作業療法士からのメッセージ



専門家チーム委員(作業療法士) 加藤 寿宏 



作業療法士の仕事

作業療法はひとの日々の暮らしを構成する様々な作業を治療・援助の手段とし、身体やこころ、発達に障害をもったひとの「生活の自律と適応」を支援します。



作業療法士は軽度発達障害(LD、ADHD、高機能広汎性発達障害など)のある子どもの行動をどのように考えるのか?

私たちは、彼らの抱える困難さの原因を脳機能の視点から考えます。
 脳の話は難しいと思いがちですが、脳は「環境から感覚を受け取り、それを判断・解釈し、行動・運動として表現する」という単純な回路で説明できます。この回路でまず大事なことは感覚の受け取りです。感覚は「脳の栄養素」といわれるほど脳の発達に重要なものです。感覚は一般に五感(視・聴・嗅・味・触)として知られていますが、私たちはそこに運動感覚(関節の曲がり具合、どの方向に動いているかという運動の感覚)と前庭感覚(重力や加速度を感じる感覚)を加えた7つを考えます。感覚の受け取り方は、個人差のみでなく、同じ個体であっても感覚の種類によって違いがあります。例えば、触られるのは敏感(触覚は敏感)だが、ジェットコースターはいくら乗っても平気(前庭感覚は鈍感)というひともいます。
 軽度発達障害のある子どもの多くは、感覚の受け取り方に問題があり、それが彼らの困難さや問題行動の原因となっています。
 「多動」の子どもの中には前庭、運動感覚が脳に入りにくく、「栄養不足」となるため、自分で動いて感覚を取り込もうとする子もいます。「乱暴」な子どもの中には、触られることに過敏で、友達の体が少し触れたことが原因でけんかになってしまう場合もあります。
 「文字を覚えられない」原因の一つに、手がどのように動いているのか感じにくい場合があります。文字を覚えるのも、ただ見て覚えるのではなく、身体の運動で覚えるのです。



作業療法士による支援

このように考えると、「多動」「乱暴」「文字を覚えられない」の原因が見えてきます。「栄養不足」で自分から動いて感覚を取り込もうとしている「多動」の子どもをじっとさせておけば、もっと「栄養不足」になってしまいます。動きが感じとれず「文字を覚えられない」子どもに何度も何度も文字を書かすことは有効でしょうか?
 私たち作業療法士は見える現象に対して対症療法的に支援するのではなく、原因を分析し、その原因に対して支援を行います。多動の子どもには、もっと身体を活動させ、脳に感覚という栄養を与えることで行動の調整を支援します。また文字が覚えられない子どもには、運動感覚が脳でうまく感じとれるよう支援をするのです。
 しかし、多動や文字を覚えられない原因は一つではありません。そのため、詳しい評価と個に応じた支援が必要となります。作業療法士による支援は一人一人の子どもの脳に対応したオーダーメードなのです。



まとめ

現代の子どもの脳は、生活環境の変化によって、視覚・聴覚からは大量に感覚が入り、その他の感覚からは入りにくくなっています。ひとはすべての感覚がバランスよく脳に入ることで健全な発達を遂げるのです。学習の基盤は、子ども時代に7つの感覚すべてを駆使し、身体を動かすことです。身体を動かすことと学習には密接な関係があるのです。
 軽度発達障害のある子どもの示す姿は、私たち大人に現代社会や教育の在り方をもう一度考え直すよう身を挺して訴えかけている気がしてなりません。


目  次 はじめに 構成と使い方

第1部
1.聞くことが苦手 2.うまく話せない 3.読むことが苦手 4.うまく書けない
5.計算が苦手 6.文章題が苦手 7.まわりが気になって 8.わかってるんだけど
9.衝動的に動いてしまう 10.人との関係が 11.コミュニケーションが 12.なにか気になって
・不器用な子ども ・行動上の問題

第2部
・学校体制 ・学校を支援するシステム ・宇治市における取組

第3部
・精神科医から ・小児科医から ・作業療法士から ・臨床心理士から
・保護者から ・保護者の手記 ・Q&A