京丹後市民の幸福度から未来のこの町のあり方を考えるという

目的で探究活動に取り組んでいる高校生たちの紹介をしましたが、

今回の記事はその続きになります。

この取組についてもかなり記事が多くなりそうなのですが、

最後までお付き合いいただけますと幸いです...。

 

前回の記事はこちらからご覧ください!

vol.1

****

今回高校生たちがヒアリング対象に選んだのは、

一般社団法人Tangonianの長瀬啓二さん。

長瀬さんは網野町出身なので、Uターン者として

京丹後市で暮らしておられます。

 

長瀬さんが考える幸福とは一体どういったものなのでしょうか。

せっかくの機会であるので、ぜひオフィスでお話をしましょう、

というご提案をいただいたので、網野町浅茂川にある事務所まで足を伸ばしました。

 

まず、Tangonianのオフィスに到着した瞬間、

高校生たちは感嘆の声を上げました。

ひょっこりと動物たちが顔を出しそうな鬱蒼とした森の中に

突如現れた立派な古民家。


長い歴史を感じさせるとともにそれを生かしながら

現代風にリノベーションされた美しい空間。

オフィスと自宅が合わさっており、

「良い仕事は豊かな暮らしから」をモットーにしているというこの建物では、

至る所に長瀬さんの拘りを見ることができます。

 

まずはオフィスを案内していただきました。

ゲスト用の部屋もあり、宿泊も可能なため全国各地から

丹後を訪れる人々をここでもてなすそうです。

同時に地元の人もこの場所に集うため、ここは丹後と他地域の交流拠点。

あるとくんチーム×長瀬さん⑧素敵なリビング2.JPG あるとくんチーム×長瀬さん⑦お家探検2素敵なリビング.JPG

あるとくんチーム×長瀬さん⑥お家探検.JPG あるとくんチーム×長瀬さん⑨本コレクション.JPG

面白そうなものがたくさん置いてあり、

もっとじっくり見せて頂きたいところでしたが、

そろそろ本題のヒアリングに入りました。

 

〈長瀬さんへのヒアリング〉

――僕たちは、元々京丹後市の人口がどうすれば

増加するのかに視点を当てて探究活動を進めていたのですが、

調べていくうちに将来的に人口減少していくことは

避けられない事実であることが分かりました。

そこで視点を変えて、人口減少をしても続いていく

この地域の在り方について考えてみようと思ったんです。

もし京丹後市民の幸福度が高ければ、必然的にこの地域に住み続けたい、

と感じるのではないか。

それが結果的に持続可能な地域としてあり続けるのではないか。

そのように考え、まずは主観的なデータを得るために

京丹後市民の何人かの方にヒアリングをし、

この地域で暮らすことで得られる幸福感について調査することにしました。

 

とっても面白いテーマですね!お話をするのが楽しみです。

 

――では早速ですが、長瀬さんのご出身は京丹後市ということですが、

ざっと経歴を教えて頂いてもよろしいでしょうか。

 

はい。僕は京丹後市網野町で生まれて、

高校は福知山の学校に通っていました。

大学では京都市内に出ましたね。

大学の時に休学をして、オーストラリアにワーキングホリデーに

出た体験や自閉症の高校生の外出ボランティアなどに関わった経験が

僕の価値観を大きく変えるきっかけになりました。

また素晴らしい恩師との出会いもあり、

教員になろうという想いが強まります。

卒業後は暫く中学校の英語教員として働いていたのですが、

忙殺されて心と身体を壊して、帰郷します。

そこからいくつか仕事を転々とした後、

今のTangonianという会社を立ち上げました。

 

――Tangonianとはどんな会社なのですか?

 

「暮らしと旅」「Local×Global」の交差点を共創することで、

生き方や暮らし方を再発見し、地域に誇りが持てる人材を育てたり、

持続可能で異なる文化や価値観を受け入れる地域作りをすることが

目的の会社です。


簡単に言うと、旅行会社で丹後地域を中心に京都北部のエリアの

魅力を発信すべく、ツアーを組んで外から来る人たちを

案内しているのですが、ただその場限りの繋がりで終わるのではなく、

地元の人にとってもこの地域に来てくれた人にとっても

出会って良かったな、という体験を持ち帰ってもらいたい。

お互いが出会うことによってポジティブに影響し会う関係性を

編むことが僕たちの使命です。


その体験がきっかけで地域側が新しい仕事を受注できるようになったり、

新たな人がこの地域を訪れてくれるようになったりするための

きっかけ作りをしようとしている感じかな。

 

――なるほど。その場限りのツアーで終わらせない、

地域密着型の旅プランということですね。

それにしてもとても立派なオフィス(古民家)ですね。

このお家は長瀬さんがご購入されたのですか?

