修理の進め方

 

1 はじめに

 
歴史的な建物が現在まで残されてきたのは、定期的に修理が行われてきた結果といえます。しかし、ひとくちに修理といっても、建物の傷んでいる場所や程度でその方法は違ってきます。修理の方法は下表のようにいくつかの種類に分類できます。
解体修理 建物のすべての材料をいったん解体し、再び組み立てる。
半解体修理 柱など建物下方の骨組だけ残して解体し、再び組み立てる。
部分修理 建物の一部分だけ補修する。
屋根葺替 屋根葺材の葺き替えを行う。
塗装修理 漆や彩色の塗り替えを行う。

修理の進め方は、修理の方法や建物の種類によっても違いますが、およそ下図のような手順になります。文化財の修理は、各分野の職人と、修理を監督する保存修理技術者によって進められているのです。

修理の進め方 説明図

それでは、木造の建物の解体修理を例に、修理の進め方について順を追ってみていきましょう。

 
 

2 修理計画~修理着手

 
修理をはじめる前に建物の寸法や破損の様子を調査し、これをもとに修理方法・期間・進め方・費用といった修理計画を決めます。修理計画が決まったら修理に着手します。

修理は素屋根の建設からはじめます。素屋根とは、修理の期間だけ建てておく、修理する建物を覆うような建物のことをいいます。この仮の建物は、修理中の建物を雨や風から守るほか、建物の解体・組立のときの足場や、材料の保管・加工の場所として使われます。

素屋根の骨組には鋼管や丸太など、繰り返し使うことのできる材料が用いられ、これを鳶職とよばれる職人が組み立てていきます。

素屋根の建設 画像
素屋根の建設
 
丸太を使って素屋根の骨組を組み立てているところです。

3 建物の調査

 
建物の解体と平行して、建物に関するさまざまな調査を行います。文化財の修理では、建物の歴史的な価値を確かめ、その価値を損わないように修理する必要があるため、この調査は欠かすことができません。

まず、解体前の調査では十分に調べられなかった建物の細かい部分の寸法や破損の様子について詳しく調べます。また、建物がどのような仕組みをしているのか、どのような技術によって建てられたのかを調べます。さらに、建物がいつ建てられ、どんな改造を受けてきたのかについても調べます。調べるのは建物だけでなく、古文書の調査や発掘調査をすることもあります。

調査の記録 画像
調査の記録
 
記録用紙に材料の形をスケッチし、そこに測った寸法を記入していきます。
 
 

4 建物の解体


建物を建てるときとは逆の順序で、材料を傷めないように一つ一つはずしていきます。

最初に建具や飾金具をはずします。つぎに壁、屋根の順で解体し、建物を骨組の木材だけの状態にします。骨組の木材は、上の方から順にはずしていき、最後に柱を倒します。このあと、場合によっては礎石をはずすなど建物の基礎まで解体します。

なお、すべての材料には番付札とよばれる板札をつけるなど、解体したあとでもその材料があった場所がわかるようにしておきます。

建物の解体は左官・屋根葺師・大工など、建物を組み立てるときと同じ各分野の専門の職人が行います。

解体された部材 画像
解体された部材
 
すべての部材に、部材の名称や位置を記した番付札を取り付けて解体します。

5 修理計画の再検討


調査の結果をもとに修理計画を再検討し、場合によっては修理計画を大幅に変更します。大幅な変更の例としてはつぎのものがあります。

まず、建物が改造を受けていることがわかった場合には、建物の歴史的な価値を高めるために改造前の姿に復原することがあります。

つぎに、建物が構造上の欠陥を持っていることがわかった場合には、現代の技術などを用いて建物の補強を行うことがあります。

このほか、もとの使い方では建物を残していくことができないような場合には、新しい使い方ができるように現代的な設備を取り付けるなどの改造を行うことがあります。

建物の補強の例 画像
建物の補強の例
 
耐震対策のために、天井裏などを利用して補強材を取り付けた状況です。
 

6 材料の補修と加工

 
解体した材料はひとつひとつその傷みぐあいを確認し、再使用するか交換するかを決めます。

ところで、文化財の修理ではもとの材料をできる限り再使用することが原則です。これは、すべての材料が建物の歴史を知るための貴重な情報源であると考えるからです。

このため、一部が傷んでいる材料はその部分だけ補修して再使用します。どうしても再使用できない場合には新しい材料と交換しますが、新しい材料はもとの材料と同じように伝統的な技術を用いて加工したものを使います。また、新しい材料には交換した時代がわかるように焼印などで目印をつけておきます。

補修中の材料 画像
補修中の材料
 
傷んだ部分だけ取り除いて、新しい木材で補っています。
 
 

7 建物の組立~修理完了

 
建物の組立はつぎのような手順で行います。

まず、礎石を据えるなど建物の基礎を整えます。つぎに、建物の骨組となる木材を柱から順に組み上げていきます。骨組の木材が組みあがったら、屋根を屋根下地、屋根葺材の順で葺いていきます。そして、壁下地を編んで、壁土を塗ります。壁土が乾いてきたら、天井板や縁など残りの木材を取り付けます。このあと、建物の塗装、飾金具の取り付け、建具の取り付けを行い、さらに必要に応じて建物の補強や防災設備の取り付けなどを行います。

建物の組立が終わったら、素屋根を解体して修理は完了です。

木材の組立 画像
木材の組立
 
軒先の組み立てが終わり、屋根の骨組みとなる部分を組み立てていくところです。

8 記録の作成


最後に、修理の内容を保存図と報告書という形で記録に残します。

保存図とは、修理した建物の図面のことで、今後この建物を修理するときの基本的な資料となります。保存図は、建物を実際に測ったときの寸法に基づいて作成しますが、曲線を書くためにその線専用の定規を作ったり、烏口や筆を使って墨で仕上げるなど、美しさも追求しています。

報告書は工事の内容と調査の結果を文章・写真・図面にまとめて本にしたもので、保存図と同様、今後の修理で基本的な資料となるものです。また大学や都道府県の図書館に寄贈され、建築の歴史を研究するための資料としても活用されています。

保存図の作成 画像
保存図の作成
 
完成した保存図と、その作成に用いられた道具類の一部です。