学校生活School Life

これからの"地域福祉" ケアとは何か、を考える

 

みなさん、こんにちは!
急にとても寒くなりましたね。


寒暖差が激しい昨今、体調を崩す人も

多く出ているとのことなので、十分に気をつけていきたいですね。


さて、それでは本題に参りましょう。

今回紹介するのは、2年生の「看護医療・福祉」チームに

所属する高校生チームのこと。


彼女たちは少子高齢化が叫ばれる地域の

今後の医療体制の在り方を検討したいと考え、

探究活動を進めていました。


そして他地域の取り組みを色々と調べる中で、

何とまちの本屋さんが地域住民の健康相談にのっている、

という情報を得ます。


それは、お隣の兵庫県豊岡市にある本屋さん。

お店が大開通りに面していることから

「だいかい文庫」という名称で知られているらしい。


お店の運営についてさらに調べていくと、

経営者はお医者さん。

お医者さんが在中している本屋さん......?

ますます気になるので、実際に見学に

行ってみることにしました。


実際にお店の前に辿り着くと、

扉は全部ガラス張り。

外から中の様子が伺えます。

「この設計、ちょっとrootsにも似てるね!」

何て言いながら、「お邪魔しま~す!」と

扉を開けていざ中へ。

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「こんにちは~!」

私達を元気に明るく迎えてくれたのは、

その日お店番をしていたみきさん。


「初めてのご来店ですか?」

「初めて来ました~!」

「ではまずはお店の案内をしますね。」


みきさんの案内で、お店の中を

巡回します。


最初に案内してくださったのは

お店の中でも一際目を引く本棚について。

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お店の半分以上は本棚が占めており、

ぱっと見ただけでも色々な種類の

本が並んでいるのが分かります。


しかも本だけではなく、ある棚にはこけしなどの

民芸品、またある棚にはプラモデルなどが置かれ、

棚ごとに雰囲気が全然違って面白い。


「こちらは一箱本棚、と呼ばれるもので。

各本棚ごとにオーナーさんがいます。

こちらの棚にある本は全て貸し出しが可能なのですが、

貸出している本は、すべて本棚オーナ-さんによる

オススメ本なの。

だいかい文庫では、一箱本棚オーナー制度という制度があって、

オーナーさんになるとだいかい文庫に

自分だけの本棚を持つことができます。

自分の気に入っている本や、人におすすめしたい本など

自由に置くことができ、本を通しての交流や棚を使っての

自己表現ができるんですよ!

オーナーさんは、行政職員や医療従事者、アーティストに

学校の先生など、様々な方がいらっしゃいます。」

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なるほど。

本棚はそれぞれの個性が表現されていて、

会ったことがない人でも親近感を覚えたり、

この人と話してみたいなぁ、という思いが湧いてくる。

棚には、オーナーさんの名刺も置かれていて、

気軽にご本人に連絡も取れるシステムになっているようだ。


ちょっとした飲み物も提供しており、

ちょっとまったり飲みながら本でも読もうか、と

落ち着けるスペースがあったり、新刊本コーナーも

あったりして、こちらは本屋として利用ができる。


図書館としても本屋としてもカフェとしても

利用できる多目的な場。

自分の使いたい用途によって使い分けすることができ、

緩やかに人々が繋がっている感じが心地よい。


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「みきさんは、いつからだいかい文庫の

お店番をされているのですか?」


「私は今年から入ってから、まだそんなに

経ってないんだ。」


みきさんは、ここに来られる前は看護師として

働いていました。

大きな病院で毎日無我夢中に働いていたある日、

ぽつん、と自分一人だけが取り残されて

しまったような感覚に陥ったと言います。


「患者さんのケアをする毎日。確かにやりがいもあったけど、

自分のケアが全然できてなくって。ある時、ぷつん、と

自分の中の何かが切れちゃったんだよね。

どうにか自分を保っていた糸が、ついに私自身を支えきれなくなって

限界でちぎれた、って感じかな。

あれ、私何のために働いてるんだっけ?

何が好きなんだったっけ?って。

それで、あ、これはやばいなぁ、と思って、

ここに来たんです。一回社会から離脱しちゃったから、

ここでこうして人と接することは、私にとって、

もう一度社会復帰するためのリハビリでもあるんだぁ。」


そう朗らかに笑うみきさん。

きっと想像に絶する苦しみを体験したのだろう。

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「元々珈琲と本が大好きで。

この環境は私にぴったりなんです。

何かワクワクすることを見つけたくて、

お店番しています! 

