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私たちが丹後で育ったということ、食生活から考える~家庭・地域で受け継がれる料理~

 

私の生まれ故郷は、兵庫県西宮市。
もし豊岡市や朝来市などが故郷であれば、
丹後という場所はもっと身近であったかもしれないが、当時の私にとっては日本海側は未開の地であった。


丹後半島という地域が日本海側にあって、
且つ京都府に属していることを知ったのは
大学生のとき。


私の中の「京都」というのは、清水寺や伏見稲荷、八坂神社といった神社仏閣、全国・世界各地からやってくる観光客で賑わう繁華街、古代日本の文化が築かれた華やいだ都のイメージであり、まず"海"と京都が結びつくことがなかった。


「京都にすごく面白いところがある!」

そう意気込んで話す友人の言葉に惹かれ、彼女についていったことが京丹後との出会い。


神戸から高速バスに乗り込んで、向かった先で見た光景はまるで私が想像していた
「京都」と違っていた。てっきり「京都」のちょっとしたディープな場所にでも行くのかと思っていたら、

目的地に近づくごとに車内から見える風景は幼いころ絵本で見た「日本昔話」の風景と重なる。



私の中の「ステレオタイプの京都」が崩れ去った瞬間と、あまりにも美しい景色に息を飲んだのは同時だった。


季節は、初夏。

一面に広がる田んぼから、緑色の真っすぐな稲穂が伸び、青空とのコントラストがため息が出るほど見事であった。


海辺では多くのサーファーが波と戯れており、頬に当たる潮風が心地よい。


キラキラした海と優しい風が丹後来訪を温かく迎え入れてくれているようであった。


驚いたのは、夜ごはんのとき。

友人の知り合いだという人の家にお邪魔したのだが、次から次へと家庭料理を携えたご近所の人々が集まってくる。

もちろん、初対面の人ばかりである。

あっという間に居間のテーブルは、様々な料理で埋め尽くされた。



「これ、○○農家さんでとれたての野菜やからうまいぞ~」

「この卵、朝うちの鶏が生んだやつ」

「ここの精肉店さんのコロッケは間違いない!」

「刺身と言ったら、ここのやつやな。今日一、新鮮なもの見繕ってもろたから楽しみにしててや!」



目の前で地元の人々が交わす言葉たちが、信じられなかった。

地元と密接な関係にある食生活


手の込んだ料理たちに使われているのは、ほとんどが丹後でとれたものだという。

都市部に住んでいると、食材はほとんどスーパーで買うのでそこに生産者の方との

やり取りは発生しない。また、スーパーは年がら年中同じ食材が手に入るので、

「季節感がなくなってしまう」ということや「旬の食材を意識しなくなる」ということなどがネックな部分だ。


もちろん、ここに限らず便利なスーパーの利用率は上がり続けているだろう。

それでも、こうして地元の人々が集い地元の食材を使った料理を囲む文化が根付いていることに

この土地の豊かさを感じた。

食材そのものが美味しいのはもちろん、久しぶりに大勢でつついた食事は格別だった。


*****

この土地の自然の恵みを受けて育った子どもたちは、やはり「食文化」に関心を持つものだ。

探究学習におけるテーマを設定する際にも複数のグループが「食」に関するテーマを挙げてきている。


今回はその中の「丹後の伝統食」について調べているグループの紹介をしよう。


このグループも初めは「バラ寿司」から入った。

丹後の伝統食っていえば、やっぱりバラ寿司。お祭りや結婚式、お祝い事に運動会など大勢の人が集まるときの定番料理。通常の押し寿司と違い、さばのおぼろを使うのが特徴。昔は焼き鯖をじっくり1時間ほど煮つけて作る人が多かったが、今や時短のためもっぱら缶詰が代用される。


驚いたのが、丹後のスーパーには280グラムの巨大な鯖の缶詰が売られていること。 



バラ寿司の伝統などを調べて、実際に自分たちで作ってみたりもした。

そんな中で、ふと疑問が。

「丹後といえば、バラ寿司ってすぐ出てくるけどそれ以外の伝統料理って何かないのかな?」

チームのメンバーで考えてみたが、どうもぱっと浮かばない。

もしかしたら「伝統料理」にこだわるから
難しいのかも。「家庭で受け継がれている料理」にすれば何か出てくるかもしれない。

そんな風にして少し方向転換をし、
自分たちの家庭で慣れ親しんでいる料理についてご家族にお話を聞いたりもしたが、
他の地元の人にもお話を聞いてみると、面白いかもしれないというところから、インタビューをしてみることに。

