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令和2年度卒業証書授与式 校長式辞

 

二年続いた暖冬から久し振りに丹後らしい雪の多い寒く厳しい冬となりましたが、「コロナ禍」で翻弄されている私たちの社会とは違い、時の流れ、季節は巡るという自然の摂理・真理は、絶対のものであるということを痛感いたします。校歌に謳われる天女・羽衣伝説のある磯砂山、そして本校の建つ葦城が丘にも、ようやく遅かった早春の息吹を感ずる頃となりました。

 本日、ここに令和二年度京都府立峰山高等学校卒業証書授与式を挙行いたしましたところ、公私とも御多用の中、多くの保護者の皆様の御臨席を賜り、卒業生の門出をともに祝っていただきますことに、高壇からではございますが、心より感謝を申し上げます。

 ただ今、卒業証書を授与いたしました産業工学科としては最後の卒業生となる三十名、普通科百五十九名の皆さん、御卒業おめでとうございます。今、皆さんは三年前に一方ならぬ決意をして、殊の外、厳しかった高校入試を乗り越え、峰高の門をくぐった日のことを思い出すとともに、学年を重ねるごとに加速度を増す時の流れの速さに戸惑いながら、早くも旅立つ時が来たのだと、改めて実感していることと思います。

 皆さんは、「勉強も、部活も、学校行事も、そして学校生活も、まるごと全部」という表現が相応しく、二兎も三兎も・・・全部を貪欲に追ってくれる人が多く、丹後で一番の活気に溢れた学校を作ってくれました。とは言え、特に、この一年は、学校の臨時休業や分散登校、教育活動への様々な制限、部活動での大会中止、就職試験や大学入試における多くの変更など、抗うことのできない大きな力に翻弄されました。先の見えない暗闇の中で、もがき続けながら、笑顔よりも涙顔、苦悶、苦闘する時の方が多かったことと思います。でも、皆さんは決して潰されることなく、諦めることもなく、しなやかな感性を持って数々の困難に立ち向かってくれました。「私たちには乗り越えられる試練しか与えられない」という言葉のとおり、新たな可能性を追求した峰高祭などの学校行事は無論のこと、希望進路の実現においても、受験は団体戦という言葉のとおり、クラスだけでなく学年全体で闘ってくれた本当に頼もしい学年、歴史と記憶に残る峰高史上最強の学習集団を作り上げてくれました。

 さて、葦城が丘の学び舎から羽ばたく皆さんに、私から三つ、はなむけ(餞)の話と言葉を贈らせていただきます。
 一つ目は、皆さんの入学式で紹介した、皆さんの大先輩である谷垣雄三先生、先生は医師としてアフリカのニジェールという国で、飢餓と貧困に苦しむ人々に四十年近くも医療活動に従事されました。先生は、自らの私財を投じて病院を建設し、年間千件以上の外科手術を行い、高額な医療品は使うことができないため、手術用の手袋は台所用のものを使い、縫合に使う手術用の糸は安くて太いミシン糸、そして弥栄分校、峰山・京丹後市・日本から贈られたタオルは、ガーゼの代わりに使われたと言われます。現地では「ドクター・タニ」と慕われ、ニジェールの「野口英世」と称された谷垣先生こそ、本校の校是・教育スローガンである「求めてやまじ高き理想を!」これを追い求め続けた方であります。先生は残念なことに、四年前に亡くなられましたが、この中から多くの皆さんが、看護・医療の道に進んでくれます。谷垣先生のような「思い」・「志」をもって、人と繋がれる、世界と繋がる人になってくれることを、心より願っております。

 二つ目です。「温かいごはんを囲みたわいもない話この家族の時間大切にしたい」「会話することは少なかったけど帰るときの車で話すことが一番楽しかったよ」「涙もろい母と真面目な父にずっと愛されていたみたい」「いっぱいいっぱい愛してくれてありがとう愛される子になれたかな」これらは皆さんの中で芸術Ⅲ「書道」を選択した人が、「高校生活を振り返っての思い」を表現した書に記された言葉です。例年であれば、この体育館で開催される峰高展を飾る作品で、来場いただいた方々に感動を与えるものでした。残念ながら本年度は一般公開をすることができませんでしたが、特に今年の作品は「コロナ禍」という厳しい一年を紛れもない当事者の一人として過ごした様々な思いや願いが溢れており、いつも以上に秀逸なものが多かったように思えます。そして今、四人の皆さんの作品を紹介しましたが、書かれた思いや願いは、ここにいる皆さん全員のものだと思います。

 最後三つ目は、皆さんに私の大好きな「セカイノオワリ」の「サザンカ」という曲の歌詞の一部分を贈ります。


   誰よりも転んで  誰よりも泣いて
   誰よりも君は   立ち上がってきた
   僕は知っているよ
   誰よりも君が一番輝いている瞬間を

   夢を追う君へ  思い出して  くじけそうなら
   いつだって物語の主人公が立ち上がる限り
   物語は続くんだ

   嬉しいのに涙が溢れるのは
   君が歩んできた道のりを知っているから


 私がこれらのものに改めて「言葉」を添えなくても、私の「思い」を敢えて話さなくても、皆さんが多くのことを感じ、そして確かな「思い」を持ってくれたと信じます。

 後になりましたが、保護者の皆様、本日はお子様の御卒業、誠におめでとうございます。「人間の主観的な時間の経過の感覚は、年齢に反比例する」というフランスのある哲学者が唱えた法則を用いますと、保護者の皆様は、お子様の二倍・三倍の速さで「時」が過ぎ去ってしまったという感覚をお持ちということになります。心を込めて育てられたお子様の晴れの日のお喜びとともに、早くも、お子様の旅立ちの「時」が近づいたという一抹の寂しさも、お感じになられているのではないかと、拝察いたします。例年、本校を卒業する九割を超す生徒が、進学・就職で一旦は地元・親元を離れ、一人での生活に入っていきます。高校が親と子が一緒に暮らすことができる最後の時間となる場合が多いのも、丹後で暮らす我々の宿命・定めでもあります。

 お子様の在学中には、本校教育に深い御理解と御支援を賜りましたことに、心より御礼を申し上げます。お子様が御卒業なされましても、今後とも引き続き、本校教育に温かい御支援を賜りますよう、お願い申し上げます。結びに、葦城が丘の学び舎から羽ばたく皆さんが、「高き理想」を求め続けることを、「まことの道」を求め続けることを、人を憂うことができる真の「優しい人」になってくれることを、心から願いたく思います。そして本日、御臨席いただきました全ての皆様方の御健勝と御多幸を祈念し、さらに今もまだ、私たちの社会に大きな不安を与え続けている新型コロナウイルスの猛威が一日でも早く収束し、変わらない日常、当たり前の日々が私たちに戻ることを、ここにおられる全ての皆様と切に願い、式辞といたします。


令和三年三月一日               

京都府立峰山高等学校 校長 長島雅彦     

 
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