母校への思いを馳せる

河岸 厚彦 様
京都府立水産高等学校 漁業科 第30期生(昭和58年卒業)

 昭和58年に漁業科を卒業した30期生の川岸と申します。現在、内航と外航両方のケミカルタンカーを運航する海運会社で営業部長を担っております。同社は、60年の歴史を持つケミカルタンカーの老舗の企業で、ここ数年で売上を倍以上にした成長企業です。数年先まで新規の船舶を建造する計画を推進中です。老舗と言う面では、特殊タンカーを継続運航しています。

 京都府立水産高校3年生時、卒業後の進路を大学進学とするか、当時府立海洋センターに就航したばかりの新平安丸という新造調査船に乗船する道か、迷っておりましたが、更に海事の知識を習得したい気持ちが強く、結局進学の道を辿りました。京都府立水産高校から東海大学へ進学した最初の生徒でした。

 大学では、船舶工学を専攻しました。造船を中心とした専門分野の方面には、造船所への就職という道があり、卒業後には大手著名造船所を関西の造船所いずれにも就職が固まりつつありましたが、大学教授の反対を押し切り海運会社へ就職を望み、最終的にはその方向へと意思決定しました。

 70年程続く家業の釣具店と漁業従事者である実家に育ったことも手伝って、幼い頃より海と船への憧れと高校・大学時代の乗船実習経験から、船に乗船する道と船を運航・管理する道を捨てることができませんでした。

 船舶職員養成機関たる水産高校における航海士の知識を大学における造船の知識及び海洋に関する教養が、船舶を運航する海運会社で業務を遂行するに当たり大いに役立っております。

 会社では2年間の乗船経験の間、外航、主に東南アジア航路を約1年ほど経験しました。後の半分は、内航を経験しました。陸上勤務を希望していたことから希望乗船機関より少し早めの上陸、会社勤務を命ぜられました。そうした事情は、従来からあった外航船事業に加え、遠洋航路と近海東南アジア3国間輸送の基礎化学原料輸送の新規事業分野をスタートさせたばかりの当時の局面であり、ケミカルタンカーの乗船経験者が可及的に必要だったからです。始めに工務部門に属し、ケミカルタンカーにメチルアルコールを積載するための前荷揚げ後のタンククリーニング技術を半年で確立、その後東京本社にて外航営業部門に配属、その直後に乗船経験を基にスーパーバイザーとしてシンガポールとインドネシアの間を往復するケミカルタンカーに乗船、難易度の高いタンククリーニングの監督業務とメチルアルコール船積の指導に当たりました。当時24歳でした。

 後の会社の中では、コンテナ物流で構築する国際複合一貫輸送の分野を形にしてきました。また、約20年前に内航の貨物船分野にも進出し、日本最大級の251本積コンテナ船を今年就航させました。今までの就学及び就業生活上経験したことがない管理部門に3年間籍を置き会社内の構造改善に従事した貴重な体験も経てきました。企画開発分野を経験した後、現在は内航ケミカルタンカーと貨物・コンテナ船分野、国際複合一貫輸送分野そして開発も手がける営業第2部の部長職を担っております。

 海運及び海運を取り巻く海事産業は、有史以来日本のみならず世界中に存在する事業です。ITや家電、国際金融、ハイテク産業、エネルギー産業などの世界の経済をリードする主要産業とはいえその歴史は海運に比べ短いものです。

 遥かに長い歴史を持つ海運事業は、世界に海がある限り、また、日本が4周を海に囲まれている限り絶対になくならない事業です。また、人々の生活の支えとなる大事な役割です。

 私は、仕事上何かつらさや苦しさを感じたときいつもこの事実を思い浮かべて心の中で、自らを励ましております。こうして我に返ったとき人類の生存と産業を支える幹であることを再認識し自分の今、向き合っている仕事の重大さと誇りをあらためて日々持ち直しております。

 また、私は今日まで支えた気持ちの在り様は、海と船への“あこがれ”に尽きます。“あこがれ”たものには、心を追従し、決していかなる困難な状況に対しても“あきらめない”と言う勇気が湧いてきます。また、そうした気持ちは、自己表現を可能なものに間違いなく導いていきます。

 今、世界的に海事専業者(マリンクラスター)が決定的に不足しております。船舶に乗り組む船員と船舶職員はもちろん海事関係企業及び公的機関に従事する職員や海事指導者の減少も死活問題です。我々は今、海運及び海事事業者間で、また公的機関と協業して国をも超えて真剣に将来に向け、これらの問題に取り組んでおります。一人でも多くのマリンへの関心を示してくれる、そして、また身を投じてくれる後輩たちを私は切望いたしております。どんな困難な、また、混沌とした世界状況でも有史以来存在し続けている海運業はなくなりません。

 京都府立海洋高等学校は、歴史があることのみならず、昔から生徒一人当たりの設備が相当充実していることが特記できます。私も資料で拝見している範囲での印象ですが、学校内の設備は更に近代化が進んでおり海事の専門的知識を習得するには実就業する前に既に相当程度の経験を積めるほどまでに充実しているではありませんか。また習得或いは取得できる資格やスキルの範囲の範囲もかなり増えております。先輩としてうらやましい限りです。実業の世界にすぐに入っていけるカリキュラムと設備が十分ですから何の不安も無くマリンの業界へ入って行けると思います。

 どうか、若いみんなの純粋な“あこがれ”という気持ちのおもむくまま、自分の指針をステディに未来に向かって設定してみませんか。