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苦悩と希望は紙一重。僕たちは何ができるだろう?~生産者と消費者との交わり~

 

丹後の食に関するプロジェクトに取り組んでいるもう一つのグループを紹介しよう。

「丹後の隠れた名産品」について調べているグループがある。

このグループのメンバーは、テーマを設定する前の段階で共通の地域のある人からお話を聞いたことに

関心を持ったのがきっかけで、チームを結成したという。

メンバーの3人がお話を聞いたのは、
現在、五箇地域で地域おこし協力隊員として活動している関 奈央弥さん。


地域の様々な生産者の方々と連携をとりながら新しい商品開発に挑む関さんの活動に興味を惹かれた。

そして、昨年10月に行われた中間報告会までは食をメインとした「丹後いいとこツアー」のプランを

考えることを目的にプロジェクトを進めてきた。


しかし、これが中々難しかった。
チームメンバーの考えがバラバラで、
ツアーのコンセプトが定まらず、中間報告会では何とも中途半端なプランの発表に
なってしまったのだ。

発表を聞いてくださった人からは
「軸がブレているように感じるので、ツアーを作るのであれば何か一つテーマを絞って掘り下げて、

ちょっとディープな丹後の旅などにした方が面白くなるのでは」とアドバイスをもらったという。

再度メンバーたちは、コンセプトを絞るべく話し合った。

そしてある程度、3人ともの意見が一致したのが「名産品」という分野。


そこで、思い至ったのが1学期にお話を聞いた関さんに再度お話を聞くこと。
今回は、名産品に絞ったことから「生産者側」に視点を当ててお話を聞くことにした。

京丹後では、どんなものが作られているの?
生産者の方々は丹後の食材をどのように流通させているのかな?
そもそも「丹後の名産品」と言われて、ぱっと思いつかないんだけど、どんなものがあるのかな...?


そんな疑問に丁寧に答えてくださった関さん。

お話を聞いたことで、新しい発見があった。

「僕たち自身が丹後にこんなに素晴らしい名産品があったことを全然知らなかった」という事実。
それらの存在を先ずは地元民が知らないというのは、まずいのではないか。

ということから発表のアウトプット先としては、地元の人に的を絞った。

さらにもう一つの視点を加えた。
消費者側だけではなく、生産者側に目を向けてみること。
こうすることで、プロジェクトに更に厚みが出てくると考えたのだ。


関さんの話からは、農家さんなどの生産者側の立場に立つと外に商品を広めたい一方で、

地形や天候、人口問題といった課題をたくさん抱えられている、という現状があることも分かった。

そんな流れの中で、中間報告会以降
新たなプロジェクトとして生まれ変わる。

「地元の人へ丹後の隠れた名産品を紹介しつつ、生産者の方々が抱える課題の解決策を僕たちなりに提案してみよう」プロジェクト。

そうなったら次のステップとしては、
生産者へお話を聞くということだ。

特に丹後の食を広めようと力を入れて活動されている方にお話を聞きたい。

そこで繋いだのが、「百姓一揆」のみなさん。

「百姓一揆」は、多くの生産者の方々が所属する団体(チーム)で、消費者側に生産者の想いを伝えるべく明るく、楽しく、面白く食に関わる活動に取り組んでいる。

子どもたちを対象とした稲作体験や食育、採れたての商品を持ち寄ったマーケットの開催、講演会など幅広く活動されているのだ。

ぜひお話を聞かせてほしいとお願いをすると、何と6人もの人が集まってくださった。
隠れた名産品①.jpg
他のプロジェクトの時もそうだが、
本当にこの地域の人々は教育に熱心な方が多く、お忙しいにも関わらず高校生のためなら!と、

いつも快く支援をしてくださる。 

地域の方々のご協力があってこそ、この探究学習が成り立っているのだ。
本当に有難いことである。

「百姓一揆」のみなさんは、高校生メンバーに会うこと、彼らから話を聞くことをとても楽しみにしてくださっていたようだ。


参加してくださった生産者のみなさんは、お米や果物、野菜類...、と様々なものを生産している。6人のうち、一人の方は元々兵庫県伊丹市出身で、数年前に丹後に移住をしてきて、農家をしているそうだ。他の方々は、生まれ故郷が丹後であり、一度他の地域へ出たものの、丹後で腰を据えようと今は地域の中で、生産者側として精力的に活動されている。


