学校紹介

 
 

第47回卒業証書授与式 式辞

 

 ここ平尾山に吹く風に柔らかな春の気配を感じられる頃となりました。
 公私ともに御多用の中、本校PTA・教育後援会会長様をはじめ、多くの御来賓の方々、並びに保護者の皆様の御臨席をいただき、令和四年度京都府立東宇治高等学校第四十七回卒業証書授与式を挙行できますことはまことに光栄であり、高壇からではございますが、卒業生、教職員一同とともに厚く御礼申し上げます。(ありがとうございます。)

 「歩けるを 顔とあんよで喜んで 子は寝る前に 寝るまで歩く」これは昨年、第三十二回紫式部市民文化賞を受賞された本校 鳥本純平 教諭の歌集「葉の上の露」の作品です。子どもの成長を願い喜ぶ親の深い愛情を見事に表現した歌です。 

 保護者の皆様には、この歌のように、お子様の誕生から現在に至るまで、その成長を願い、見守って来られたことと存じます。様々な場面を経ながらも、今日、こうして立派に御卒業されますことに心からお祝いを申しあげます。これからも、お子様が成長され、責任ある成人として自立していかれる様子を、少し距離を置きながらも温かく見守っていただきますようお願いいたします。

 さて、ただいま、卒業証書をお渡しした生徒の皆さん、卒業本当におめでとう。皆さんは、東宇治高校に入学して間もなく、新型コロナウイルス感染症の影響で学校が臨時休業となり、二ヶ月もの間、登校できない日々が続きました。「早く高校の授業を受けたい。」「部活動に参加して汗を流したい。」という思いを募らせたり、「自分は本当に高校生になったのだろうか。」という不安な気持ちになったりした人もいたのではないでしょうか。 学校再開後も授業や学校行事、部活動など様々な教育活動が感染症拡大防止のため、大きく制約を受けてきました。

 しかし、その中でも、皆さんは、学校生活を充実させるために懸命に取り組み、一歩ずつ成長してきました。「総合的な探究の時間」の授業では、一年生で地域の課題について学び、二年生でSDG'sをテーマとして新聞を活用し、国際的な問題について探究学習を深めていきました。また、二年生の研修旅行では、海外から国内へと行き先の変更はありましたが、文理コース、英語探究コースとも英語によるグループ学習で外国の方々との国際交流を見事に行いました。

 そして、高校生活において最初で最後となった昨年九月の文化祭では、「さすが三年生」と感動する舞台パフォーマンスをどのクラスも披露してくれました。部活動においても、日々の練習で自分の技術を懸命に磨き、後輩に対しても丁寧に教えている姿には感心しました。

 皆さんが学んできたように、今の社会では、地元地域から国際社会に至るまで、少子化や貧困、紛争、環境問題など、大きな課題が山積しています。これからの時代は、確かなことが見えにくい「不確実な時代」ともいわれています。皆さんには、東宇治高校の学習の中で学んだ探究の手法を活かす場面がいくつも訪れることと思います。

 柔軟な思考と豊かな着眼点で、課題の本質を見抜き、実際の社会の中で、様々な課題に挑戦し、周囲の人々と関わりながら、自らの課題の解決に向けて努力し続ける人になってください。
 社会へ旅立っていく皆さんに、私から二つの言葉を贈りたいと思います。それは、「誠信」と「希望」の二つです。「誠信」は、「誠」と「信じる」の「信」を合わせた言葉です。

 江戸時代、幕府の招きで朝鮮半島から来日し、諸外国の情勢を伝えた外交使節、「朝鮮通信使」は、長崎から現在の滋賀県などを通って江戸へと往復していました。対馬藩に仕え「朝鮮通信使」に随行した、江戸時代の儒学者 雨森芳洲 は、国によって「しきたり」も嗜好も異なるので、自分たちの基準だけで接しては必ず不都合が生じる。相手国の歴史や習慣、作法などをよく理解し尊重し、「互いに欺かず、争わず、真実をもって交わることこそ、誠信である」と述べました。

 「誠信」とは、誠実さを持ってお互いを認め合い、信頼関係を築いていくことです。そして、朝鮮通信使の「通信」は、信頼を通じ合わせるという意味です。今から三百年も前の江戸時代において、真の国際交流の実現を願った雨森芳洲の「誠信」という言葉に込めた思いを受け継いでいきたいものです。互いの違いを認め合い、人権を尊重し合うことは、私たちの身近なところでも、国際関係においても重要なことです。

 また、「ギリシア神話」の中に「パンドラの箱」という物語があります。プロメテウスという神様は、当時知恵や技術をほとんど持っていなかった人間に、初めて火を与えました。火は神のものであったため、その行為を知った最高の神ゼウスは大いに怒り、プロメテウスに罰を与え、人間も懲らしめようとしました。ゼウスは、パンドラという女性に箱を一つ持たせ、人間の世界に使わせました。パンドラは、好奇心からその箱を開けてしまい、中から災いや不幸、悪などがいっぺんに吹き出し、人間界に広がってしまいました。パンドラが急いで箱を閉めた時には災いはすべて出てしまっていましたが、箱の底の方に一つだけ残ったものがありました。それは万一箱が開けられた時に備えて、プロメテウスが箱に入れておいた「希望」でした。

 人間は、生きている中でいろいろな苦難が待ち受けていますが、それを乗り越えられるのは、「希望」を失わないからだというお話です。未来に希望を持てるのは、人間に与えられた大きな力だと思います。

 東宇治高等学校の教育目標は「みらいを明るくできる人」を育てることです。高校三年間で様々な困難を経験し、乗り越えてきた皆さんだからこそ、多様な人々とお互い違いを認め合いながら連携し、社会の中で不安を抱え、困っている人たちが「よし、もう一度頑張ろう。」と未来に希望が持てるような、社会を築いてくれるものと確信しています。

 最後になりましたが、卒業生の保護者の皆様には、三年間、本校の教育活動に御理解と御協力をいただき、誠にありがとうございました。改めてここにお礼申し上げます。今後とも、本校の教育活動に対しまして、変わらぬ御声援を賜りますようお願い申し上げます。

  希望に満ちた出発の日に当たり、この学舎(まなびや)を巣立ちゆく卒業生の皆さんの前途に、幸多からんことを心から祈念して「式辞」といたします。

                       令和五年三月一日     
                    京都府立東宇治高等学校  
                                     校長 中村 健史    


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