 

とても幸運な話なんだけど、ここは前に僕の親族が住んでいて。

元々家族の持ち家だから、家を空けるタイミングで

僕が使わせてもらうことになりました。

 

丹後に戻ってきた当初は、別の場所でオフィスを構えていたんですけど、

そこを出ないといけなくなって次どうしよう...

と思っていたタイミングでご縁があって。

あるとくんチーム×長瀬さん②全体(ヒアリング場面).JPG

――それは幸運でしたね。では早速本題に入っていきたいと思いますが、

先ほどのお話の中で長瀬さんは先生をされていて、

身体を壊してこちらに帰って来られたと仰っていました。

その時のお話をもう少し詳しく伺っても良いですか?

 

はい。大学を卒業してから中学校の英語の教員として

暫く働いていたのですが、兎に角毎日忙しくて......。

部活もかなり気合いを入れて見ていたので朝練のため早朝に学校へ出勤し、

勿論夕方もがっつり練習を見た後で、次の日の授業準備や雑用をこなす日々。

ここに生徒相談やクラス運営なども重なって、自分のことは常に後回し。


そんなある日、これはさすがにやばいな、という出来事があって。

テニス部の練習を見ていた際、何気なくコートの隅に目を落とすと

沢山の蟻が巣に向かって一生懸命食べ物を運んでいる光景が

飛び込んできました。

何だかそれを見て涙が溢れてきてしまって......。

蟻を見ておまえらも一生懸命生きてるんだな、って。

無意識にボロボロ泣きながら感じました。あぁ、限界だなって。

そこで一度地元に戻って自分自身の生活を取り戻そうと思いました。

 

――なるほど。それは大変でしたね。

今の生活はその当時と比べて変化はありますか。

 

正直、こちらに帰ってきたばかりのころは何とか立て直さなきゃ、

という焦りもあったりして結局仕事をガツガツしてしまったりしていました。

自分の暮らしを見直すようになったのは、

それこそコロナがきっかけですね。


ローカルな暮らしの豊かさをPRする仕事をしているはずなのに、

自分の生活は"豊かさ"とはかけ離れている。

地元の人とも外から来る人ともゆっくりと関係を

編み直していったのがこの数年です。

でもそうしてみて改めて思いましたよ、丹後って良いところだなぁ、と。

 

――そうだったんですね。丹後のどんなところが好きですか?

 

まずはなんと言っても食べ物が美味しいところでしょう。

きっと皆さんも一度地元を出たら気づくと思いますが、

やっぱりお米が美味しいんですよ。

旬の物を季節ごとに楽しめるのもいい。

海鮮も新鮮だし、お酒だって最高ですよ()

あとはチャレンジを面白がって応援してくれる環境がある、

というのもこの地域の特徴として上げられると思います。

あるとくんチーム×長瀬さん⑩長瀬さんの笑顔.JPG

――あ、それ船戸さんも仰っていました! 

丹後の人は挑戦を応援してくれるって。

 

そうなんですよ。

僕が独立して会社を起ち上げた当初、本当にお金がなくて。

そんな時地元のおっちゃん達が僕を連れ出してくれて。

ご飯屋さんに連れて行ってくれて、

「とにかく食べーや」って。


そして悩んでいることとか、これからやってみたいと思っていることとか

全部聞いてくれた上で、心から応援してくれたんですよね。

「そりゃおもろいわ。楽しみにしてるで」って背中を押してくれて、

ご馳走までしてくれた。

新しい仕事が軌道に乗るまで、そうやって何度も救ってくれました。

 

――新しいチャレンジを応援してくれる人が沢山いると心強いですね。

 

本当にそう思います。

古い映画やけど「ペイフォワード」っていう作品があって。

日本語でいったら「恩送り」っていうのが近いかな。


小学生の男の子が主人公なんだけど、

社会科の授業中に世界を変えるアイディアを思いつく。

それは、人から施しを受けたら別の3人に返すというもの。

慈善の波がどんどん広がっていって......という物語なんだけど、

僕はこの考え方がすごく好きで。


僕が苦しい時におっちゃん達が僕を救ってくれたからこそ、

今の僕がここにいる。じゃあ、次は僕が誰かの支えとなる番。

受け取った恩を別の誰かに繋いでいく。

そういう風に生きていきたいな、って思います。

 

――「恩送り」 素敵な言葉ですね。

丹後の人はチャレンジを面白がって

応援してくれる人が多いとのことですが、それはなぜだと思われますか。

 

それについては僕なりの仮説があって。

みんなも学校で習ってると思うけど、

丹後地域には大きな古墳が沢山あるよね。

古墳の規模の大きさや出土しているものから、

この地域は大きな力を持っていたこと、

また海外(朝鮮半島など)から渡ってくる人々の玄関口に

なっていたとされています。


遙か古代から文化交流が盛んに行われていて、

ある意味この丹後半島の地域はとてもグローバルであったのではないか、

と推測されているわけです。


その当時から、外のものを寛容に受け入れていた、という人々の気質、

DNAが現在にも受け継がれているんじゃないか、と僕は思うわけです。


「よく分からないけど、何か面白そう」


丹後の人は、そういったものに敏感に反応して一緒に面白がって、

応援してくれる。そんな気がしています。


あくまでこれは仮説だけど、あながち間違っていないのではないか、

と考えさせられる本もあるので、興味があればぜひこの本を読んでみて!

