網野学舎
世界中の人々に多くの感動と勇気を与えたパリオリンピックが閉会しました。レスリング・男子フリースタイル74kg級で見事「銀メダル」に輝いた本校卒業生の高谷大地さんが、忙しい合間を縫って取材に答えてくれました。
パリオリンピック レスリング 男子フリースタイル74kg級 【銀メダル】
高谷大地さん(自衛隊体育学校)
私は3人兄弟の末っ子で、一番上の兄がレスリングをしている姿を見て格好いいなと思いレスリングを始めました。キッズ教室の手伝いをしていた高校生の方々が優しく、たくさん相手をしてくれて楽しかったです。
高校生の時は大の負けず嫌いで、先生の熱意もあり、とにかく一番練習をしてやるんだと思っていました。大学は次男である一つ上の兄(惣亮・後にオリンピック3大会連続出場)の姿に憧れ、同じようになりたいと思い進学し、兄と一緒に練習ができることに喜びを持って練習していました。そして現在所属する自衛隊では、レスリングそのものが仕事であるため、とにかく結果を出さなければならないというプレッシャーで苦しいこともありました。本気で覚悟を持って取り組んだ時期は入隊3年後の東京五輪が終わった後でした。「負けたらレスリングを辞める」という覚悟で練習に取り組みました。
パリ五輪では、とにかく自分が出来ること、やってきたことをそのまま出そうと戦いました。試合に勝利した時、私がしてきた努力の方向性は間違っていなかったんだなと気づき、とても嬉しかったです。決勝進出が決まった時にはメダルが確実に手に入るという喜びと、もしかすると金メダルが取れるかもしれないという気持ちでした。ただ、試合は翌日の夜だったので、ほぼ1日中緊張しっぱなしでしんどかったです。
決勝ではフォール負けをしてしまいました。これまでも負けてしまう時はあっさりと負けてしまうことが多く、また、自分に過度に期待をしてしまった時などもそういうことが多かったので、最後は自分に負けてしまったところが「自分らしいかな」と思いました。ただ、ここまでくるとは思っていなかったですし、ここまでよく頑張ってこれたという思いが込み上げてきて、最後はオリンピックを楽しんで笑顔で終わりたいと思いました。
観客席を振り返り、こんなにもたくさんの人に応援してもらえたこと、またレスリングは多くの人に出会わせてくれたと感じました。人として成長させてくれたのは、あのときキッズでレスリングに出会うことができたからだと思いました。敗戦後に観客席に走り、みんなとハイタッチをしたのは、できるだけたくさんの人に直接感謝の気持ちを伝えたいという思いと、「レスリングは誰でも楽しめる身近なスポーツ」であり、もっと多くの人がレスリングの楽しさを知って始めてほしいと心から思ったからです。
私は3月に母校であった壮行会で、「全力で続けて、全力で失敗をしてみてください。その失敗が必ず、自分をさらに『最強』にしてくれます。」と話しました。パリ五輪でメダルを獲得したことは私にとって大成功でしたが、勝負に関しては決勝で負けるという「失敗」をしました。しかし、全力で取り組み、全力で表現することは見てくれている人や応援してくれている人たちに多くの勇気や感動を与えるということを知りました。一生懸命やることは恥ずかしいことでも格好悪いことでもありません。努力の方向性を正しい方に導き、自分の目標や夢に少しでも近づくために一生懸命に取り組む姿勢は何よりも格好いいことだと私は思います。人生これで終わりではないですし、この失敗もまた私を成長させてくれました。やはり、挑戦することは最高に格好いいことだと思います。
今後は関わってくださった方々へできるだけ直接感謝をお伝えしに行こうと思っています。そしてしっかりと英気を養い、次の挑戦に向けて色々な情報を得ながら、人間力をさらに向上させていきたいです。
...決勝後は勝者を笑顔で担いで最大限に称え、帰国後はレスリング普及のために自らが発起人となってメダリストによる握手会や撮影会を実施した高谷さん。決して自分だけのためでなく、人のため、競技のために全力で行動する姿や人間性は「金メダル」以上の輝きがあると私は感じました。高谷さん、しっかり休んで、次の目標に向かってさらに前進していってください。これからも応援しています。
(取材・文 安達卓能)