【オススメブックリスト2021特集vol.16】 伊達深雪学校図書館司書のオススメ本

 私が今回オススメするのは、『ぼくと1ルピーの神様ヴィカス・スワラップ著)です。

 コロナ禍で途絶えている大衆文化のひとつに、「マサラ映画」があります。一般的な映画鑑賞のマナーには「映画館ではお静かに」というのがありますが、マサラ映画は鑑賞中から叫んでもOK、ブブセラやクラッカーのような鳴り物もOK、終幕後には拍手喝采、花吹雪舞うのが定番の、映画の作品世界を鑑賞者がともに全身で味わう映画文化です。一昨年あたりから豊岡劇場の常連と化し、月に5本は映画を観ている私、そのうち映画という文化そのものにちょっと興味を持つようになり、「マサラ映画」というジャンルを知りました。一度実際に観てみたいと思っていた矢先にコロナ禍でどこの劇場でもやらなくなってしまったのですが(最近では「無言上映」といって叫ぶ以外はOKなマサラ風上映会が定着しつつあります。)、このマサラ映画でよく上映されるのがインド映画です。マラサ上映自体がインドの映画館文化でもあるのかもしれません。

 この本は、十数年前にアカデミー賞で8部門を受賞したインド映画「スラムドック・ミリオネア」の原作です。原作者はインドの外交官。

 かんたんに内容を紹介します。日本ではみのもんた氏の司会で知られたクイズ番組「ミリオネア」で、史上最高額の賞金を獲得した少年。しかし、学校にもろくに行っていない孤児が全問正解できるはずがない、と、インチキ容疑で警察に逮捕されてしまいます。取調べで明らかにされる少年のクイズの回答には、インドの貧困層で死と隣合せの選択肢がない人生を歩んできた少年が目にした過酷な現実からの学びがあった......というような、おはなしです。

 インドといえば、インド式計算術などで注目されたこともあるように、理数系学力は世界トップクラス、IT分野ではとっくに日本を追い越したのでは?とも言われる先進国で、人口は135千万人を突破していまや飛ぶ鳥も落とす勢いで成長中のアジアの大国。ですが、その富と恩恵は一部の上位者が独占し、貧富の差も世界トップクラスの発展途上国でもあります。その負の部分はあまり公開されてきませんでしたが、この作品では、その痛ましく残酷な現実も描きつつ、純粋でとても優しい物語が描かれています。

 ぜひ、読んでみて、機会があれば映画も観てみてください。

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