虐待にみる心理的問題
 身体的虐待身体的虐待を受けた子どもに特徴的に見られる心的外傷は、長期にわたる完全な不登校などの「極端な回避的行動」や、対人関係をことごとく拒否するなどの「精神活動の低下」として現れることが多いようです。

虐待を受けた心的外傷体験を想起させるような状況を避けたり、感情の起伏が乏しくなって精神活動全体が低下し、その結果、強い無力感と罪悪感から自尊感情の激しい低下を招き、抑鬱状態となることが多くの事例で報告されています。

 不眠になったり、常に周囲に対してオドオドしたり落ち着きがなくなるといった不安定な状態が見られることもあります。これは心的外傷体験の記憶から自分を護るための防衛であると考えられています。

 また、フラッシュバックと呼ばれる、身体的虐待を受けた心的外傷体験とは無関係なことやほんの些細な刺激によって虐待の体験の記憶が想起され、その記憶の侵入によって、虐待の体験時の感情や状況に戻ってしまう状態があります。
 遊びの中でフラッシュバックを起こして、人が変わったように攻撃的になったり暴力を振るったりすることも見られます。

 ネグレクト(情緒的虐待)−ネグレクトとは、子どもが必要としている情緒的関わりを一定期間、継続して与えないことです。

 子どもは愛着行動をもてる母親、または母親的存在の人と関わることによって初めて他者との一対一の人間的な関わりが可能になります。

 愛着行動がもてない場合には、感情が平坦になり、精神活動が低下して抑鬱状態となったり、相手をかまわず誰彼なしにベッタリするようになることも多くの臨床事例で報告されています。

 話はやや飛躍してしまいますが、児童期や思春期での友人関係においても「浅くてベッタリした関係」が見れます。
 この「浅くてベッタリした関係」でしか対人関係を築くことができない子どもは、愛着行動の獲得においてどこかつまずきを抱えているのかもしれません。
 「深くてアッサリした関係」を築くことが困難な子どもは多くいます。

 愛着の対象をきちんともてなかった子どもは、その結果、他者への基本的信頼感、安心感の獲得が十分でなく、人をこころの底から信頼できにくいのです。
 
 他人と感情を共有する能力が十分に育たず、ベッタリしてくることはあっても、本質的なところで関わりもつことが困難です。

 また、愛着への欲求がありながら満たされない状態が続くと、満たされたい欲望から過食に、満たされない葛藤から拒食に、などと摂食に異常を来たしたり、あるいは商店でやみくもに万引きして自分の部屋に盗品をしまい込むといったような行動でこころの問題が表出されることもあります。

 さらに自分を一定に保つ能力、つまり自律心が育ちにくくなり、その結果、易興奮性、パニックのような状態になりやすかったり、多動、衝動性、暴力などの問題を併せもちやすく、それが自傷行動として表出されたり、非行として現れる臨床事例も多く報告されています。
 
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