学校に行けない状態

 まず大事なことは、「登校できない」という子どものサインを「人に会えないくらいの大きな情緒的混乱や落ち込みの状態が起きている」というように周囲の人たちがしっかりと認識することです。

 しかも「何がなんだかわからないけれど学校に行けない」ということは、理由がはっきりとしないし、言葉にも言い表せないので、余計に辛く、苦しいということを知っておくということです。


 
 登校できない子の混乱や落ち込みがどのようなものなのかというと、例えば、大人の場合で考えると「理由もなく、仕事を何日も何週間も休んでしまう」ということが起こったときの自分の辛さと対比してみると分かりやすいと思われます。

 通常、仕事を持っている大人が、たったの1日でも理由もなく仕事を休まねばならないとしたら、その心労はというとたいへんなものでしょう。
 精神的な落ち込みが相当なものでなければ、そう簡単に休むことはまずないでしょうし、それが何日も続くとしたら、身体に変調をきたしたとしても不思議ではありません。

 さらにそのような状態が仮に1ヶ月も引き続くとしたら、まさに「言葉に言い表せないほどの」辛さ、苦しさであることは容易に想像できます。大人であれば、自分の混乱や落ち込みに対する言い訳や理由づけを後からでも言葉にして伝えることもできますが、子どもの場合、年齢が低いほど、そうはいかないことのほうが多いわけです。

 そして「学校に行けない状態」は、副次的に「勉強が遅れる」「友達がいなくなる」という状態も同時に引き起こし、それに伴う不安も高じて子どもの情緒的混乱と落ち込みは大きなものとなります。

 さらに「こんなことでは将来が心配で・・・・」という親の不安や焦りが子どもの不安の増大に拍車をかけることになります。
 登校できない子の家族も長く続くとイライラしてきますから、学校へ行くように説得したり叱ったりすることにもなります。
 そのような説得や期待に応じられなくて子どもイライラが高じてきますから、暴れたり何かに当たり散らしたりすることも起きてきます。

 それを見た家族はまたイライラしたりビクビクして生活することになりますから、家族のなかで相乗的に不安や緊張が膨らむこともあります(Fig.11)。


こうして登校できない子は、このようないわゆる「心の緊張状態」を回避しようと、周りには一見、「怠け」とも映る過ごし方をすることもあると考えられます。

みんなは学校に行っているのに自分だけは行かないという孤立感、親の期待に応えられない罪悪感からくる「イライラ」を回避するため、登校しなければならない時間には布団から出られなかったり、朝は眠って過ごさないといられなくなったりするわけです。

登校できない子どもの「緊張状態」と「怠けの状態」とを区別をすることは容易ではなく、はっきりと線引きできるものではないと思われます。
Fig.11 「学校に行けない状態
 
 おそらくこのような「学校に行けない状態」にある子どもは、素直であり優しい子どもであり、そして必ずどこか生真面目なところがあるからこそ、このような状態になったのでしょうから、自分で意識して「怠け」ようとしているわけではなく、こころがそのように働いて、「怠け」ざるを得なくなっていると考えた方が当たっているように思われます。
                                           次へ
                                       Indexに戻る