こうして高校生が関心を持ってくれて、実際に

足を運んでくれるなんて、本当に嬉しいです♪」


看護師に興味を持っているという高校生たちは、

お店を案内してもらいながら、みきさんの看護師時代の

お話しも色々と聞かせてもらっていました。


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そしてここからは、インタビューの時間。

インタビューからは、みきさんとバトンタッチして

だいかい文庫のスタッフ兼居場所の相談員もしている

はるおさんこと、佐藤さんに担当していただくことに。


佐藤さんは秋田県出身。秋田の看護学校を卒業後、

東京で看護師として「看取り」と「終末期医療」に

触れる中で、"生の最期"に向き合う重要性に気づきます。


その後、京都府綾部市にて「コミュニティナース」

(地域の中で住民とパートナーシップを築きながら

地域の健康増進を図る新しい看護師の働き方)、

京都府で地域づくりに関する仕事、東京都内で

訪問看護を経験。


そして現在、だいかい文庫のスタッフとして

地域の人々の健康を見守り、ケアをすること、

居場所の相談を受ける仕事をしています。

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「佐藤さん、今日はお時間をいただき

ありがとうございます!

私達は学校の探究の授業で、地域医療をテーマに

活動に取り組んでいます。

これから少子高齢化が進む地域では、

気軽に健康相談などができる仕組みが

必要だと考え、色々と他地域の取り組みについて

調べている中で、だいかい文庫さんのことを知りました。

ここは、お医者さんが起ち上げた、という記事を見ましたが

どうして医療従事者の方が本屋を運営しているのでしょうか?」


「このだいかい文庫を起ち上げたのは、豊岡の病院に

勤める医師、守本さんという方です。

守本さんは、病院の中だけでは解決できない課題が

沢山あることをいつも問題視されていました。

孤独、生きがい、役割、過疎地域での医療、

地域共生共同社会の実現......。

そんな中、医師や医療従事者が白衣を脱いで、町に

繰り出すことでできることが有るんじゃないか、

と始まった活動が起点になっています。」


何と面白い視点でしょう。

だいかい文庫を運営する守本さんは、

事業を起ち上げるにあたって、「ケアと暮らしの編集社」

という会社を創られたのですが、この会社のコンセプトは

「ケアするまちをデザインする」

つまりは街に暮らすことで健康になっていく社会の実現を

目指すということです。


そしてこの社会を実現するためには、医療介護者のみならず

街に住む人々もみんな主体を持って関わってもらうことが

大切なことだといいます。

そのためには、まちづくりやアート、デザインといった

一見医療とはかけ離れた分野の人々とのコラボが

まちに明るさをもたらし、ポップで楽しい社会実現の

第一歩。だから、だいかい文庫の本棚もスタッフさんも

本当に多様で、面白い背景を持っている方々ばかりなんだなぁ。

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「なるほど。だいかい文庫ができるまでの経緯や

目指していることなどが分かってきました!

佐藤さんは、ここでどんなお仕事をされているんですか?」


「私はリンクワーカーという仕事をしています。

リンクワーカーって聞いたことある?」


この質問に首をかしげる高校生ら。


「リンクワーカーって最近出てきた職業だし、

まだそこまで認知されていないんだよね。」


リンクワーカーとは、その名の通り

"人とコミュニティを繋げる役割を果たす人"のこと。


リンクワーカーのことを知るには、まず「社会的処方」に

ついて知る必要がある、と佐藤さん。


社会的処方とは、イギリス発祥の言葉。

"身体的・精神的のみならず、

その背後にある社会的健康要因に対して、

様々な支援や地域の取り組みに繋げ、

Well-beingの向上を目指すアプローチ"という定義で説明されます。

Well-beingとは、"幸福"を指す言葉。

孤立が引き起こす生活習慣病などの社会課題を、

医療機関と地域コミュニティが連携することによって

解決を目指します。

つまり、医療機関は患者に対して

薬ではなく「人と人との繋がり」を処方するのです。

「私はここでリンクワーカーとして、

様々な悩みを抱えた人たちの相談にのったり、

然るべき専門機関と繋ぐお仕事をしています。」

病院は、明らかに身体が不調でないと

行きにくい雰囲気があります。

だけど、こうして何気なく入った書店で

何気なく話しを聞き、相談に乗ってくれる人がいたら

人々の安心材料になるのではないでしょうか。

薬は物理的に身体の不調を治すものかもしれないが、

人の心はそうはいきません。

時間はかかるもしれませんが、自分を認めてくれる人の存在、

自分を表現できる場所、ワクワクする物事、

そういう要素が人が前向きに生きていくためには必要です。


結局、一番人に効く薬は、人なのかもしれません。


「少子高齢化が進んでいく地域では

なおのこと、地域での繋がりが健康に大きな影響を

与えます。地域住人のみなさんの暮らしが

明るくポップなものになるよう、

私もその人の人生に少しでも関われたら、と

思って今ここで色んな事を学びながら

働いています。」


佐藤さんの言葉を聞いて、

すごい......と、感銘を受けた様子の高校生たち。


「健康とはどういう状態のことを指すのか」

そもそもの定義から捉えなおしてみる必要が

あるのではないか。


そしてその「健康」の状態を一人でも多くの人が

実現できるようにするには、地域にどういった仕組みや

取り組みがあればいいのか。


きっと今回の見学とインタビューを経て、

何かヒントを掴んだと思います。


今後、高校生たちがどんな答えを出すのか

楽しみですね!

 
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