「声」を作る

先輩からのメッセージ

 今回はグローバルな分野で活躍されている先輩、またそのような社会貢献を目指しておられる先輩からのメッセージを連続で掲載します。
お二人にはグローバルな経験・視点からのメッセージを依頼しました。2022年最大の社会問題は、やはりウクライナ情勢でしょう。くしくも、お二人ともこのテーマについて触れられています。いろんな世代の方と交流する機会が増えるこの時期、在校生の皆さんもいろいろ考え、学びの幅を広げるためにも、じっくり読んで考えてみてください。

今日は、まずお一人目、高校在学中から視野が広く、直面する問題に対しては傍観せず、”自分ごと”として考えることができていた先輩です。クラス内の人間関係から国際問題まで常によく周りが見えていました。定期テストの論述問題の的を射た解答も印象的です。
今回の件を依頼した時もアメリカへの短期出張中で、帰国後すぐに記述してくださいました。選挙権を得る年齢に達した3年生に特に読んで欲しい文章になっています。


 こんにちは 2003年京都こすもす科人文芸術系統※卒業生の大竹伸平と申します。京都大学、同大学院を卒業後、外務省に入省し、現在は、中長期的な外交政策の企画立案を担当する部署で働いています。
※当時は自然科学系統と国際文化系統さらに人文芸術系統の3系統が設置され、その後の学科改編を経て、現在は人間科学系統となっています。

 私が高校2年生だった2001年9月に米国で同時多発テロ事件が発生しました。当時はその背景・影響を十分に理解できていたとは言いがたいですが、テロ組織が国家、それも米国という超大国にとっての直接の脅威となったという点で国際社会に1つの変化をもたらす事件でした。私も、同世代の多くと同様に、この事件をきっかけに国際関係に関心を持ち、大学では国際法を専攻し、今の職業へと至っています。

 現在、国際社会は当時以上に大きな変化の時期に入っています。今年の2月に始まったロシアによるウクライナ侵略については、皆さんも報道等で御存じかと思います。侵略を目的とする戦争、武力の行使は、(世界史の授業でお馴染みのとおり)1928年のパリ不戦条約を経て、第二次世界大戦の教訓を踏まえつつ、1945年の国連憲章において明確に禁じられています。今回のロシアの行為は、このように国際社会が過去1世紀にわたり守り育ててきた国際秩序への挑戦であり、これに対して国際社会がいかに行動するかが、今後数十年の世界のあり方を決めると言っても過言ではないでしょう。

  高校生活では、日々の勉強を始め、学ぶべきことが山積みかと思います。それは同時に、成人、社会の一員となるために必要な知識が揃いつつあるということでもあります。もちろん、外交や国際関係を今後深く学ぶかは皆さんの関心次第ですし、ましてそれを将来の職業にまでつなげたい方は少数かと思います。しかし、この歴史の転換期の先を生きる皆さんにこそ、この先の世界、国際秩序がどうあるべきかを、我が事として考えてもらわなければなりません。

 ウクライナ情勢、あるいは日本を取り巻く地域の安全についても、現在の国際社会が全てに上手く対処できているわけではありません。国際社会は弱肉強食の世界だと、不安に思われる方も多いでしょう。しかし、力の強い国が弱い国を力尽くで従わせる世界が、人々に平和と繁栄をもたらさないことを、私たちは歴史を通じて学んでいます。そして、それ故に国際社会は、ルールに基づく国際秩序を、努力と対話と合意によって築き上げてきました。

 どの国にも一方的なルール違反を許さない、この秩序が十分な力を持つには、それが多くの国に支えられ、そして、それぞれの国が秩序を守る強い意志を持つことが必要です。前者について、外務省では、ルールに基づく秩序を共に支える仲間を増やすべく、国連や有志国グループ、あるいは二国間での議論を日々重ねています。一方で、後者、「国」の意思とは、民主主義国家においては、国民一人ひとりの意思に他なりません。ロシアのウクライナ侵略に対して、日本は当初から強い非難の意思を示し、ウクライナの人々への支援を続けています。この政府の対応も、日本国民からの強い支持があってこそ可能になっています。

 
 皆さんはもとより日本国民ですが、18歳になり選挙権を得た方から、日本という国の意思決定に直接参加することになります(外国籍の方は、それぞれの国との関係に置き換えてください。)。アジアにおいて最初に民主主義や人権の擁護を進め、平和国家として世界の平和と繁栄に貢献してきた日本という「国」の声には、皆さんが思う以上に世界が注目しています。皆さんは、世界が100年に一度の困難を抱える時期に、この「声」を作る立場に立ち、または立とうとしています。世界の出来事を自分自身のこととして捉えるのは中々難しくはありますが、忙しい学校生活の合間に、少し立ち止まって、日本が、世界が取り組むべき課題について考えてみてください。考えるための材料が必要であれば、きっと先生方も協力してくれるはずです。

(よろしければ、外務省が作成している外交青書(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/index.html)も御参考下さい。)

  皆さんの高校生活が、世界に視野を広げ、そのあるべき姿について考えを深める時間となることを期待しています。


(本稿で述べられた見解は著者個人のものであり、所属する組織のものではありません。)