(2) 「虐待された子」への関わり
 
 ア 虐待の発見
 児童福祉法25条では、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、これを福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならない」と規定しており、虐待を発見した者の通告義務が定められています。

 しかしながら、その義務を仮に怠ったとしても罰則規定がないため、その実効性は極めて低いと言わざるを得ません。

 虐待された子どもがその事実を口に出すことは極めて稀であり、また「家庭内のしつけのことはその家族に任せよう」「子どもは親の所有物である」という一般的風潮や「親であれば必ず自分の子どもを可愛がるものだ」といった思い込みによって、家庭内で起こる虐待の事実が明るみになることは稀です。

 夫婦関係の歪みのはけ口としての子どもへの暴力的行為であったり、親の慰みとしていたぶっているとしか思えない事例すらマスコミでは報じられています。
 
 家庭という社会から隔離された場で、泣くことを許されず、殴られ、風呂にも入れてもらえず、食物を何日も与えられなかったり、親による暴力だから逃げることも反抗することもできず無気力になっていく子どもの状況が、ずっと後になってから発覚する事例もあるようです。


 子どもの生死にかかわるような虐待には、児童相談所や保健所、福祉事務所などが危機介入しますが、現行の法制度では親権が強いために子どもの保護は非常に難しいといった課題もあります。

 平成12年11月、児童虐待防止法が施行され、児童相談所に相談がもち込まれた場合、児童福祉司が速やかに児童の安全を確認することが義務付けられました。

 しかしながら、やはりまだまだプライベートな家庭の事情に権力で押し入ることは極めて困難な状況であるのが実状のようです。

 平成14年度、虐待の疑いのある家庭に対する「立ち入り調査」は、全国でわずか230件しか行われていません(平成15年6月25日付、読売新聞朝刊)。
 法の後ろ盾がある児童相談所ですら親子の問題、家族の問題に真正面から介入することは難しいのですから、ましてや学校においてできる虐待への危機介入といえば、ほんのわずかのところしかできないというのが本当のところでしょう。

 しかし、見方を変えると、児童相談所、家庭裁判所、警察などの法的強制力をもっている機関ほど、かえって家庭内に踏み込んでの事実の確認は難しいのかもしれません。

 そのため、虐待の発見という点では、これらの機関に比べると、むしろ学校の方が発見しやすい立場にあるのではないでしょうか。まず、多くの問題がそうであるように、虐待においても早期発見・早期対応が学校における援助、支援の最も重要な局面であると言えます。しつけという名目で与えられる心身に対する親の虐待が重度化、深刻化することを予防することは教師の最大の援助です。


 
 小学校低中学年の子どもならば、安心して話すことができる担任に漏らすこともあるでしょうし、辛かった事実を打ち明けられる担任に話せただけでも救われます。

 放課後になっても帰宅したがらない、担任にひどくべったりと甘えてくるなど、学校での発見のポイントは数多くあります。教師が家庭での様子を知るには、児童福祉司や民生児童委員、地域の子ども会役員など日常的なつながりをもつ人々の協力を得て行うことが大切です。

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