 

そう言って長瀬さんが、本棚から取り出したのは

『「海の民」の日本神話―古代やポネシア表通りをゆくー』(新潮選書)

という本。

古代日本、とくに「裏日本」と言われる日本海側の地の見方が

がらっと変わる1冊になっているという。

高校生たちも面白そうだ、と早速メモを取ります。

あるとくんチーム×長瀬さん①本を見ながら.JPG

 

――ここまで大変興味深いお話をお聞かせいただいたのですが、

長瀬さんの今後の展望についてもお聞きしてよろしいでしょうか。

 

Tangonianという地域密着型の会社を起ち上げて、

色々なプログラム作りに励んでいますが、

今後取り組みたいと考えていることの一つは

この地域の中で内外関係なく、様々な文化や背景を持っている人々同士が

自然と交流できる企画を作っていきたいです。


今まで当たり前だと思っていたことが良い意味で揺らいでいく、

その揺らぎがきっかけとなって自分の大切にしてきたものや、

大切にしていきたいものを見直していく、考えるきっかけ作りをしたい。

あともう一つは、海外の大学生と日本の学生を繋ぐプログラムを

構築していくことも目標です。


僕、仕事で海外の学生さんとよく出会うのですが本当にいつも驚くんです。

その意欲の高さに。論理的に物事を伝えられるのは勿論のこと、

自国のことをきちんと学んで理解している。

そこまでできる学生は残念ながら日本には少ない。


やっぱり、比較をしなければ自分の立ち位置って見えてこないんですよね。

だからこそ、そういった世界を知り、

自分や自国を理解するような場を設けたい。


――それ、すごく良いですね。そんな交流の場が地域にできればもっと丹後は面白くなると思います! 

では最後になりますが、長瀬さんの考える「幸せ」とは何だと思いますか。

 

「幸せ」かぁ。いやぁ、改めて言葉にすると難しいよね()

でも僕も海外を含めて色々な場所で生活したことや

様々な分野の仕事に携わった経験を経て、今こうして丹後に戻ってきて

事業を立ち上げている訳だけど、毎日すごく充実しているな、

今日も頑張ったな、と思って一日を終えられるのは

今の生活を始めてからなんだよね。

 

自分で選んで、納得しているかどうか。

これが幸せの軸になっていると思います。

どんな暮らしをしたいのか、どんな人と一緒に働きたいのか。

特にこの2つは幸せの指標と捉えています。

 

自分の理想とする「豊かな」暮らし、そして「豊かな」人間関係。

この2つが今丹後で生活をする中で叶えられています。

あるとくんチーム×長瀬さん③長瀬さんピン.JPG

〈ヒアリングを終えて〉

 

今回も情報量がとても多いので、頭はパンク寸前、おなかはいっぱい状態。

それでも彼らの満足そうな表情を見ていると、豊かな時間が過ごせたのだな、と分かります。

長瀬さん、素敵なお話をありがとうございました。

 

最後にみんなで感想を言い合ったので、

そちらを記録して記事を締めたいと思います。

 

高校生の感想

「お話を聞かせていただいて、改めて僕たちは丹後のことを知らなさすぎる、と感じました。

知れば知るほどこの地域の面白さが分かってきた。

この感動の気持ちを他の人にも伝えられるように

自分の言葉でまとめていきたいです。」

 

「前回の船戸さんと共通するお話も聞けました。

それも踏まえると、丹後地域の人々は

人に与えることの豊かさを知っている(ギバー)人が多いのではないか、

と思いました。」

 

「知らなかったことを知る、とても良い機会になりました。

人生にも活かせるお話を沢山聞くことができ、学びにもなりました。

とても面白かったです。」

 

長瀬さんより高校生へメッセージ

「今回お話をしていて、みんなの目が輝く瞬間に出会えたことが

僕にとっての喜びです。

人が"いい顔"をする時は、面白い!ワクワクする!好きだ!といった

ポジティブな感情が働いています。

これは学びの原動力であり、人生を豊かにする種でもあります。

ぜひその気持ちを忘れずにこれからも大事に育てていってくださいね」

 

あるとくんチーム×長瀬さん④ヒアリング場面2.JPG

 
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