プロジェクト研究に参加して
令和4年度 京都教育大学 相澤雅文 教授
個別最適な学びと多要因性
通常の学級に在籍している児童生徒であっても、その学習スタイル(学びの道筋や情報処理・入力様式)は個々に異なると考えられます。これまで、日本で行われてきた通常の学級での教育は一斉指導が基盤でした。そうした中で、『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子どもたちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~』が公示され、個々の児童生徒が、自分の学習スタイルに合った方法で学習内容にアクセスする学びの多様化が課題となりました。
京都府総合教育センター特別支援教育部で取り組まれてきたプロジェクト研究「通常の学級に在籍する読み書きに困難のある児童生徒のICTを活用した学びの研究」は、ICT教材を学びの場に導入することで、画像・動画・音声を組み合わせた学習が可能になり、児童生徒の個性や学びの力に適応した方策を具現化しています。例えば、文字を読み続けたり、話を聞き続けたりといった受動的な学習を、ICT端末を使った主体的な学習や、協働的な学習へと移行する事例が紹介されています。児童生徒の学習スタイルの多様性への対応が、学習意欲の向上に直結することが示されています。文字や教師の説明だけでは伝えにくい情報を画像や動画、グラフ、表などで効率よく「見える化」できることも大きなメリットです。一人一台の端末が手元にあれば、資料を拡大して見ることや、音声変換すること、多くの資料と比較することなど、個々のニーズに合わせた学びが実現できます。
それは、障がいのある(又は、疑われる)児童生徒にとっては、なおさらのことです。一口に学習場面で困難を示しているといっても、その要因は発達障害や認知の特性のみならず、一人ひとりを囲む生活環境やそれまで経験してきたことなど、様々な要因が関連しています。そうした多要因性を理解しながら支援を進めることが大切であろうと考えています。ICT教材の活用も、それを導入する道筋は一人ひとり異なることを意識する必要があること、すなわち、一人ひとりに合わせてカスタマイズする必要があることを、本年度の取り組みから学ばせていただきました、それが、個別最適化された学びの指標となっていくのでしょう。
京都教育大学が取り組んでいきたいこと
ICT教材の活用は、教材教具としてのレパートリーの多様性や、児童生徒が自分の力を十分に発揮できる環境を作り得るという点で非常に魅力的です。プロジェクト研究に参加させていただいた私たちの最大のメリットは、教育現場の先生方の問題意識を知ることと、その問題意識を基盤として作成されたICT教材に触れ一緒に考える事ができたことです。
本学は、教員養成系の大学ですので、教育職として社会に羽ばたいていく学生がおります。そうした学生達と問題意識を共有すると同時に、ICT教材作成のノウハウを身に付け、将来自身のクラスの児童生徒や同僚に、ICT教材を作成し提示できるような人材育成を行いたいと考えています。
令和4年度は、小学校のご協力をいただき、PowerPointと音声変換ソフトを使用してのICT教材作成を行うことができました。参加した学生は、ICT教材作成の実体験を通して感じた思いを次の様に綴っています。
学生A:「今回、ICT教材作成を行い、最も難しかった点は音声を挿入する作業でした。音声変換を行う際、自然なアクセントや聞き取りやすい間のタイミングを模索するため、テキスト入力の仕方を何度も試行錯誤しました。例えば、元の教材ではひらがな表記であっても、日常的に耳にするアクセントに近付けるために漢字表記にする必要がある言葉なども多くありました。同音異義語の多い日本語ならではの難しさでしたが、何度も音声を再生して微調整を行い、最後には教材を完成させることができました。今後、さらに改善を加えつつICT教材作成の力を自分の強みとし、現場での困り感を持つ子どもたちへのサポートの手段の一つとして生かしていけるような教員になりたいと考えています。」
学生B:「ICT教材は作る事が難しく複雑だというイメージを持っていましたが、実際は PowerPointなどの身近なもので作る事ができ、そのイメージが払拭されました。読み上げ機能のイントネーションの違いや疑問文の語尾など、不自然な音声になったこともありましたが、イントネーションは漢字を変えてみることや、疑問文の語尾にはクエスチョンマークを付けることなど、音声変換アプリに入力する方法を工夫することで、より自然に近い音声を作れるようになりました。これは私にとっては大きな発見で、より自然な文章に読み上げるための重要な工夫点だと感じました。テストの問いや選択肢に合わせて音声が流れるマークの色や形を変えたのですが、この点に関してはもっと工夫の余地があると感じています。実際に使ってみた感想を聞いて、今後に生かしていきたいと思います。」
教育現場の先生方、そして東京大学の近藤武夫教授と共に学ぶ機会をいただき、感謝しております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
