教育長過去のエッセィ |
2007.2 |
出張帰りの東京駅で、ふと、一冊の本が目にとまりました。 瀬尾まいこ氏の「天国はまだ遠く」という作品の文庫版です。 自殺志願で丹後に向かう23歳の女性の旅。やがて彼女が辿り着いた民宿で、亭主の大らかな優しさにつつまれ癒され、不思議に自殺を思いとどまり再び爽やかに旅立っていく話です。 昨秋、いじめによる子どもたちの自殺が日本中の衆目を集めました。 原因を追究することももちろん大切ですが、大人たちに必要なのは、子どもたちを大らかに包んでいく優しい地域社会の力ではないでしょうか。 学校や教委が迅速・適切に対応しないような事例は、批難されて当然ですが、例えば「出席停止」というのは、大人の側の究極の対処法にすぎないと思います。より重要なのは、子どもたち自身による、いじめを起こさない空気をつくりだす取組みです。 すでにある地域では、中学生が、いじめを許さないリボンをつける行動などを始めています。 亀岡では、8中学校の生徒会本部役員の交流会が開かれました。生徒たちは「まず自分がいじめないこと、そして勇気を持って、いじめている人を注意することが大切」と話しあい、生徒たち自身の行動が展開されています。 さて、実は、瀬尾さんは丹後にある中学校の国語の先生。しかも、坊っちゃん文学賞や吉川英治文学新人賞にかがやいた、ベストセラー作家でもあります。 そこで、この春に府教委で発行する心の教育の学習資料集「京の子ども 明日へのとびら」にも執筆していただきました。 この資料集には、京都にゆかりのある著名な文化人や府民の皆さんからの子どもたちへのメッセージが詰まっています。それぞれの方々が、次世代のために、渾身の呼びかけをしていただいたものであり、おそらく、全国で初の試みになると思われます。 この資料集が現場で広く活用されて、子どもたち自身がそこから何かを学びとり、自分でしっかり考え行動することを期待しています。教師の指導力の真骨頂が問われるであろうと思います。 冒頭の瀬尾さんの作品は、新春に公開された「幸福な食卓」に続いて、映画化されることが決定しているそうです。爽やかなメッセージが届くことでしょう。 |
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