移行支援(実践例)
就学や進学、就労による移行は、児童生徒、保護者、学校にとって大きな節目です。児童生徒(や保護者)と教職員が、ともに試行錯誤し検討を重ねて合意形成を図り、児童生徒が自分に合った学びの方法を獲得し、その使用によって主体的に学ぶことができるようになった取組は、進学先、就職先などでも継続してもらえるのだろうか‥という不安は、よく聞かれることです。
このプロジェクト研究の中でも、移行支援を一つの大きな課題として取り組んできています。
小学校から中学校へつなぐ【意思表明により配慮の継続ができた】
児童
- 小学6年生、学習障害、注意欠陥/多動性障害
- 文章を読む速度は、同じ学年の児童よりも少し遅い。
- 自読・代読とも、内容理解がかなり困難である。
- 本人は、代読のほうが内容理解がしやすいと答えている。
小学校での取組
1.通級指導教室
ねらい
自分でタブレット端末を操作して、音声読み上げで教科書の内容を聞いて、内容を理解することができる。
使用教材及び教具
国語科の教科書データ 『AccessReading』(参考1)と『読み上げソフト和太鼓』(参考2)を入れたタブレット端末
参考1 読むことに困難があり、特別支援を必要とする児童生徒のためのオンライン図書館(東京大学先端科学技術研究センター)
参考2 Microsoft Word に表示された文章を読み上げる無料のアドインソフト「和太鼓 Wordaico」
指導内容
タブレット端末の操作方法を教え、音声読み上げで教科書の内容を聞かせる。
指導の結果
タブレット端末の音声読み上げ機能を活用することで、「読み」が楽になり、内容も理解できるようになった。
テストでもタブレット端末を使ってみたいという意欲が見られた。
しかし、通常の学級でタブレット端末を使用することは心理的なハードルがある。
2.校内委員会での合意形成
タブレット端末の音声読み上げ機能を活用したテストは、別室で教師が監督して行う。
タブレット端末による音声読み上げ機能を活用できない場合には、教師が代読することとし、その場合のルールも決めた。
3.個別の教育支援計画の活用
小学校で行っていた指導や合理的配慮の内容について、個別の教育支援計画に記載し、中学校への引継ぎの資料とした。
中学校での取組
4.校内委員会での合意形成
通級指導教室
週2回の指導を行う。
タブレット端末で教科書データを読み上げる操作方法について継続して指導する。
家庭学習のために、このタブレット端末の貸し出しを行う。
定期テスト
別室で教師が問題文を代読する。
5.定期テストにおける合理的配慮の提供
場所
テストの時間には、別室に移動する。
理解教育
通常の学級の授業では、タブレット端末を使用することは、心理的なハードルがある。
学級のほかの生徒に、別室で試験を受けることにかかわる説明はしていない。
内容
基本的にテストの作成者が読み上げる。
手順
①本文・設問を全て読み上げる。
②生徒からの申し出があれば、その箇所を読み上げる。
※英語科についても同様の手順で行っている。
リスニングについては、設問も読み上げている。
教科
全教科
時間
時間の延長は行っていない。
評価
本人の力として評価している。
個別の教育支援計画を基に、小学校から中学校へ切れ目なく支援が移行されています。小学校で行われていた指導や合理的配慮の内容が、中学校においても、本人・保護者の申し出を基に合意形成され継続して行われました。
組織的に継続した支援の記録は、高校入試の際、合理的配慮の提供(タブレット機器による音声読み上げ機能の使用等)の可否を判断する根拠となります。
上記以外の取組例としては、
- 進学先の中学校から複数の教師が小学校の授業を参観し、タブレット端末をどのように使用しているのかを知り、中学校で活用するイメージを早くから持ち、準備を進める。
- 中学校入学前(小学校在籍時)に三者懇談(保護者・小学校・中学校)を実施し、本人や保護者の思いや希望も含め、情報共有を図る。
- 受け入れの準備として、教職員研修を実施し、共通理解を図る。
