自分自身の大切なこと

先輩からのメッセージ

「進路選択」、 高校時代を通じて最も大切かつ難題です。将来の自分を思い描き、そこへ到達するための距離の長さ、越える壁の高さに呆然としたり、そもそもやりたいことが見つからない焦りを感じたり。いつの時代の高校生もそんな葛藤を感じながら、日々を過ごしています。将来像と現在の思いとのギャップに悩んでいる人も多いでしょう。今回の先輩はそんな後輩に寄り添い、高校生目線で自らの経験からアドバイスをしてくださっています。彼女の高校時代、何事にも真摯に向き合っていた眼差しの先には道が広がっていました。

こんにちは。京都こすもす科人文芸術系統※2003年卒の村山由起と申します。
大阪大学人間科学部を卒業後、現在は、自治体職員として、地域振興やNPO協働などに携わっています。
  ※人文芸術系統は現在学科改編をして、人間科学系統に統合されています。

小天橋

現在の勤務地は日本海に面する丹後です。さて、この写真はどこの写真でしょう(天橋立ではありません)

高校を卒業して早20年。高校生の頃、今のような仕事をしている自分は、想像もしていませんでした。当時、なんとなく、なりたい職業として思い描いていたのは「保健室の先生(養護教諭)」。第三の居場所のような、しんどくなった時に寄り添える人間関係・場所をつくるような仕事ができればいいなと思っていました。

しかし、私の行きたい学部では養護教諭の免許がとれず、資格優先で大学を決めるか、資格を諦めて学びたい分野に進むかに迷い、結局、「高3のタイミングで職業を決めてしまわず、学ぶことを楽しめそうな方を選ぼう」と、資格のとれない「人間科学部」に進学しました。

人間科学部で、心理学・教育学・社会学をベースに、様々な授業を受ける中で、印象に残ったのはボランティア(volunteer)という言葉との出会いです。先生曰く「ボランティアの”Vol”は、英語の“will”、つまり意志をもって活動する人だ」と。「ボランティアとは『(目の前の誰かを)放っておけない・なんとかしたい』思いが行動になったものであり、『公平・平等』とは相容れないものだ」とも。

その言葉に惹かれるものがあって、専攻はボランティア人間科学を選択し、知的障がい児の普通高校進学(インクルーシブ教育)に向けて社会運動に関わるお母さんや、制度化を進める自治体職員に話を聞いて、卒業論文を書きました。

進学校で学び、受験競争に挑んできた自分が、「知的障がい児の普通高校進学」を卒論テーマにとりあげる矛盾を感じつつ、自身が心の底から楽しんだ高校生活を、誰もがそれぞれ満足に経験できるには、社会はどうあれば良いのだろう…と考えながら書き進めました。何が正しいのか、どうすべきか、答えは出ませんでしたが、ただ、知的障がい児の普通高校での受入が限定的にでも実現したのは、声を上げるお母さんや、それを真摯に受け止める教育委員会の職員がいたからこそだと思いました。

「なんとかしたい」思いを受け止め、良い実践を重ねるため、NPOと行政との橋渡し役になれたらと思い、大学卒業後は自治体職員になりました。

最初の部署では、元養護教諭の先生や地域団体の方達と一緒に、ひきこもり相談チームの立ち上げに関わりました。その後の地域活性の部署でも、親子や高齢者の居場所づくりを支援したり、NPOと行政の協働研修を主催したりし、今もそれに近い仕事をしています。振り返ってみれば、高校当時に思い描いていたよりも、理想に近い働き方ができているような気がします。

大学進学時に養護教諭の免許がとれる道を選んでいたら、どんな人生だったのだろうと、時々思います。きっと、また別の充実した時間があったのだろうと思いますが、将来の夢や目標は、見える世界が広がれば、どんどん変わっていくものだと知り、もしも、もう一度、高校3年に戻れたとしても、「学びたい・知りたい」気持ちを優先したいなと今思います。

目標に近づくのもワクワクしますが、目標が広がるのも、とてもワクワクするものです。

これは、まだ保育園児の自分の子にも、伝えていけたらと思うことですが、「未来のために今を犠牲にして勉強する」のではなく、その瞬間、その瞬間に興味を持つものを突き詰めて、その時々に感じる気持ちを大切に、「学び」を深めてほしいなと思います。

たとえば高校の英作文の授業で、日本語のニュアンスを英語で上手く表現できなかったり、反対に英語ではバリエーション豊かな表現があるのに日本語訳は一つだったりするとき、文化が違うってこういうことなんだ…などと感じたことは、バックグラウンドの異なる人と協働するときの糧になっています。ただ一対一対応で単語を覚えるだけでは、もったいない。ぜひ無駄そうに思えることにも思いを馳せて、「学び」を楽しんでほしい。

面白いなと思うことを捨て置かず、一生、学び続けていこう、と、自分に対しての励ましも込めて、高校生の皆さんにお伝えできればと思います。

丹後局

駅からみた職場。北陸ほどではありませんが、冬は雪が降ることもあります。
(運転が苦手なので、雪が降ると列車通勤。ローカル線の維持も深刻な地域課題です。)