研究の指導助言

学びの多様性への対応
令和5年度 京都教育大学 相澤雅文 教授

学びの多様性への対応

 2017(平成29)年、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」が施行されました。この法律は不登校児童生徒等に対する教育機会の確保を目的として施行された法律です。「多様な学び」の在り方について考える上で重要な基点となっています。
 教育機会確保法は「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)」の設置を進める契機となりました。さらに文部科学省は2023(令和5)年に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策
(COCOLOプラン)」を取りまとめ、全国に300校程度の学びの多様化学校を設置する方向性を示しています。
 令和5年度現在では全国に24校の学びの多様化学校が設置されています。その中の何校かを視察させていただきました。学びの多様化学校で大切にされていることの中に「個々の状況を理解すること」「個と向き合って支援を考えていくこと」がありました。不登校であった児童生徒が、個と向き合った対応で恢復に向かうことが示されていました。
 日本の学校教育は、伝統的に一斉指導が中心となってきました。個別最適化ということばの通り、教育の在り方にもまた、個々の学びの多様性への対応が求められると考えられます。

学生とつくる音声教材

 2019(令和元)年には「視覚障害等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」が成立しました。アクセシブルな書籍・電子書籍等の量的拡充・質の向上が図られることとなりました。自分に あった読書の形が選べるようになったのです。文字・活字文化をバリアフリーにするための法律とも言えます。

 京都府総合教育センター特別支援教育部で取り組まれてきたプロジェクト研究「通常の学級に在籍する読み書きに困難のある児童生徒のICTを活用した学びの研究」は、ICT教材を学びの場に導入することで、個に対応した学習が可能となり、児童生徒の個性や学びの力に適応した方策を具現化してきました。

 東京大学先端科学技術研究センターで近藤武夫教授が取り組まれているAccess Readingは、教科書の音声変換を行う全国的な取り組みです。一方、私たちの取り組みは、各自治体で作成する副読本や、テスト問題などの文章を音声に変換した教材(以下:音声教材)を作成することです。

 京都教育大学には付属施設として、教育創生リージョナルセンター機構があります。総合教育臨床センター(含:学びサポート室)はその中の組織となっています。リージョナル(地域)の中で新しい教育のあり方を創生する役割を担うことを目的としています。

 京都府のプロジェクト研究の一端として、著作権法第37条第3項に基づき、小学校の学校図書館から依頼を受け、通常の教材(印刷物)の利用が困難な児童のための音声教材の作成を行ってきました。具体的には、対象となる児童の教科テスト(市販)の音声教材を本学の学生と共に作成してきました。

 前項では個々の児童生徒の多様性への対応の大切さを述べましたが、教員の皆様の日常的な多忙さを考えると、音声教材を作成する時間の確保の難しさがあります。そうしたことから教材作成を本学が地域資源となって行うことの取り組みでした。

対象児童の使いやすさを大切にして

 教員を目指す本学の学生が音声教材を作成することは、学生にとって多様化への対応や個別最適化の理念を学ぶことに繋がりました。一方、児童にとって音声教材を使用することは自分に合った分かりやすい方法で学習に取り組むことに繋がりました。Win&Winの関係といえましょう。

 対象児童が音声教材に取り組む様子を、担当の先生からフィードバックしていただいておりました。対象児童が利用し易いように、アイコンの色や形をすることや、読み上げのスピードを調整するなど、個々に合わせて音声教材のカスタマイズを行うことを学びました。また、音声教材の使用により、テストに要する時間が半減し、見直しができるようになるなど、心の余裕につながったという報告は、私たちも喜びを共有することができました。

 対象となった児童は、徐々に全ての読み上げ機能を使用するのではなく、自分が困りそうなところだけ使用するようになってきたという報告をいただきました。児童自身が必要なものとそうでないものの選択ができる ようになったことは、自己理解につながったエピソードととらえられました。また、教員側としては、読み取りの困難が軽減されたことから、児童の理解できている部分、そうでない部分がはっきりし、授業改善や新たな支援方法を考えていくことに繋がったということでした。

 テストに要する時間の短縮や、一人で音声教材を操作できたことが自信につながったのでしょうか、別室でテストを受けていた児童が、教室でみんなと一緒にテストをやってみたいという前向きな気持ちの変化が現れてきたとのことです。

最後に

 地域の図書館や学校図書館で、作成した音声教材を管理することで、他のニーズのある児童生徒も活用できるようになります。これからはネットワークを構築することが課題になると考えています。
 Special Needs Educationは特別支援教育と邦訳されます。「特別」なことを、と考えますと敷居が高くなりますね。
 しかし「特別」なことではなく、一人ひとりの個別のニーズに気づき、理解し、その児童生徒に何が必要なのかを考えていくことではないかと思っています。

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