高校生が、実際にお仕事をされていて課題だと感じることについて尋ねると

「課題自体はたくさんある。田舎の人口はどんどん減っていくから、後継者問題なんかも

出てくるし、気候変動の影響をもろに受ける職であるから、自然とどう共存していくのかは、常に考えなきゃいけない。後は、親やその前の世代からずっと農家をやっていて、それを継がなければいけなくて現在生産者をしているのか、自分が好きで農家をしているのか、によっても気持ちの持ちようが全然違ってくるよね。継がなきゃならない、というのが前提にあると、どうしても自分の意思とは関係なく、運命が決まっているようなことは、どうしても出てくるから」


隠れた名産品②.jpg


それでも、話を聞いている6人のみなさんはとても生き生きされていた。

この明るさは一体どこから来ているのだろう?


「確かに農作物を育てることは、すごく大変。休みはないし、生産物が大きくなるまでに

とてつもなく時間かかるし。どう頑張っても自然には抗えへんし、後継者は中々見つからへん。それでも、僕たちは自分たちの仕事に誇りをもって挑んでいる。」


例えば、6人の中に農家をしながら時々猟師としても活躍されている方がいらっしゃったのだが、

人間関係から仕事を頼まれることがあるらしい。


「イノシシがたくさん出るから、ごめんやけどちょっと頼むわ。」


「頼られると俄然やる気は出るし、自分たちで自分達の地域を守っている、という自信にも繋がる。最近、町中でイノシシをあまり見かけなくなってると思うけど、実は獣が町の方へ行く前の段階で、僕たちが防波堤の役割を担っているから。」


私たちの安全や生活の何気ない安心は、農家さんたち(兼猟師)によって守られていたのである。


「百姓一揆」のみなさんから、逆に高校生メンバーにどうしても伝えたいことがある、と。


「こうやって食のことに関心を持ってくれた上に、課題解決の方法まで一緒になって考えてくれようとしている姿勢、僕たちが誠心誠意込めて作っている作物たちを地元の人たちにもっと知ってもらいたい、と動いてくれたその心遣いにすごく感謝したいし、こういうプロジェクト型の授業は、僕たちが学生の頃はなかったから、今君たちがこうして行っている取り組みに羨ましさも感じる。でもせっかくやったら、発表のためにとりあえずある程度"良い"ものを作って、それで以上終了ではなく、失敗しても不恰好でも良いから、これから先もこういった取り組みを続けて行ってくれたら嬉しいな


そして常に欲望に忠実であってほしい。やってみたいと思ったことであったり、関心ごとに関しては、何でもとにかく思いっきり挑んでほしい。やってみて初めて分かることがたくさんあるし、きっと上手くいかないことも出てくるし、興味あると思ったけどやっぱり違うかったかも、と思うこともあるかもしれない。

でもそれで全然オッケー!! 途中で違うな、と思ったら方向転換してもオッケー!!


全ての経験がどこかに必ず繋がっているから、安全な場所に安住するのでなく、固定概念とか、そういったものを取っ払って楽しんでほしいな。そして、出来たらいつか僕たちと一緒に地域をより良くしていくための取り組みをしよう!!」


高校生の多くは、卒業後この町を出ていく。外に出ることで、世界がぐんと広がるから。

積極的に外へ向かっていけばいい。ただ外に出る前にこうして地元の中で繋がった素敵なご縁を大切にしてもらいたい。 外へ出るときは、生まれ故郷に誇りをもって、出れるように。そして、帰ってきたくなった時には優しく迎え入れてくれる町であるように。


離れていても、この町と関わりを持ち続けたいと思ってもらえるように先ずは僕たち大人が、一生懸命楽しんでいる、面白がっている姿を見せたいな、という強い意志と次世代を担っている若者に向ける言葉たちに深い愛情を感じた。


この話を聞いた高校生メンバーは、それぞれどんなことを感じただろう。

課題はたくさんある。しかし、希望もある。


生産者の方々の想いを彼らがどのように伝えてくれるのか、そして問題に対する解決策を彼らはどんな風に提示してくれるのか。


できれば、この授業が終わった後も何かしらの形でこの地域に関りを持ち続けてくれるような取り組みをしてくれたら、これほど嬉しいことはない。


 
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