研究の指導助言

読み書きの困難さに関するアセスメントについて
平成28年度 東京大学先端科学技術研究センター 近藤武夫 准教授

 発達障害など、読み書き計算や認知面に偏りのある少数派の児童生徒に出会ったとき、教員が子どもの学び方の特性に対する素朴な思い込み(例:「漢字を書くことが苦手な生徒は全体的な学習能力も低いに違いないだろう」等)にとらわれていると、その児童生徒が本来持っている潜在的な学ぶ力を見過ごし、学ぶ力を低く見積もってしまうことがあります。結果、その児童生徒の学びを深められる可能性を過小評価したり、学ぶチャンスを奪ってしまう結果になることがあります。

 今回のICT活用の実践では、ICTにより、他の生徒とは大きく異なる方法で、読み書きに困難のある児童生徒が、教科書や文章の内容を把握する取組を行いました。また本実践では、読み書きの困難が、その児童生徒個々人の内部に存在するとは考えないことを基本に置きました。そもそも、紙の教科書等を使うことは、現在の教室では当たり前のこととなっています。そのために、読み書き が難しい生徒は、教室での学びに参加しにくい環境が作られているとも言えます。障害のある子どもたちがそこに参加することを想定していない教室環境によって、読み書きの困難が生じているという考え方(障害の社会モデル)に立脚した支援を行いました。具体的には、音声や文字の拡大等、障害のある児童生徒が内容に触れやすいように作られている教材を提供して、指導を行いました。

 ICT利用は、障害のある人々が参加する社会の在り方を、社会モデルの視点から考える上で、良い代表となる例と言って良いでしょう。障害により、印刷物を目で見て読むことが困難でも、音声読み上げや文字サイズの拡大、背景色の変更などのICT利用により、書籍等を読むことができる人が存在します。このように、たとえ他の生徒と異なる方法であっても、個々の障害のある生徒自身が、学びに参加する機会を最大化できるよう、変更・調整することが求められています。

 ただし、学校の教室場面では、「特定の児童生徒に(タブレットの利用など)特別な方法を適用する」ことに抵抗がある教師も少なくありません。
 これまで、児童生徒が「平等であること」とは、「すべての児童生徒が等しい取扱いをされること」であると考えられてきました。つまり、障害から来るニーズのある児童生徒に「個別の異なる取扱いをする」ことは、他の児童生徒との取扱いを異なるものにしてしまうために、あまり認められることがありませんでした。
 しかし、そのようにして通常の学級で障害のある児童生徒への個別の異なる取扱いを断ってしまうと、個別のニーズのある児童生徒は、通常の学級で学ぶことができなくなってしまいます。2016年 4月以降、(学校等にとって過剰な負担でない範囲での)個別の異なる取扱いは、合理的配慮と呼ばれるようになりました。今後、本実践で紹介したような手段が、合理的配慮の当然の選択肢の一つとして、個々の児童生徒への妥当性を考える俎上(そじょう)に上がることを期待しています。

 最後に、特に小学校や中学校の段階では、児童生徒に読み書きなどの極端な困難があっても、それが発見されていないことが少なくない点を挙げておきたいと思います。本実践で紹介したような読み書きのアセスメントは、困難の状況を客観的に把握して、支援につなげるツールとして役立ちます。
 また、アセスメントだけに限らず、個々の児童生徒の学びの状況を、教師の主観的な視点だけではなく客観的に把握することは、教育者としての資質として極めて重要なことです。客観的な証拠(エビデンス)に基づいて児童生徒それぞれが学びを深められているかどうかを判断できる方法論と、個々の教育場面での学びの本質がどこにあるのかを把握できる視点、その両方が教師には必要です。合理的配慮を考えることと、すべての児童生徒への日々の指導を行うこと、その両方に役立つ資質になります。すべての先生方が、これらのことに学びを深めていける機会をみんなの努力で作っていきましょう。

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