3月1日(金)、第76回卒業証書授与式を講堂にて挙行しました。九条家ゆかりの御門を開放し、御来賓や保護者の皆様に御臨席いただく中、3年間の学びを通してたくましく成長した卒業生が、晴れやかな面持ちで思い出の学び舎を巣立ちました。

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「校長式辞」を掲載いたします。

 木々の芽吹きが始まり、春の気配を感じる今日の佳き日に、京都府立鴨沂高等学校 第七十六回卒業証書授与式を挙行するにあたり、本校PTA会長 樋口 幸則 様をはじめ御来賓の方々並びに、保護者の皆様の御臨席を賜り、高壇からではございますが、卒業生、教職員一同とともに厚く御礼申し上げます。日頃より本校の教育に深い御理解と御支援を賜り、誠にありがとうございます。保護者の皆様におかれましては、立派に成長されたお子様の姿に、感慨も一入のことと存じます。御卒業をお慶び申し上げます。

 ただいま卒業証書を授与しました皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんが鴨沂高校に入学された3年前はコロナ禍の渦中にあり、全員がマスクを着用し、不安な心をマスクの下に隠し、御門をくぐって来られたのではないでしょうか。3密回避、黙食推奨や様々な活動が制限された中で高校生活が始まりました。そのような中で、鴨沂高校においては、おそらく中学3年生で実施できなかった学校行事を、先輩達が感染防止に努めながらも生き生きと取り組んでいる姿を見て、「コロナ禍でも、今できることは何かを突き詰めていけば、学校行事もできるんだ」と実感されたのではないかと思います。しっかりと準備して、物事にチャレンジすることの大切さを学んだ皆さんは、様々な場面でその力を発揮してくれました。学校行事はもちろん、部活動においても優れた成果を挙げ、始業式や終業式における伝達表彰者が一層増え、校長として大変誇らしく思っておりました。また、学習や探究活動に真摯に取り組み、こちらも大きな成果を上げました。京都大学で開催されたサイエンスフェスタでの発表、昨年度ロームシアター京都にて実施した本校150周年記念式典における京都文化コースの発表、また「ラスティング京都」の発行など、学習・研究した内容の発信にも力を入れてくれました。そして、自分自身で決めた進路に向け、たゆまぬ努力を続ける姿を見せていただきました。

 今、卒業の時を迎え、進路目標を達成した人、これから結果を待つ人、そして思ったような結果がまだ得られていない人もいるかもしれません。ここで、進路の「進」、「進む」と言う漢字について少し紹介します。「進」という漢字は、「隹」と「辶」の部首から成り立っていることはご存じのとおりです。「隹」はまさに、鳥が羽ばたくように進むイメージです。もう一つの部首「辶」は多くの漢字に使われていますが、もともとは、行ったり止まったりしながら進むという道や歩く事に関することを表しています。高校を卒業する皆さんも、鳥のように羽ばたく時もあれば、時に立ち止まり、あるいは右へ行ったり左へ行ったり、曲がりくねったり、そしてすっと滑り台を滑るかのように進んだりと、いろんな進み方があるんだということを胸にとどめておいていただきたいと思います。大学や専門学校へ進学し、より専門的な勉強をする人、就職して社会人となり、経済的にも、精神的にも自立する人、進む道は異なり、進み方も、進む速度も人それぞれです。自分を見失わず、自分のペースで歩んで行ってください。

 さて、世界ではコロナ禍が明けたものの、各地で紛争が続き、悲しいニュースも絶えません。困難なこの時代において、鴨沂高校は教育目標「世界平和を希求し、すべての人々が幸福になりうる社会をめざして、事実に基づき真理を追究し、それに従って実践しようと努力する人間の育成」を目指し、様々な教育活動を実践してきました。今、卒業する皆さんの心に、この教育目標の灯が光っていると確信しています。この灯を絶やさぬようにするために、これからも皆さんに心がけてほしいと思うことがあります。それは「多様性の尊重」です。高度に情報化された社会である現代において、情報の波に飲み込まれてしまわないよう、取捨選択することも重要です。しかし、自分にとって耳障りのいいことばかりに目を向け続けると、やがて偏ったものの見方、考え方に固執してしまう恐れがあります。さらに、そこから自分と異なる意見を排除しようと言う行動につながり、やがて争いの芽となってしまう可能性もあるのです。物事を一方向からの見方・考え方だけではなく、多方面から、あるいは遠くから、逆にすごく近くからの見方・考え方を取り入れるため、積極的に新たな体験や経験にチャレンジしてみてください。住み慣れた土地を離れ、国内外に出掛けて、見聞を広めることも良いでしょう。そして時に全く異なる見方・考え方にも耳を傾けるようにしてください。それが「事実に基づき真理を追究し、それに従って実践しようと努力する」ことにつながります。様々な違いを知り、認め合う寛容な心、すなわち「多様性の尊重」が「世界平和を希求し、すべての人々が幸福になりうる社会」を目指すための灯りとなるでしょう。この目標は、世界中の大人たちが成しえていない崇高なものであり、こうすれば直ちに解決できるようなたやすいことでは決してありませんが、多様性を尊重して、一番若い大人である卒業生の皆さんと、我々大人たちが手を携えて、目標に一歩でも近づけるような未来を築いていきましょう。

 最後になりますが、皆さんが母校を懐かしく思うときは、遠慮なく訪れてください。鴨沂高校は、これからもずっと皆さんが帰る場所であり続けられるよう、不断の努力を重ねて参ります。卒業生一人一人の御活躍と御健康を、そして何よりもみなさんの「幸福」を心より祈念し、式辞といたします。                                           

                             令和六年三月一日

                             京都府立鴨沂高等学校

                             校長  松井 佳代美