ICT活用による「学ぶ機会」の拡がり
平成29年度 東京大学先端科学技術研究センター 近藤武夫 准教授
京都府総合教育センターでのICT活用は、今年度で2年目の取組となり、1年目の活動を土台と して、大きく活動を拡大することができました。通級指導教室での「読み書きアセスメントの実施」と「音声教材を使った指導」という中核的な取組に加え、いくつかの関連する教育活動への新たな取組が生まれました。「通常の学級での活用」、「テストでの活用」、「家庭学習への影響」、「読みだけでなく作文への展開」などです。いずれも児童生徒の学ぶ機会の保障にとって、重要なことばかりです。本プロジェクト研究により、通級指導教室を飛び越え、通常の学級や家庭にと、子どもたちの学びの機会を大きく広げる結果が得られました。また研究協力員として参加してくださった先生方を後方支援する京都府総合教育センターの体制も整い、先生方と京都府総合教育センターが連携して教育現場の問題を解決し、指導案を考える実践が生まれました。その成果は、本報告書の実践事例に表れています。
もう一つ印象的だったことは、今年度の活動では、実践報告の事例に表れた子どもたちだけではなく、実際に関わってくださっている先生方ご自身に、ICTの活用によって、子どもたちの学びを一歩先に 進め、拡大することができた喜びと指導への意欲の高まりを強く感じた一年間だった、ということです。他の児童生徒と同じ方法で学ぶことが難しい児童生徒の指導に向かい合う中では、教員自身も「どのように指導を進めていけばよいのか」と大きな困難に直面します。紙の印刷物の読み書きが難しかったり、鉛筆で文字を書くことが難しい児童生徒は、長期間に渡る指導・介入を行っても、明確な効果が見られないことがあります。そうした子どもたちの学びの機会を増やし、長期的な教育目標を立案するにはどうしたらいいのか?と悩む教師は少なくありません。もちろん、読み書きの困難のある児童生徒に対しては、ICTに限らず、多様な指導や介入の方法があります。そうした多くの手段と工夫のひとつとして、 ICTや音声教材を使った指導が加わったことは、先生方にとっても、新しい学びや希望となったのだと感じました。
一方で、府内の通級指導教室を対象とした調査研究からは、残された課題も浮き彫りになりました。多くの通級に、指導に利用できるICT機器があるものの、音声教材の利用は行われておらず、読み 書き困難のアセスメントも行われていないことがわかりました。試験においても、ほとんどICTが利用されていないか、成績として扱わないことがわかりました。「他の児童生徒と同じ学習方法でなければ評価されない」という学習環境がそのままになっていることは、合理的配慮のないままに、読み書きの困難のある子どもたちが教室で学ぶ機会が保障されないまま、取り残されていることを意味します。児童生徒の当然の選択肢として、ICTを学びの手段のひとつとすることができる教育環境を整える努力を、私たちは地道に継続していく必要があります。
ICTの活用では、他の児童生徒とは異なる方法を選択するために、教員や学校、本人や保護者のはっきりとした意思決定が必要となることがあります。その意思決定を支えるためには、教員や学校が長期的な視点に立ち、子どもたちが、自らに合った学びの方法を確立し、自立的な学習者として成長していくことを支援する体制を整えていく必要があります。次の学年へ、小学校から中学校へ、中学校から高等学校へ、高等学校から大学や学校教育を卒業した後の学びの保障へと、長期的な「移行支援」の視点に立ったICT利用(学び方の確立)を確立していくことが期待されています。今年度の研究協力員の先生方と京都府総合教育センターによるプロジェクト研究の成果からは、それが実際に可能であることを具体的に想像することができます。移行支援の視点に立ったICT活用は、次年度のプロジェクト研究の目標となります。子どもたちが将来の学びに夢や希望を抱くことのできる環境作りを目指し、次年度の活動に取り組めたらと思います。
