くみはま探検レポート① 「久美浜」の地名について

 身の回りの探究学習の種を紹介する「くみはま探検」、第1回目は京都府立久美浜高等学校から、京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎へと、学舎に受け継がれた「久美浜」という名前について調べてみました。

 地名としての「久美浜」は、丹後一宮としてしられる元伊勢籠神社に保管されている古文書『丹州熊野郡久美浜村御検地帳』(1602/慶長7年)に歴史上はじめて登場します。以来、(明治27年)の町制施行まで「久美浜」は村の名前として受け継がれ、その範囲はおおむね現在の久美浜一区にあたります。

 「久美浜」は1955年(昭和30年)に熊野郡内6町村が合併した際に、全体の町名に採用され、ここに一郡一町の熊野郡久美浜町が誕生しました。本校は明治35年に熊野郡立農林学校として開校し、大正12年には京都府立久美浜農学校として「久美浜」の名を冠していますが、その当時はこの学舎の場所は熊野郡海部村字橋爪65番地......まだ久美浜ではなかったわけです。びっくりです。しかし、さらに歴史を遡ると、いや、久美浜学舎の場所はやはり「久美浜」であった!と思われる見解も発見。長い歴史のなかで揺れ動く「久美浜」の名の由来を、順番に紐解いてみましょう。

 「久美浜」のもともとの意味は、「久美」の「浜」。「久美」は、日本最古の事典『倭名類聚抄』にも記載される「久美郷」であり、その一地域である「浜」が、もともとの久美浜の範囲であったとみられます。

 「久美の浜」という表記は、中世以前の資料で2例確認できます。ひとつは1285年(弘安8年)に時宗の開祖である一遍上人が丹後の久美の浜で踊念仏を行ったところ、海中より龍の出現を見たという『一遍聖絵』巻第八の記事。もうひとつは1538年(天文7年)の『丹後国御檀家帳』で、久美の浜に500軒の家があったという記述です。

 下の地図を見てみましょう。この地図にある赤い丸の範囲がおおむね『丹後国御檀家帳』に記された16世紀の「久美の浜」です。この範囲に500軒の家があったと想像すると、まるで大都市のようです。
 久美の浜のやや東には「十楽」という恵心僧都源信の『往生要集』に由来する地名が残りますが、歴史学者の網野善彦氏は、十楽は楽市楽座につながる自由な商取引がおこなわれた市場を示すと指摘します。市場が立つ、というのは、それだけたくさんの人が集まった都会の証であり、源信が仏を残した伝承をもつ本願寺の境内に立った市場が発展したものと推定されています。



 では、「久美」という地名は? というと、これは古代に遡ります。

 初出は1987年に奈良国立文化財研究所の調査によって平城宮跡から出土した木簡に「丹後国熊野郡久美里」の記載があり、少なくとも8世紀代の資料で存在を確認できる古い郷名でした。

 『熊野郡誌』では、四道将軍の丹波道主命の刀剣「国見剣」に由来し、「国見(クニミ)」が「久美(クミ)」に変化したと記しています。一方、国語の意味から分析すると、「クミ」には「入り組んだ土地」という意味があり、同じ意味をもつ類音に熊野郡の「クマ」があります。久美浜町は、2004年の合併で京丹後市になる前まで、熊野郡に属しました。

 また、古代、丹後半島で一大勢力をもったとみられる南方系海人族の言葉では、クミの「ク」は接頭語、語根は「ミ」にあり、これは「ミミ」の略語であるため、久美浜は正確には「クミミハマ」ではないかと指摘する研究者もいます。彼らが刳り船を操って山陰海岸を東に勢力を広げ、久美浜湾に到達したのは弥生時代後期から古墳時代前期以前ではないかといわれ、丹後半島においては久美浜湾を一大拠点として丹後海人の中核にいたと考えられています。
 その当時の久美浜湾は、現在、京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎の建つ海士・橋爪集落のあたりまで、海水が入り込み、湾を形成していました。私たちの学舎から見渡せる広々とした田園風景が、かつては久美浜湾の一部であり、「久美の浜」だったのかもしれません。大陸や南の島から海を越えてきた人々がこの場所から上陸したかもしれないと想像すると、なんだかワクワクしてきますね。

 地名「久美浜」について調べた詳細は、オンライン百科事典Wikipediaの「久美浜」に、各記述の典拠を記してまとめました。典拠の資料は、すべて久美浜学舎の学校図書館にあります。みなさんは古今東西の「久美浜」から何を感じとるでしょうか。ぜひいろいろ読んだり、調べたりしてみてください。みなさんの気づきを楽しみにしています。

【参考文献】

  • 『星霜 創立百周年記念誌』京都府立久美浜高等学校創立百周年記念事業推進委員会 2003
  • 『「久美庄から久美浜へ」~中世の久美浜~』平成18年度丹後古代の里資料館秋期特別展示図録、2006
  • 京都地名研究会『京都の地名検証3 風土・歴史・文化をよむ』勉誠出版、2010
  • 澤潔『探訪丹後半島の旅(上)』文理閣1982
  • 吉田金彦、糸井通浩、綱本逸雄『京都地名語源辞典』東京堂出版、2013
  • 上田正昭、吉田光邦『京都大事典 府域編』淡交社、1994

 今回の調査結果はこちらに掲載しています⇒ オンライン百科事典Wikipedia日本語版「久美浜」(初版) 

(かぶと山展望台からみた、久美浜湾の東部 / 20198月)