といったことが、研究協力校で実施されました。
中学校から高等学校へつなぐ【入試はゴールではない】
生徒
- 書字障害の診断
- 特に漢字の読み書きに困難(時間がかかる)がある。
- おおむね内容の把握や理解はあり、説明することもできる。
- 個別指導の中では、タブレット端末やパソコンを利用することに抵抗は見られないが、集団の中ではみんなと同じ学習がしたい、自分だけ特別なことはしたくないという思いが強い。
小学校から中学校へ移行の取組
- 学期に1回の授業参観と懇談実施(生徒指導、養護教諭、特別支援教育コーディネーター)
- 保護者から中学校の特別支援教育コーディネーターへ、移行支援シートを介して面談
- 入学式前日のリハーサルで、生徒と中学校教員が互いを知る取組
中学校の取組 ~ 本人と相談しながら、高校入試を意識した配慮 ~
通級指導教室
ねらい
教科書の本文の内容を理解する。
文章の内容に即した漢字変換ができる。
使用教材及び教具
タブレット端末(ロイロノート)、 パソコン
指導内容
タブレット端末での読み上げと文字入力
パソコンでの文字入力時間制限の中で入力練習
タブレット端末の使い方(アプリの活用等)の学習
文章の解答や自分の思いを入力するとき、適切な変換にする。
指導の結果
タブレット端末を使って文章化することで、使う言葉が広がっている。
漢字を用い、自分の言葉で書こうとし、丁寧に書くことを意識するようになった。
通常の学級における授業等
個別に行った変更・調整
音読に抵抗があるが、ふり仮名を打たせながら一緒に読むことでスラスラと読める。
漢字を使うと漢字を書くことに意識が向かい思考がとまってしまうため、漢字を避け、平仮名で書くことを可とする。
タブレット端末を使って文章を作成する。
手書きが枠内に収まらないためプリント、テスト(問題用紙、解答用紙とも)は拡大コピーしたものを使用している。
定期テスト時の時間延長(1.3倍)、拡大コピー(全教科 A3サイズ) 、大きな机の使用
英語と国語は読み上げ
<学校生活全般での変化>
自信がつき表情が良くなった。
自由に書いてもいいことで安心でき、 自分だけに指示されるのではない安心感も持てるようになった。
教職員研修 ~ 学年研修から全体研修へ ~
内容
発達障害について
ICT機器の効果的な使い方
音声翻訳機 英語をスキャンして音声・日本語訳に
高校入試に向けて
1~2年生 保護者・生徒・特別支援教育コーディネーターの定期的な面談
3年生 高校の説明会や体験学習への参加→受験校の決定→主治医の意見書
受験高校と、中学校でのテスト配慮内容について連携→受験
中学校から高校への移行支援
3月末に連携会議をもち、中学校で行った支援や、新たな場で生徒が困るであろうと予想されることやその対応方法について共通理解を図る。
会議構成
中学校 :学年主任、特別支援教育コーディネーター
高等学校:管理職、教務部長、養護教諭、特別支援教育コーディネーター、新1年学年担当
特別支援学校地域支援センターの地域支援コーディネーター
読み書き等に困難のある生徒が安心して学習できる環境を整え支援をすることは、どの子どもにも有効な支援の一つであることを、当該生徒への対応や教職員研修等を通して、共通理解を図っていくことが大切です。
高校入試はゴールではなく通過点であり、主人公である本人の思い、気持ちに寄り添いながら、焦らず準備を計画的に積み上げていくことが大切です。目的は「生徒の学び」であり「社会参加」であることを意識して進めましょう。
上記以外の取組例としては、
- 全校生徒への理解教育の実施
- 3年生になる前に高校入試で希望する合理的配慮の内容を確認しておくことで、3年生になってからの主治医等との連携がスムーズに
- 日々の取組や定期テスト等の実績を記録として残し、合理的配慮に対する主治医の意見書の客観的な資料に
- 教職員の情報共有は、うまくいったことだけでなく、できないことやわからないこと、経過や変化を含めてこまめにすることを意識
等がありました。