お話を伺ったのは、峰山高校のほど近く。地元の人々から愛されるお食事処「ふかたべ」のご主人、隅野さん。
丹後の食隅野さん①.JPG
先ずは、食材の「旬」について教えて頂く。

「旬というのは、主に2つの点から考えられてて。1つは季節

の時々の空や雲、音色などから、五感で感じるものやね。
もう一つは、人間が作った行事
ひな祭りや入学式、卒業式...といったもの。そして、こういった季節や行事と必ずセットになってくるのが、

"食べ物"だね。

その時期に最も美味しい、そしてその時期にしかとれない食材が所謂"旬の食材"というわけ」


春には山菜。夏は枝から成るもの。
秋はきのこ類。そして冬は根っこの食材。

都会に比べると、まだこの地域は生産者と消費者の距離が近いから

何気ない食生活の中で季節を感じることが多いと隅野さんは語る


確かに「蟹の解禁」など、丹後に来て初めて聞いた。

丹後の食後ろから②.JPG 丹後の食対談②.JPG


また日本海側と太平洋側で捕れる魚の種類が異なるため、呼び名は同じでも全国で一般的に知られている物と

丹後の人の認識にズレが生じることもあるという。

例えば、キス。 
全国的には「シロギス」で有名なこの魚、
丹後(特に日本海側)では「オキギス」だったり、一般的には「初鰹・戻り鰹」のことを「本鰹」と呼ぶが、

丹後の本鰹は「ハガツオ・スマ」のことを指している。


隅野さんも料理を勉強するため一度大阪に出ているが、
「これがキス。これが本鰹」と師匠に言われて初めて自分が今まで認識していたキスや本鰹が日本海側では、

違った種類の魚だということに気がついたそうだ。

種類が違うともちろん調理法も変わってくる。外に出て初めて自分たちが当たり前だと思って地元で食べていたものが、実は他の地域では珍しい料理であったと分かるのだ。


また、同じ料理でも使う食材は地方ならではのものであることも。
例えば恵方巻き。丹後ではかまぼこや竹輪を入れることが多いと聞く。
そう言われてみれば竹輪の入った恵方巻は、私の地元では見たことがない。

練物が有名なこの地域ならではなのかもしれない。


そして隅野さんには一つ懸念していることがあるという。

それが「人間が本当に季節に関係のない食材を食べることが良いことなのか」ということ。

人類の祖先は、約200〜150万年前に進化をし始めたとされる

日本における最古の人類は、約3万8千年前から存在していたと考えられており、

弥生時代の頃には現在の人間の体や暮しがほぼ定着しつつあった。
人々はその時々に採れる食材を使った、
つまり自然の摂理に順応した食生活を送ってきた。

そして、時を経て現在。
私達は不自然の中で生きている。

スーパーに行けば、年がら年中同じ食材が手に入る。そして人工的にできた化学調味料の数々。

人類の歴史から見れば、こういった変化が生まれてきたのは、本当に最近のこと。
こういう生活が当たり前になって、もっと年月が過ぎれば、いつか今の状態が人間にとっては合うものになるのかもしれない。

でも今の段階では、やはりそれは違うのではないか。




都会に出て、日々の食生活が変わることで
健康を崩す人が多い、という話もよく耳にするので、変わってきたと言えども
本来の人間に合った食生活ができる丹後の環境は、実はとても貴重なものだと隅野さんは私達に教えてくれた。
丹後の食対談③.JPG

「伝統や家庭で引継がれている料理を残していくために私達にできることはあるのか」と質問したメンバー達に隅野さんがくれたメッセージ。

「伝統を守りたい、と考えてくれる君たちのような存在そのものが大切だと思う。時間がある時はご家族の手伝いをする、といった行為だけでもいい。

後はやっぱり料理が好きだ、とか
食材に関心を持ち続けるのが大事なのではないかな」


最後に丹後の魅力を尋ねてみた。
「島じゃないところがここの魅力。日本の中心(子午線が通っている)でもあるから文化の交流拠点にもなる。

山があって、海もある。
ほどよく雪が降るから水不足にも悩まされない。山から海へ流れてくる栄養のおかげで、魚介類も美味しくなる。
雪は害虫も退治してくれるしね」

そう言って笑った隅野さんからは、地元丹後に対する愛と誇りが真っ直ぐ伝わってきた。

料理することが好きだというメンバー達。
将来的にも何かしら食に関わる勉強や仕事をしたいと話す。

今後は丹後の恵まれた食材から伝統を守りつつ、また新しい時代に合った彼女たちオリジナルの料理を開発してくれることに期待したい。

 
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