実践例を見てみましょう

授業でのICT活用

 平成28年度から始めた研究は、小学校・中学校の通級指導教室での実践を軸として進め、徐々に通常の学級での授業等における合理的配慮の提供へ、さらに教科教育と連動した授業研究や高等学校での試行へと広げてきました。
 ここでは、令和4年度の研究成果を中心に、授業でのICT活用事例や効果的に進めるためのポイントを紹介します。

多様な学びを保障する授業

 個別に行っていた学び方の変更等を、全員が選択できることにする等、学級全体で行いました。周りとの違いに不安のある児童生徒が安心できるばかりでなく、多くの児童生徒が学びやすくなっています。

学習指導案の画像
第4学年
単元名「伝わる言葉 慣用句」
一斉授業での配慮について、導入からまとめまで記載している。
  • 文字を正確に書くことが苦手で、「板書はないほうが楽。」と話していた児童に対して、カメラアプリによる撮影を提案しましたが、「自分だけ人と違うことはしたくない。」との意向でした。そこで、クラス全員が板書を書き写さなくてもよいことにしました。板書は授業の最後に先生が撮影し、ミライシード(参考1)で全員に配付。児童たちは板書の写真に授業の振り返りを各自がしやすい方法で入力し、先生に提出しました。
    • 参考1 :ミライシードは、Benesseが提供する学習支援ソフト
  • 言葉だけではなく、プレゼンテーションソフトウェア(参考2)を使ってイラストやアニメーション等、視覚支援しながら説明することで、他の児童生徒も集中して授業に参加することができました。
    • 参考2 :文中のプレゼンテーションソフトウェアは、Microsoft OfficeのPowerPointやAppleのKeynote等
  • 高等学校では、感想文を書く際に学級全体でタブレット入力をしてみたところ、複数の生徒が手書きよりもしっかりと文章が書けることが分かりました。
  • 小学校では、分からない漢字の意味をタブレット端末で調べることで、授業をテンポよく進めることができ、読みに困難がある児童だけでなく、多くの児童が授業に集中し、学びやすい環境となりました。
  • 作文等においては、何を書いてよいか分からない、思考が整理できない等、困っている児童生徒も多数います。そのような時は、思考支援ソフトを活用して、一度書く内容を視覚化しています。
画像「思考支援ソフト」
思考支援ソフトのマインドマップ画面が表示されている。中心テーマ「うんどうかい」から「かけっこ」「ダンス」など、複数の枝が広がり、考えを構造的に整理している。

ICTを活用した学習の効果

表現する意欲

 小学校では、手書きに時間がかかり、自分の考えを書いたり話したりすることが苦手な児童が、タブレットにキーボード入力することで、文章で表現することへの苦手意識が軽減されました。また、その機会も増え、話し合いにも参加することが増えました。

語彙の広がり

 言葉の意味をイラストで示したものをスライドで提示する等の視覚支援を行うことで、内容の理解が進み、教材にじっくり向き合うことができました。また、タブレット端末の使用による負担軽減で、語彙に広がりが見られました。

自分に適した学び方

 音声読み上げを聞くだけでなく、聞きながら資料等を突き合わせることが自分にとって学習しやすい方法だと気付きました。

学習意欲の高まり

 ICTを使って入力した文章に対して、担任が「うまく書けたと思うんだけど、自分としてはどう思う?」と尋ねると、「これなら自分が読み直しても分かりやすい」と答えたり、分からないことに対して質問したりするなど、学習に対して前向きな様子が見られるようになりました。

外国にルーツのある児童への支援

 語彙不足を補うために、授業中や個別指導の場において新出の言葉をウェブサイト翻訳ツール(Google翻訳等)で母国語に翻訳しながら意味を確認しました。
 また、音読が苦手なので、宿題で「ペンでタッチすると読める音声付き教科書」を活用しました。

高等学校での実践例 自分で学びをカスタマイズする力を身に付ける

 義務教育段階が修了した後、将来の社会的自立を目指し、困った時に援助を要求することや、自分で自分のためにカスタマイズできる力は大変重要です。
 個々の生徒からの申し出を基礎的環境整備へと進化させている高等学校の実践の一部を紹介します。

教科書の段組の変更

 眼球運動に課題のある生徒は、中学校までは、教員に教科書の段組変更等を作成してもらって学習していました。
 高等学校では、教科担当教員から教科書等のデータの提供を受け、自分でカスタマイズしています(※下の画像)。これは将来、自立していく上で自分に必要なものを自ら求める力の育成に繋がると考えられます。
 データの提供は、ルビを打つことや文字の大きさを自分で変更できるという点で、外国にルーツのある生徒や学びに自信のない生徒に対しても、学びの保障となっています。

2点の比較写真。左側にWord文書で縦書きの文章が一段で表示されている。右側には同じ文書が二段組に変更された画面が表示され、中央に青い右向き矢印があり、レイアウトが一段から二段に変わったことを示している。

動画を効果的に活用

 教科担当者が段組の変更方法の動画を作成し、生徒に共有しています。生徒は必要に応じて、何度でも動画を確認しながら自分で編集を行う等、自分でカスタマイズしています。
 また、授業内容を録画し、生徒と共有しています。欠席生徒やもう一度学習内容を確認したい生徒が、いつでも視聴することができます。
 多様な生徒が自分のペースで学ぶことが出来るようにICTを活用して支援し、学びを保障することに繋げています。

基礎的環境整備と合理的配慮を含む授業改善

情報にアクセスできる環境を提供する

 授業では、ロイロノートと電子黒板を活用し、

  • 板書や配布資料、ワークシート(解答付き含む。)のデータを資料箱に保存する
  • 画面共有機能の利用

を行っています。欠席した生徒、写しきれなかった生徒が可能な時に見返すことができるようにしており、誰一人取り残さず情報にアクセスできる環境ができています。
 また、アプリ等のツールも積極的に活用しています。「使ってみてどうだった?」と生徒に確認しながら授業を進めています。

自己調整できる機会を用意する

 与えられたテーマについてレポートを作成、発表する授業を行いました。記載する情報を収集する方法として

  • インターネットの記事を検索する
  • 動画を視聴する
  • 文献を参考にする
  • 教師の講義を聴く
  • 生徒同士で教え合う

 の中から、自分で学びやすい方法を選べるように設定しました。また、パソコンを使ったレポート作成を基本としましたが、

  • 紙とペンでの作成
  • 口頭でのスピーチ
  • 部分的に絵や図を用いて説明

などの方法から選択できるようにしました。
 学校卒業後の社会では自ら配慮を申し出たり、状況に応じて調整することが求められるようになっていきます。この力をつけ、高めるためには、選択し調整する機会を授業の必然性の中で設定していくこと、生徒自らが具体的な目標(成績や進路等)を目指すことも必要です。
 授業では、評価の基準を伝え、生徒が自身の現状を受け止め、次のステージに向けて自ら取り組み方を調整して工夫することができるよう指導しています。

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